編集者・石川裕二の超個人的サイト

FEATURE —特集—

7.「反原発」を現実論にするために

【目次】
1.『フクシマ漂流』〜遠回りの理解〜

2.この本自体が答えを出していない

3.「作家として語らなくちゃいけない」

4.文学作品の町が被災してしまった

5.自分がいいことをしていると思わない

6.水俣市をモデルケースとして考える

7.「反原発」を現実論にするために

  
【プロフィール】

志賀泉(しが・いずみ)
小説家。1960年生まれ。福島県生南相馬市小高区(旧小高町)出身。県立双葉高校卒業、二松学舎大学文学部卒業。2004年、『指の音楽』で太宰治賞受賞。著書に『指の音楽』『TSUNAMI』(ともに筑摩書房刊)。

ブログ「福島県原被災地区の復興に向けて」
http://ameblo.jp/sigahina/



――難しいです。何から考えていけばいいのかが、正直わからないというか。

反原発の方々のエッセイなり本なりを読んでいくと、
行き着くところは「自分の生き方を変えなきゃいけない」
ということなんですよ。

自分もそう思うんですけど。

でも、それはすごい抽象的なレベルの話でしかなくて。
「原発は必要なんだ」というのは現通論だから、
負けちゃうんですよ。どうしても。

たとえばコンビニの電気消費量であるとか、
自動販売機の電気消費量っていうのはね、とても多い。
衛星から見た日本の写真は、
日本地図そのままの形に明かりがついている。

その現状を変えられるのかというと、現実としてすごい難しい。
解決できない問題として、いろいろなものが残るんだろうけども、
それでもどこかで道筋はつくらなくちゃいけない。

抽象論でしかないものを、どうやって現実まで持っていくか。
そうしない限りは、反原発運動もいつか
尻すぼみになっていくと思ってるんですけど。

でも、実際難しいな。すごい難しい。
でも、難しいからこそ、被災地の現場を
ベースにしていかなくちゃいけない。

そこで起きていることは現実だし、
現場の風景が「これなんだ」というところに何度でも立ち返って、
振り返りながら進んでいかなくちゃいけない。

そういうことじゃないかな。


――『フクシマ漂流』の中に、こんな一文があります。「避難者の証言を読むと、避難の途上でみなそれぞれに『幸福とは何か』を考えている。(中略)幸せとは何か。ありふれた問いかもしれない。しかしこの問いは、『原発とは何だったのか』という問いと背中合わせになることで新たな意味を持ち始める。(中略)そしてこの問いは、双葉地方だけではなく、日本人みなに突きつけられた問いであるはずだ。」——志賀さんがこの問いに対して、今考えていることを教えてください。


僕は原発のある町で高校時代、青春を過ごして、
いろんな意味でその恩恵を受けてきた。

そして知らず知らずの内に……というか、問題意識を持たずに
それを受けてきたことに対する、引っかかりがあるわけです。

原発の交付金があることで、自治体がかろうじて
自転車操業をやっているような構造の中に、自分も組み込まれていたのだと。
それが、自分の中に突きつけられている問題でもあり、
原発所在地、原発建設が計画されている土地が共通して抱えている問題です。

それを処理していかないことには、
「反原発」といっても無理があるだろうと。

それを考えていきたい。

僕がおかしいなと思うのはね、米農家の方が
「米だけじゃ食っていけない」と口をそろえて言うんですよ。
米って、日本の主食じゃないですか。

自分の国の主食をつくって金にならないって、どうなのかなって。
農業を主体としてやっている町が、地方がどうして貧困に苦しむのかって。
そこからまず変えていかなきゃいけないと思うんですけどね。

これはあくまで一つの例えですけど、
ここでもう一度農業を見直して、農業に若い者が入っていって、
それで豊かな生活を築いていけるような
地方づくりを考えなくちゃいけないだろうと。

そういう道筋をつくっていけばね、
「反原発」が思想としても現実論としても、
本当に日本に根付くのだと、そう思っています。


仮設住宅の住人でつくっている畑(撮影=志賀泉)


おわり

  

【インフォメーション】
文芸トークサロン
映画 『立入禁止区域 双葉~されど我が故郷』上映会
“原発事故 フクシマからのメッセージ”
日程:2012年10月26日(金)
時間:18:00~20:00
住所:日本文藝家協会(地下鉄 有楽町線 麹町駅1番出口)
料金:¥1,500(当日¥2,000) ※学生・65歳以上の方=¥500引き

※要申し込み。詳しくは同会ホームページへ
http://www.bungeika.or.jp/event.htm

  


※志賀泉さんの著書『フクシマ漂流』の購入を希望される方は下記リンク先へ
http://ameblo.jp/sigahina/entry-11306881920.html


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