編集者・石川裕二の超個人的サイト

素晴らしきかな、ヴィジュアル系

「素晴らしきかな、ヴィジュアル系」第1回 同時代を生きたバンギャル&ギャ男必読! 90年代〜00年代前半のヴィジュアル系を語る特別鼎談(話者:[ kei ]、庄村聡泰、ヴィジュアル博士のる)

連載企画「素晴らしきかな、ヴィジュアル系」のスタートを記念した特別鼎談! 1984年生まれが集まって、青春の記憶――そう、1990年代から2000年代前半のヴィジュアル系バンドについて話しまくる座談会だ!!

メンバーは[ kei ](BAROQUE/kannivalism)、庄村聡泰(ex.[Alexandros])、ヴィジュアル博士のるの3人だ。進行役は、同じく1984年生まれで本メディアの編集者である石川裕二。撮影は、サトヤスさんと同学年でヴィジュアル系が大好きな「Tokyo Reimei Note」のデザイナー(※なんと画家でもある)森田悠介さん! 同世代の5人による座組みでお届けするぜ!

誰もが知っているメジャーバンドの話はもちろん、コアなインディーズバンドの話題や懐かしのダビング交換、あっと驚くバンドマンの交流秘話などが飛び出るので、同じ時代を生きたバンギャル・ギャ男の同志はぜひご一読を!! 最後には、各人が選んだヴィジュアル系バンドのオススメCD10選を載せているぞ。

なお、バンド名には、あえてルビを振っていないので、気になるバンドは検索してほしい! 約1万9000字あるから、じっくり読んでくれよな!!

企画・文=石川裕二
写真=森田悠介


<プロフィール>
[ kei ](けい)
1984年生まれ、神奈川県出身。中学生の頃からバンド活動を始め、2001年にkannivalismの『逝ってキマス。』でCDデビュー。その後、バロック、kannivalism、baroque、BAROQUEを経て、2019年から本格的にソロアーティストとしての活動を始める。8/12にはLINE CUBE SHIBUYA(※渋谷公会堂)でワンマンライブを行う。

https://kei-official.bitfan.id

庄村聡泰(しょうむら・さとやす)
1984年生まれ、神奈川県出身。人気ロックバンド[Alexandros]のドラマーとして活躍。2021年、局所性ジストニアのために同バンドを勇退する。現在は、#サトヤスタイリング”の名義でスタイリスト、”#ショウムライター”の名義で執筆業などを行う。音楽プロデューサーとしての顔も持ち合わせており、幅広い活動を見せる。

https://shomurasatoyasu.bitfan.id

ヴィジュアル博士のる(ゔぃじゅあるはかせのる)
1984年生まれ、栃木県出身。自身がヴィジュアル系バンドとして活動していた経験を生かし、X(※旧Twitter)を中心にヴィジュアル系の考察をしている。ほかにもオムニバスCD「NO VISUAL, NO LIFE」の企画やCălătorie-カラトリア-名義で音楽活動をするなど、ヴィジュアル系への愛はとどまることを知らない。

https://x.com/vr_noru

あいさつ代わりの∀NTI FEMINISM


▲左からヴィジュアル博士のる、[ kei ]、庄村聡泰

――今回は、同年代のヴィジュアル系好きが集まって、ヴィジュアル系について楽しく話そうじゃないかという企画です! ……で、意外に思う方が大勢いると思うのですが、サトヤス(※庄村聡泰)さんがヴィジュアル系にめちゃくちゃ詳しいんですよね。[ kei ]さんもご存知でしたか?

[ kei ]:MUCCの逹瑯さんともお知り合いなんですよね?

サトヤス:はい、よくしてもらっています。

[ kei ]:なので、ヴィジュアル系がお好きらしいという風の噂程度には。僕、[Alexandros]のライブを観させていただいたことがあるんですけど、ドラムがめっちゃいいと思っていたんです。思いつきそうで思いつかないドラムなんですよね。というのも、僕、自分の曲でドラムを打ち込んだりするので。サトヤスさんのドラムって、生ドラムの意味があるフレーズというか。斬新だし、本当にいいなと思っていました。

サトヤス:その感覚は、ヴィジュアル系がルール無用の音楽性だったからというのが大きいです。

[ kei ]:ああ、納得しました。

サトヤス:自分がヴィジュアル系を聴いていたのは、今みたいにジャンルが細分化される前の話なので、本当にいろいろなルーツが混ざっていたんですよね。でも、メイクをして、非日常な世界観さえあればヴィジュアル系、みたいな感じでした。

[ kei ]:あと、出ているライブハウスもそうですよね。

サトヤス:だって、∀NTI FEMINISMとプラが同じヴィジュアル系ですからね。

[ kei ]:そこで∀NTI FEMINISMが出てくるのがガチすぎて(笑)。

サトヤス:超ゴリゴリのハードコアパンクバンドです。

[ kei ]:DIR EN GREYとPlastic Treeとかじゃないからね(笑)。KENZIさん、よろこぶと思います。……あれ、もう20年以上前になるかもしれないけど、∀NTI FEMINISMのライブに出させてもらったことがありますよ。対バンしたときに「ちょっと1曲弾きなよ」みたいな流れになって。

サトヤス:うわ、マジっすか!

[ kei ]:そんなこともありました。∀NTI FEMINISMと言えば、元メンバーのLEAYAさんが在籍しているバンド・妃阿甦の「妃阿甦集会」というイベントもありましたよね。

――いろいろなヴィジュアル系バンドが出演するイベントですよね。

のる:僕、「妃阿甦集会」に出たことあるんですよ。


▲少しドヤ顔ののるさん

サトヤス:すごっ!

[ kei ]:のるさんは、もともとバンドマンだったんですね。

のる:はい、20年ほど前だと思うんですけど……。妃阿甦のメンバーさんとは直接交流がなかったので、ガチガチに緊張しながらライブをして、打ち上げでも座敷の端っこでメンバー5人で固まっていたのを覚えています(笑)。

みんなのギャ男ネーム

――ところで、みなさんのギャ男ネームって、なんでしたか?

[ kei ]:ギャ男ネームってなんですか?

――あ、バンギャル男としての名前のことです。ライブに参戦する時の名前ですよ。ほら、あったじゃないですか!

[ kei ]:ああ、源氏名みたいなやつですね。男の人でもあったんですか?

――ええと、僕は……。

[ kei ]:……。

サトヤス:……。

のる:……。

――ありました。

[ kei ]:本当ですか。

――当時、GACKTさんが好きだったので、別名義にちなんだ「神威〜」を名乗っていました。

[ kei ]:もう一回、今から名乗りましょうよ!

――ペンネームにしますか! でも、ギャ男ネームを知らなかったということは、[ kei ]さんはそういう源氏名的なものはなかったんですね?

[ kei ]:自分はバンドを始めたときのステージネームが「K」だったので、もうそういう名前は必要なかったというか。Clarityと初期kannivalismのときが「K」でした。

サトヤス:[ kei ]さんの口からClarityとkannivalismの名前が出てくるなんて……! くぅ〜〜、たまんないぜ!! 自分はダビング交換のときは「ざっと」と名乗っていました。「ZATT」です。サトヤスの「さと」と、昔好きだった『ウルトラマンタロウ』の宇宙科学警備隊・ZAT(ザット)を組み合わせて。

[ kei ]:全然おしゃれじゃないですか。

――おしゃれすぎるくらいですよ。もっと、こう……。ねぇ、のるさん!

のる:えぇっ!?(笑)

サトヤス:でも、「自分がもしヴィジュアル系バンドをやるなら……」っていうステージネームは考えていて。ローマ字で「SATOYASU」だと、なんかしっくりこない。「さと」をもじる系だと、元MUCCのSATOちさんがいる。「やす」はJanne Da Arcのyasuさんを超えることは絶対にできない。そこでたどり着いたのが、「しょうむらさとやす」をもじった「しょうむ」です。飛翔の「翔」と、「夢」か虚無の「無」で悩んでいて。

[ kei ]:それ、ヴィジュアル系っぽい。

サトヤス:ですよね! おれ、ROUAGEがめちゃくちゃ好きで。ドラマーの方がSHONOさんだったから、ショウムもいいなって。

[ kei ]:SHONOさん、いいドラマーですよね。

サトヤス:本当に。だから、おれ、ショウムです。ショウム。

――夢か無か、どっちにしますか?

[ kei ]:バンドカラーによって、変わってきますよね。密室系なら、絶対に「無」がいいし。

ショウム:そうそうそう、そこ悩みどころです(笑)。

――のるさんは、どうですか?

のる:僕はバンドをしていたときから、この名前だったんですよね。でも、結構ポップな雰囲気のバンドで。その前はコテコテのヴィジュアル系をやりたかったんで、「椿」というステージネームを考えていました。でも、その後、餞ハナむケ。のギターの椿さんがいたこともあり、のるで活動していました。

[ kei ]:そうだ、餞ハナむケ。に椿さんがいましたね!

サトヤス:あと、Madeth gray’llの最初のドラマーの方も椿さんじゃなかったかな……。たしか、『十字架の結末・・・』のときの。

[ kei ]:詳しすぎません?(笑) でも、たしかに90年代っぽい雰囲気がある名前ですよね。おもしろいのは、同じヴィジュアル系でも年代によってステージネームの雰囲気が違うところで。自分の「圭」は、同じ事務所だったDIR EN GREYの京さんや薫さんの影響もあったかもしれない。一方で、PIERROTのキリトさんみたいにカタカナが流行った時期もありましたね。

サトヤス、LUNA SEAとの邂逅

――ちょうど90年代の話題が出たので、当時リアルタイムで聴いていたヴィジュアル系バンドのことをお聞きできればと思います。

サトヤス:おれはドラムを始めたきっかけも、自分の小遣いで初めて買ったCDも、初めて行ったライブも全部LUNA SEAなんですよ。小学校6年生のときかな(※サトヤスさんは早生まれ)。それまではTRFやglobeが好きだったんですけど、LUNA SEAが「DESIRE」で「Mステ」(※ミュージックステーション)に出ていて。それで、もう全てが変わりました。

[ kei ]:あれかな。Jさんがベースをぶっ壊したときかな……。

サトヤス:真矢さんが黒いロン毛でロングコートを着て、革手袋をはめて、宇宙船みたいなドラムセットでワーーーっと紫のドラムスティックを振り回していたんですよ。惚れちゃって。それが全てでしたね。

――おぉ〜〜。

サトヤス:その結果、ドラムを初めて、バンドを組んで、[Champagne]やって、アレキ(※[Alexandros])やって……って、なるんで。だから、自分の人生を変えた曲がドラムから始まるっていうのも、どこか運命を感じますよね。「ダダダ、ジッ!」から始まるじゃないですか。「DESIRE」って。

のる:そうですね。

サトヤス:翌年、真冬の野外でLUNA SEAのライブを観に行くんですよ。そこで、ラストの「FOREVER & EVER」を聴いて、音楽で初めて泣くっていう経験までさせてもらって。LUNA SEAからもらった衝撃は、未だに鮮明に覚えています。


▲着ているTシャツも「LUNACY」

[ kei ]:LUNA SEAのメンバーみんながすごいですけど、当時のRYUICHIさんは特別神がかっていた記憶があります。LUNA SEAとしても、河村隆一としてもブレイクして。歌はもちろん、目が輝いていましたもん。

サトヤス:インディーズで1991年に『LUNA SEA』を出して、92年に『IMAGE』、93年に『EDEN』、94年に『MOTHER』、96年に『STYLE』。で、97年にはソロ活動が本格化していって。1年毎にあの変わりようって、おかしいですよ。すごすぎる。

[ kei ]:“ゾーン”に入っていたんでしょうね。

サトヤス:ですね。小学生から音楽を好きになって、LUNA SEAだけは聴かなかった時期がないです。飽きたことがない。

[ kei ]:今もLUNA SEAをやっていること自体がすてきだと思いますし、ソロでも精力的に活動しているじゃないですか。そういうエネルギーに満ちた人たちが集まって、作曲者も複数名いる。バチバチにいいライバル関係だったっていうのもあったんだと思います。「あいつがいい曲つくってきたぞ、自分ももっと……」って、なりますもん。

[ kei ]とX JAPANとの出会い

――[ kei ]さんとヴィジュアル系の最初の出会いって、どのバンドでしたか?

[ kei ]:小学校3年生くらいのときなんですけど、従兄弟の姉ちゃんがX(※現X JAPAN)を大好きで。うちに遊びに来る度にXのビデオを見せてくれたんですよね。でも、当時はルックスがおっかなくて。ただ、94年に発売した「Rusty Nail」がすごく耳に残ったんです。すると、不思議と今まではおっかなかったルックスもかっこよく見えてきて。歌詞の世界も神秘的かつ背徳感があり、気づいたら自分もX JAPANにハマっていました。

――Xだったんですね。

[ kei ]:そうなんです。それで、CDがほしいなと思って、母と一緒にCD店に行ってアルバムを買ったんです。でも、それが実は『ART OF LIFE』で。

サトヤス:なんてこった〜!(※1曲のみ収録されたアルバム。演奏時間が約30分で歌詞は全て英語)


▲「なんてこった〜!」な表情のサトヤスさん

[ kei ]:母の運転する車で、帰り道に買ったばかりのCDを聴くんですけど、なかなか歌が始まらねーな、みたいな(笑)。ピアノソロも途中に10分くらいあるし。ただ、ライナーノーツに「狂気が〜」とか書いてあって、アー写もかっこいいんですよ。そういう怖いもの見たさみたいな部分があったかもしれないですね。

――LUNA SEAは通りましたか?

[ kei ]:初めて買ったのは『MOTHER』だったかな? シングルの『DESIRE』だったかもしれません。思いっきりハマりました。初回限定盤は、プラスチックケースにロゴが入っていてね。

サトヤス:そうです、そうです!

[ kei ]:新曲は必ず予約して買っていました。

サトヤス:当時はCD店で予約すると、よくポスターくれたなあ。

のる「化粧してなきゃバンドじゃない」

――ポスターありましたね〜〜! のるさんが最初に出会ったヴィジュアル系バンドは?

のる:GLAYの「口唇」からなんです。97年だから、中1ですよね。僕はど田舎の芋くさい中学生で、本当に家の周りには田んぼと森しかないっていうところに住んでいたんですけど。それが、中学生になって行動範囲が広がって、TSUTAYAに通うようになったんですよ。

サトヤス:なるほど。

のる:土曜日になるとTSUTAYAに行って、ランキング番組を観て気になったCDを借りてっていう生活をするなかで、GLAYと出会って。次にL’Arc〜en〜Ciel。次第にヴィジュアル系という言葉を認識するようになり、X JAPANやLUNA SEAをさかのぼって聴くようになりました。

――GLAYとL’Arc〜en〜Cielはすごかったですよね。あとは、『るろうに剣心』のアニメの楽曲に起用されたSIAM SHADEとか。ほかにもPENICILLINの「ロマンス」をクラスメイトがマネするなど、ヴィジュアル系が社会現象となっているのを肌で感じていました。自分ものるさんと同じ感じで、GLAYとラルクを入口にCASCADEやPIERROT、Janne Da Arcにハマっていきました。あとL’luvia。

のる:でも、おかげで「バンドと言ったらヴィジュアル系」みたいなイメージがついてしまって、ミッシェル(※THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)とかブランキー(※BLANKEY JET CITY)が人気だった当時、「化粧していないバンドは、バンドじゃない」みたいな謎の先入観さえ持っていましたもん。

[ kei ]:昔、YUCHI(※sukekiyo、kannivalismのベーシスト)も「速くなきゃ曲じゃない」って言ってたなぁ(笑)。

のる:ヴィジュアル系を好きな人って、多かれ少なかれ、何かしらの先入観を持っていそうですよね。

ヴィジュアル系雑誌と賛美歌

――いや〜〜、ヴィジュアル系との出会いも人それぞれですね。テレビ朝日系列で放送されていた「Break Out」は観ていましたか?

サトヤス:ずっと観ていましたよ。そこでマリス(※MALICE MIZER)やLaputaを知るわけです。

――“ヴィジュアル系四天王”なんてワードもありましたね(※SHAZNA、FANATIC◇CRISIS/現FANTASTIC◇CIRCUS 、MALICE MIZER、La’cryma Christiの4バンドを指す呼称)。

サトヤス:ありましたね〜! でも、それ以上に気になるのが、全国インディーズランキング的な謎のコーナーの存在です。どういうレギュレーションなんだか、全然わからないんですよ。ヴィジュアル系に混じって、ヌンチャク、eastern youth、RHYMESTERらがランクインしていて。でも、あの番組のおかげでLaputaを知り、そこからもっと情報を得たいなと『SHOXX』『FOOL’S MATE』『Vicious』といった雑誌を白黒ページまで読み込むようになり、さまざまなインディーズバンドと出会えました。

[ kei ]:ヴィジュアル系って、フィジカルな媒体と相性がいいですよね。雑誌は、ある種のカタログ的な要素も持ち合わせていて。相対的にバンドの個性が出しやすいんです。毎月ヴィジュアルを変化させてみたり。あとは、推し以外のバンドも自然に目に入ってきますから。僕の場合は、ほかにも『BANDやろうぜ』と『GIGS』も、毎号欠かさずに隅から隅まで読んでいました。でも、サトヤスさんと似ているなあ。インディーズバンドへの入口は僕もLaputaだったかもしれない。『蜉〜かげろう〜蝣』の頃ですよ。大好き。Kouichiさんのギターが超好きで。

サトヤス:わかる〜!

――Laputaで盛り上がっているところ、申し訳ございません! ちょうど雑誌の話題が出たので、のるさんが持ってきてくださった資料を見てみませんか?

サトヤス:わー、すげ〜〜! ファナだ〜〜〜!

のる:『SHOXX』『FOOL’S MATE』『Vicious』『Cure』は毎月買っていました。でも、引っ越しのタイミングで、一度、手放してしまって。最近、それらをまた集めているんです。今日はバロックが載っている号を中心に持ってきました。この号が、たぶんバロックが最初に『SHOXX』に載ったものですね。「EXPECT RUSH」という新人バンドを紹介するコーナーです。

サトヤス:本当だ。(※誌面を見ながら)……あ〜、ChronoSphereね〜〜。


▲「ChronoSphereね〜〜」な表情のサトヤスさん

[ kei ]:ChronoSphereもご存知なんですか? 僕は同じシーンにいたから知っていますけど。

――ここまで話せる人、なかなかいないですよね。初めてサトヤスさんと話したとき、自分が井の中の蛙だと思い知らされましたもん。賛美歌のCDを実家で見つけて写メしたら、当然のように知っていましたし。

サトヤス:元ギターの櫻さんだったかな。たしか、新しくバンドを始めるんですよね。

のる:メジャーデビュー前後まで在籍していた方ですよね。8月に新バンドを組むそうですよ。

――賛美歌のお話ですよね。お二人とも、すごすぎませんか?

[ kei ]:メジャーデビュー前後って、ピンポイントで言えるのがすごい。

サトヤス:メジャーデビューシングルが『スノーフレイクの夜』です。

のる:オフコースのカバーをしたり。

サトヤス:「Yes-No」でしたっけ!? セカンドシングルだ!

[ kei ]:半端ないですね。

のる:賛美歌のデモテープって、今、メルカリで結構高値で取り引きされているんですよ。

[ kei ]:ここまでマニアックな人たちなら知っていると思うんですけど、Réludeっていうバンドがあって。バロックのローディーだったんですよ。デモテープを出していたんですけど、いい曲があって。Réludeは00年代ですけど、90年代はデモテープしか残っていないバンドもいたりしますよね。

サトヤス:デモテープまで掘っていかないと当たらない良さ、みたいなものがありますよね。

猟奇的な世界観にハマったサトヤス

――話がマニアックな方向に行ってしまったので、ここで一旦、話題を変えましょうか。みなさんが中学生時代にリアルタイムで聴いていたヴィジュアル系バンドを教えてください。

サトヤス:おれはコテがすごい好きで。不条理だったり、不道徳なものが好きだったんですね。DIR EN GREYはもちろん聴いていましたし、あとはやっぱ、Matina周辺でしたね。本当、もう、恋をしたら、とりあえず目玉えぐって、冷蔵庫入れて、埋めて、みたいな。

――(笑)。

サトヤス:一番好きだったのはMadeth gray’ll。

[ kei ]:La;Sadie’sの流れですね。

サトヤス:そうなんです。とりあえず、歌詞では人を殺しまくってほしい、みたいな! おれ、ホラー映画も大好きだったんですよ。

[ kei ]:レーベルのカラーってありましたよね。MatinaとSoleil、同じコテコテの雰囲気のバンドでも曲調や歌詞のカラーが違ったり。Matinaが一番猟奇的でしたね。

サトヤス:なんです。で、中学生とかって正月になると、お年玉をもらうじゃないですか。ソッコー新宿行って。ライカ(※ライカエジソン)で買ったらコメントテープがおまけで付いてきて、自主盤(※自主盤倶楽部)だとポラが付いてくるから、どっちでCD買おうかなみたいな。ポイントの貯まり具合とかもあるし。結局、両方で買うんですけど。だから、黄色い袋と黒い袋を手からぶら下げて。

のる:黄色がライカで、黒が自主盤ですね(笑)。

サトヤス:そうそう(笑)。で、正月早々、おれの部屋から猟奇的な歌詞の音楽が流れてくると。親が「こいつ、もうあかんわ」と思ったみたいですね。

――サトヤスさんが話すと、結局、マニアックな方向に向かうという(笑)。

サトヤス:もっと余談がありますよ。Matinaの面々を超える猟奇性を感じたバンドがいて。

――ええと、名前は……。

サトヤス:黒蝪蝶です。『遺書剥奪』『帝王切開』って音源があるんですけど。もう、それを見て「なんだこれは!?」みたいな。「震える拳を突き上げろ」って収録曲があるんですけど、わかります? 思わずジャケ買いしたCDです。音楽性は、猟奇的とはまた違ったジャパメタの匂いも感じさせるバンドだったんですが、それはそれとして楽しんでました。

[ kei ]:黒蝪蝶って雅さん? 違うっけ。そうだよね?

サトヤス:そうです。後にボーカルは躯さんに変わりました。

[ kei ]:GIZZELLEさんがギターだ!

のる:そうです!

[ kei ]:マニアックすぎて時間かかりますって。この範囲だけでも、2時間は喋れますよ。

サトヤス:あと、おれ、ずっとLoz’a≠Veriaの『ガラクタノナカデメザメタクランケ』っていうデモテープを探しているんですけど、見つからなくて。大好きなバンドだったんですけど。久々に聴きたいな。

[ kei ]:いや、オタクだなぁ……。ちょっと舐めていました。ガチの人だ。


▲どこかうれしそうな[ kei ]さん

のる、ElDoradoに出会う

――のるさんは中学生の頃、どんなバンドを聴いていましたか?

のる:僕はサトヤスさんみたいに気軽に都内に出られなかったので、TSUTAYAで借りられる範囲のバンドを聴いていました。GLAY、LUNA SEA、L’Arc〜en〜Ciel、X JAPAN。あとはROUAGEとLaputaもレンタルできましたね。高校生になると宇都宮にある大きなCD店まで行動範囲が広がって。そこで僕、ElDoradoに出会ったんですよ。

サトヤス:そこに行き着いたんですね!

[ kei ]:15歳の頃かな。よくベースの瞬介さんの家に泊まらせてもらっていました。高田馬場AREAとかで対バンもしましたし。「砂の王国」や「サナトリウム」ですよね。

のる:はい。最初、Shock Edgeのオムニバスで聴いて「これはヤバイ」と思って、『AULA』を買って。もう、ずっと聴いていました。

サトヤス:[Champagne]の前に組んでいたバンドで、下北のライブハウスでGLAMOROUS HONEYと対バンしたことあるんですよ。結城さんに声はかけられなかったですけど。

のる:いいな〜! 僕は初めてバンドの握手会に参加したのがエルドでした。男性ファンの参加者が少なかったからか、明らかに男性ファンのときだけ握手時間が長くて(笑)。こっちは乙女の気分になっちゃって、帰っても手を洗わないみたいな。

[ kei ]:ElDoradoは音楽の完成度が高かったですよね。瞬介さんもよろこびますよ。

のる:本当ですか? そうだと、うれしいです。あとは、雀羅やLa’Muleも聴いていました。ほかにも、友人のお姉ちゃんがインディーズバンドに詳しくて、Aliene Ma’riageを聴かせてもらいました。

[ kei ]:Matinaとはまた違った猟奇性を持ったバンドですね。

サトヤス:Aliene Ma’riageの時計型のCD、持ってましたよ。Noir fleurirのデジタル時計のCDとか!

[ kei ]:めちゃくちゃ豪華な仕様でしたね。

サトヤス:わかります!? この会、たまんねぇな〜!

[ kei ]、バンド人生の始まりは……

――[ kei ]さんはリアルタイムでは、どんなヴィジュアル系バンドを聴いていましたか?

[ kei ]:さっきお話しした従兄弟のお姉ちゃんが、La;Sadie’sのデモテープを家に持ってきてくれて聴いていました。X JAPANとLUNA SEAをはじめ、黒夢、L’Arc〜en〜Ciel、Laputa、PIERROTとか。DIR EN GREYは共通言語でしたよね。あとは、中2の頃からライブを始めていたので、曲作りの参考というか、「どんなバンドが流行っているんだろう」と研究する気持ちでいろいろなバンドを聴いていました。Matina、Soleilの両レーベルのバンドとか。Phobiaが超好きで。

サトヤス:おれも好きです。復活ライブ行きましたもん! でも、当時、[ kei ]さんの年代でステージに立っている人っていましたか?

[ kei ]:いなかったです。中学校でバンドをしたかったけど、いなくて。でも、地元に移転前の町田 The Play Houseがあって。そこで、高校生バンドのメンバー募集の張り紙があったので、年齢を言わずに電話して応募しました。それが最初に入ったバンドです。そこで対バンしたバンドにClarityがいました。本格的なヴィジュアル系バンドに入りたかったので仲良くなり、中3のときにClarityに入れてもらいました。Clarityが、オリジナルバンドとしては初めてのバンドです。

サトヤス:その行動力、すごいですね。Vogus Imageのボーカルの昇歌さんが同い年でしたっけ?

[ kei ]:そうです。でも、ボガス(※Vogus Image)をやる前のバンドでしたね。

のる:Miserableですね。

[ kei ]:さすが! Miserableだ。僕がバンドマンになったのが2000年で、中学校を卒業した年ですね。ディルがメジャーデビューした翌年だったな。

――2000年って、私の記憶がたしかであればヴィジュアル系ブームが落ち着き始める頃ですよね。

[ kei ]:ターニングポイントとなる年ですよね。LUNA SEAが活動休止して、L’Arc〜en〜Cielも2000年に出したアルバム『REAL』以降は、一時期、リリースがありませんでしたし。

――それでも[ kei ]さんがヴィジュアル系バンドをやろうと思ったのって、どうしてなんでしょうか。

[ kei ]:以前から好きだったので、自分にとっては自然なことでした。ピークは過ぎ去ったかもしれませんが、決してダサいものではなかったので。

――なるほど。自分はブームが去った以降もヴィジュアル系を好きだというのが、なんとなく恥ずかしくて、それこそ30代になってサトヤスさんと出会うまでは、秘密の趣味だったんです。江戸時代の隠れキリシタンみたいな。

のる:その頃って、パンクバンドを聴く人が増えましたからね。

サトヤス:ハイスタ(※Hi-STANDARD)主催のイベント「AIR JAM」が、ちょうど開かれていた頃ですよ。

[ kei ]:たしかに、そこでちょっと道が分かれましたよね。

サトヤス:「Break Out」が、だんだんヴィジュアル系を取り扱わなくなっていって。スカパンクも出てきたり、そういう時代になっていきましたね。おれ、高1からドラムを始めたんですけど、当時は「HONEY」が叩ける男として有名で、高3のときには「STAY GOLD」(※Hi-STANDARDの楽曲)が叩ける男として有名でした(笑)。

のる:その頃は、みんなハイスタを聴いていましたね。あと、モンパチ(※MONGOL800)とか。自分だけでしたもん、ヴィジュアル系のインディーズを好きでい続けたのは。

サトヤス:洋楽ロックの流れも熱かったな〜。スリップノットやリンキン・パークが出てきた時代でしたよ。

“ダビング交換”の愛しい記憶

――2000年代になると、我々学生にもガラケーを通じてインターネットが普及し出して、自分はダビング交換を始めました。[ kei ]さんの前で申し上げるのは恐縮なのですが、少ない小遣いの学生がいろいろなバンドの音源を聴いたり、廃盤の音源を聴く手段としては、いい文化だったと思っています。というわけで、みなさんがダビング交換で好きになったバンドや曲を教えてください。自分はKraの「ブリキの旗」を聴いて、大当たりだと思いました。

[ kei ]:僕、ダビング交換ってしたことないんですよね。そういう文化があることも知らなくて。

――え!? それは意外です。

のる:たしかに意外ですね。

サトヤス:kannivalismの『逝ってキマス。』とかバロックの『否定デリカシー』は、中古ショップでとんでもない値段がついていたので、ダビング交換で人気の音源でしたよ。

のる:「トリップショートケーキ」や「大好き」は、CDを持っている人よりダビング音源で聴いたことのある人のほうが多いくらいだと思います。

[ kei ]:そうなんですか? それは、そういうサイトがあるんですか?

――「ダビング交換BBS」という、ダビング交換の募集掲示板が複数あったような。「初カキコよろしくお願いします。当方、ラーです。よろしくお願いします」みたいな書き込みをしましたよね。その後、お互いが提供する音源の条件の折り合いがついたらMDやCD-Rに録音して、郵送し合うという形式でした。

サトヤス: Excelで提供音源と募集音源をまとめてね。おれは高校時代に、ヴィジュアル系バンドの音源レビューで有名なブログ「安眠妨害水族館」の管理人・魚がとれたさんとダビング交換をしていました。忘れもしない、keinの『朦朧の実』をダビングしてもらいましたよ。keinと言えば、去年リリースされた『破戒と想像』というアルバムがめちゃくちゃ良かったです。超かっこよかった。

のる:僕、keinは地元のブックオフで、なぜか500円で売られているのを見つけて。しかも2枚あって、「これは持っておかないといけない気がする」と感じて、2枚とも買いました。今でも持っています。

――のるさんって、CDだけでどれくらい持ってらっしゃるんですか?

のる:よく聞かれるんですけど、正直言うと、数える気にならないぐらい持っていて。ヴィジュアル系バンドだけで、CDが50枚入るケースが100はありますね。昔は生活費を削り、具のない焼きそばを食べ、エアコンもつけずに節約してCDを買っていました。さすがに、今はそういうわけにもいかず(笑)。

サトヤス:のるさんが探し続けていて、入手できていない音源ってあるんですか?

のる:聴いたことがないものはなんでも聴くという精神なので、一通り手は出していると思うんです。ただ、やっぱり、高価すぎる音源は手を出しにくいです。たとえば、自分がギャ男になったときからプレ値がついているのは、L’Arc〜en〜Cielの『Floods of tears』です。人生で1回は手にしたいと思っているんですけど。

サトヤス:貴重音源と言えば、バロックのソノシートもありましたよね。あれ、どうしてソノシートだったんですか?

[ kei ]:『投身台』ですよね。ソノシートって、なんかおもしろいよねみたいな雰囲気だったと思います。

のる:同じ貴重音源で言えば、デモテープ『否定デリカシー』のジャケットがタバコの箱のようなデザインでしたね。バロックのお陰で、ジャケットデザインの自由度がグッと広がったように感じました。

バロック誕生の瞬間

――ちょうどバロックの話題が出てきたので、バロックについて話しましょうか! バロックが出てきたときっていうのは、みなさん覚えていますか? 僕は『SHOXX』か『FOOL’S MATE』のどちらかの編集後記で、kannivalismの解散とバロック結成について触れていた方がいて、それでチェックし始めたんですよね。

のる:バロックの衝撃ですよね。それだけで2時間語れますよ。ちょうど今、Xで「お洒落系について本気出して考えてみた」というシリーズのポストをしているんですけど。

サトヤス:あれはね、つぶやきじゃない。もはや論文。

のる:(笑)。

サトヤス:バロックについては自分も思うことがあって。海外で例をあげると、プログレが1970年代後半に流行っているんです。で、10年満たないぐらいでブームが去っているんですけど。でも、その後に、いわゆるスーパーバンドと呼ばれるものが結成されるんです。「え、あのバンドの誰々と、このバンドの誰々が一緒に組むの!?」という衝撃。それが、おれにとっては、まさにバロックとメリーで。と言うのもおれ、Shiverが大好きだったんですよ。

[ kei ]:ShiverもAfter effectもかっこよかったですよね。完成度がすごく高かったし。

サトヤス:Shiverは、デジロック+PIERROTみたいな。ツインギターの絡みがすごくおもしろくて!

[ kei ]:そうそう、そう!

サトヤス:Shiverのギターの結生さんがメリーを組んで。しかも、そこにはSyndromeの健一さんもいて。もう一方のギタリスト・晃さんはバロックを組んで、そこに万作さんがいるのね、という!

[ kei ]:その視点で話せる人いないですよ。すごい!

サトヤス:一大ムーブメントが落ち着いたときに起こるアッセンブル的なものというか! こっから第二幕が始まるんだな、という印象でした。リスナーもビックリしたと思うんですけど、たぶん、業界全体が驚いたんじゃないですか。

[ kei ]:第二幕か。たしかに、そういう雰囲気というか空気感だったかもしれないです。そのなかで、怜と僕はキャリアのあるバンドの出身ではありませんでしたけど。

――とは言え、初期kannivalismは解散直前になって注目され始め、その2人の次のバンドがバロックでしたから、一気に火が着きましたよね。

サトヤス:ヴィジュアル系の発端って、BOØWY的なビートロックというか、超“縦”の音楽だったはずなのに、バロックとメリーは“横”に揺らす曲をつくったじゃないですか。あれは期せずして偶然生まれたんですか?

[ kei ]:それはね、Shiverからの流れだと思います。「あなくろフィルム」「飴玉」「tight」って、原曲はShiver時代からあるはずなんです。それが、バンドが変わり、メンバーが変わることでアレンジにも変化が起きたのかなと。

サトヤス:今日、「あなくろフィルム」を聴き直してきたんですけど、ツインギターの絡みはマジでShiverですもんね。

[ kei ]:そうなんです。僕はバロックに最後に加入して、一番年下ということもあって、絡みもある程度指定されていたんですよね。最初、怜がkannivalismからバロックに引き抜かれたんですよ。

――おぉ、それは知りませんでした!

[ kei ]:逆に、おれもガラさんからメリーに誘われていました。最終的には、kannivalismで怜とやっていたのでバロックで、となりましたけど。

サトヤス:みんな、スーパーグループを組みたかったんだ!

[ kei ]:これはあくまで個人的な推測ですけど、メリーの初期の楽曲にもShiver時代から原型のある曲が存在すると思うんですよね。

サトヤス:バロックは「あなくろフィルム」なら、メリーは「チック・タック」とか……?

[ kei ]:似た香りがしますよね。

サトヤス:そう! だから、あの2曲のリズムが横だぞと思って!

[ kei ]:たぶん、晃くんと結生さんがシャッフルやりたいとかあったんじゃないですか。あの2人、BUCK-TICKがすっげぇ好きなんですよ。

サトヤス:なるほどね〜〜!

[ kei ]:だから、BUCK-TICKの感じもちょっとあるじゃないですか。

サトヤス:わかります、わかります。そう言われると納得。おれのなかでヴィジュアル系のシャッフルっていうと、LUNA SEAの「IN MIND」とか「STEAL」しか聴いたことなかったんですけど。「あなくろフィルム」あたりのリズム感って、どの辺を参考にしたんでしょうね。

[ kei ]:晃くんのアイデアなのかな。もしくは、ナルくんっていう初期のドラマーが理論的に叩く人だったから、どちらかのアイデアだったかもしれないですね。

サトヤス:ナルさんのドラムも好きだったなー。

のる:シャッフルのリズムって、ジャズ、カントリー、R&Bとかが起源じゃないですか。でも、ハードロックを辿っていくと、ヴァン・ヘイレンとかミスター・ビッグのアルバムにもシャッフルが1曲入っていたりして。日本だと、XやBUCK-TICKの曲にもありますし、ロックにジャズの要素をプラスして、2000年あたりから流行り出したんじゃないかと推測しているんです。

サトヤス:それもあるし、マリリン・マンソンも……。

[ kei ]:そうそう!

サトヤス:マンソンのヒット曲が、基本的にシャッフルなんですよ。

[ kei ]:その流れはでかいと思います。バロックの前身のkannivalismもそうですけど、同じ時代にいたバンドの蜉蝣も、少しニューメタルの香りがするじゃないですか。リンプやコーンなどのミクスチャーっぽい空気というか。あとは、晃くんがああいうシャッフルの曲調が得意だったので、自分は「独楽」みたいな……“変態ラップ”と呼んでいるんですけど。Aメロでラップのように喋って、サビで急に転調するみたいな。そういう曲があまりなかったので、「独自のものを」と考えながら意図的につくっていました。

椎名林檎とバロック

――いやぁ、貴重なお話が盛りだくさんだ……!

[ kei ]:今思い出したんですけど。怜と当時話していたのは、椎名林檎さんの影響です。

サトヤス:そっか……! みんな憧れてた。

[ kei ]:歌詞の世界観やヴィジュアルに通ずる部分があると思うんです。歌詞なら、「歌舞伎町の女王」と「イロコイ」とか。

――あぁ。当時、椎名林檎さんとバロックの両方が好きという人も少なくなかったでしょうね。

[ kei ]:バロックは、そこに90年代の雰囲気とミクスチャーの要素をプラスして。

サトヤス:超っっっ合点がいく。

のる:バロックって、サビのメロディーがしっかりしているじゃないですか。つまり、90年代の要素があるんですよね。だから、新しいことをしていても受け入れられたと思うんです。サビまでマンソンみたいにメロディーがあまりなかったら、また少し未来が変わっていたかもしれませんね。

――バロックが原宿ファッションを衣装に取り入れたのは、どうしてだったんでしょうか。初期のkannivalismの頃から、その雰囲気はありましたよね。

[ kei ]:僕がバンドマンを始めたのは2000年ですよね。その頃のインディーズシーンって、DIR EN GREYの影響が圧倒的だったんです。エナメルか血糊か、ぐらいの。でも、怜と僕ってまだ16歳とか18歳とかだったんで、エナメルで着飾っても大人ほどかっこよく見えないと思ったのが一つあるかもしれませんね。対バンをしたときに、もっと若さを生かさないと目立てないなと思ったんです。

――かしこい……!

[ kei ]:あとは、怜と僕が服好きだったのもあって、しょっちゅう原宿に遊びに行っていて。当時はボディピアスが流行っていました。ヴィジュアル系に馴染みのあるファッションブランドだと、h.NAOTOやBA-TSUが人気でしたね。

サトヤス:BA-TSUね。「-I’ll-」のPVで京さんが着けているやつね。

[ kei ]:原宿に売っている服で、ギリギリ私服なのか衣装なのか曖昧なところっていうのはマネしやすいだろうし、自分たちの若さも生かせるだろうという発想はありました。kannivalismのとき、h.NAOTOでフライヤーをつくってもらったんですよ。普通のフライヤーじゃなくて、少し小さめのオリジナルのフライヤーを。それを、アパレル店にいっぱい置いてもらったんです。そのときから、ファッションとヴィジュアル系の融合みたいなことが始まり出した気がします。バロックはファッション誌の『KERA』にも取り上げていただいて。

サトヤス:伊達メガネやハット、ストールなどを持ち込んだのは……?

[ kei ]:ストリートカルチャーからの流れですよね。でも、それって、バロックが結成してから半年くらい経った頃かもしれません。本当の初期って、ID-JAPANさんにお願いしていたので。

サトヤス:ID-JAPAN。憧れだったな〜〜。カラコンはどうです?

[ kei ]:カラコンはどうだったろう。怜がしていましたよね。でも、ひっつー(※NIGHTMAREのギタリスト・柩さん)も同時期にしていたからな〜。どっちが先かはわからないですけど、みんな仲間だったから。仲間内で「あそこで海外のカラコンが売っているらしい」とか話したり、情報をシェアしていました。一時期、蜉蝣でベースを弾いていた元Clarityの喰耶はピアスに詳しかったり、現在はheidi.でドラムを叩いている元kannivalismの桐くんもいろいろと詳しくて。マニアックなやつらが集まっていたんですよ。

同じ時代に出会えたバンド仲間たち

――全て人間関係なんですね。

[ kei ]:MIYAVI兄との出会いも大きいです。向こうが3つ年上なんですけど、同じギタリストとして、どうすれば目立てるのか話し合ったり。

サトヤス:おれがヴィジュアル系をやらなかった理由が、そこにあるんですよ。おれが一番憧れるスタイルのヴィジュアル系の人って、まさに[ kei ]さんとMIYAVIさん。最近でいうと、キズのユエさんとか。昔から大好きなのはディルのToshiyaさん、だから、鏡を見て、やっぱね、むりかなって……おい、何笑ってんだ!

のる:ごめんなさい(笑)。これ聞くの5回目くらいで。もう大好き、この話(笑)。

――(笑)。そろそろ時間が迫ってまいりました。バロックの話を中心にしてきましたが、ここで2000年代前半の総括をできればなと。あくまで私の主観なのですが、00年代前半を中心に活動していたバンドはメジャーデビュー組が少なく感じ、勝手にヴィジュアル系の冬の時代だと思っていました。……が、こうして振り返ると、当時の音源を今も聴き続けているくらい好きなバンドがいくつもあります。っていうか、自分の青春まっさかりなんですよね。それに、今も活動を続けているバンドもいくつもあって。cali≠gari やMUCC、NIGHTMAREをはじめ、Waiveやwyse、deadman、Psycho le Cemuなどなど。要は、厳しい時代を生き抜いたバンドの底力が令和の今、表れているのかなと。みなさんの考えでは、ヴィジュアル系シーンの00年代って、どんな時代だったと思いますか?

サトヤス:おれはそのくらいの時期に、一気にヴィジュアル系を聴くのをやめたんですよね。やっぱり、目ん玉えぐるバンドが少なくなってきたから。でも、時代って移り変わっていくものじゃないですか。そういう意味では、バロックが開けた風穴による新陳代謝は健康的だと思っていました。00年代前半から後半にかけて、原宿系、キラキラ系、ホスト系といろいろなサブジャンルが生まれましたけど、“ヴィジュアル系”という冠だけは外れることがなかったんです。『塊魂』ってゲームのごとく、全てを飲み込んでいった時代ですよね。黒から白に、世界が反転する過渡期だったんじゃないかなと思います。試行錯誤の時代とも言えるのかな。もう、目ん玉えぐり尽くしたよ、みたいな。でも、ヴィジュアル系というイデオロギーだけは連綿と受け継がれている。それは、すごく美しいことだと思います。

のる:新陳代謝はまさにそうですね。Xでバンギャルさんの話を聴いていると、アンカフェ(※アンティック-珈琲店-)から入ったという話を聞くことが多いんですよ。バロックの開けた風穴から、いかに多くのフォロワーバンドが生まれたか。そして、サブジャンルを確立させていったかを感じます。00年代後半になると、そこの反発なのか、lynch.やDEATHGAZEといったメタル系のバンドが出てきましたね。

――たしかに。その時代の話も、またいつか聞かせてください! [ kei ]さん、実際にシーンの渦中にいた身として、何かございましたら。

[ kei ]:そうですね。NIGHTMAREのメンバーとは、同バンドが東京に進出する前から交流があったり、the GazettEのRUKIくんが同じ神奈川県出身で、SIDの明希ちゃんは年上ですけど、やっぱり神奈川で活動していて。アリス九號.はもともとバロックのローディーだったり、なんていうのかな。同じ時代に、同じ場所に集まっていた仲間で。

――みなさん、現在も第一線で活躍していますね。

[ kei ]:はい。そういうのが不思議だなって思います。

素晴らしきかな、ヴィジュアル系

――では、最後に全員を代表して、サトヤスさんにヴィジュアル系のすばらしさを語っていただきたく!

サトヤス:おれは“究極の自作自演エンターテインメント”っていうところに、ヴィジュアル系のすばらしさが詰まっていると思います。今、アイドルだったり、2.5次元だったり、非日常を感じられるステージって、いろいろありますよね。でも、メンバー間で作詞・作曲・演奏という自家発電をするグループって、未だにヴィジュアル系バンドだけなんですよ。そこに、狂気にも似た呪いのようなものを感じるんです。

[ kei ]:大変なんですよね、手っ取り早くないから。だから、やる人も少なくなってきちゃったのかな。

サトヤス:でもですよ。自分は同時に、そこにこそロマンを感じて。ヴィジュアル系バンドにしか持ち得ないものがあると思うんです。

――おぉ……!

サトヤス:近年、ヴィジュアル系が好きで、ヴィジュアル系を始めたと声高に宣言するバンドも増えてきましたよね。

のる:言えるようになりましたよね。

――それも時代の変化なんでしょうか。しかし、シーンの新陳代謝はあれど、“究極の自作自演エンターテインメント”は変わらないということですね。あぁ、今日は大好きなヴィジュアル系の話をできて、とっても楽しかった! みなさん、ありがとうございました!!  [ kei ]さん、8/12のLINE CUBE SHIBUYA(※渋谷公会堂)でのワンマンライブ、楽しみにしておりますね!

[ kei ]:ありがとうございます!

――それでは、読者のみなさま、またお会いしましょう〜〜!!

各人オススメのヴィジュアル系10選

<このシーンに想いを馳せ、音楽的に影響を与えてくれた10枚([ kei ])>
■DEAD END『ZERO』
■X『Jealousy』
■LUNA SEA『IMAGE』
■CRAZE『THAT’S LIFE』
■L’Arc〜en〜Ciel『True』
■Laputa『蜉〜かげろう〜蝣』
■ROUAGE『SOUP』
■PIERROT『パンドラの匣』
■hide『PSYENCE』
■SUGIZO『TRUTH?』
(順不同)

一言コメント
「かなり王道な名盤ばかりだと思いますが、ギタリストのソロアルバムが2枚あるっていうのは自分の今を思うと納得ですね」


<ドラムがカッコいいヴィジュアル系(庄村聡泰)>
■LUNA SEA『A WILL』
■SCARE CROW『立春』
■ROUAGE『Lab』
■MALICE MIZER『merveilles』
■La’cryma Christi『Sculpture of Time』
■DEAD END『ZERO』
■バロック『東京ストリッパー』
■gibkiy gibkiy gibkiy『In incontinence』
■キズ『仇』
■babysitter『空しい空の空』
(順不同)

一言コメント
「ドラマーとしての自分に強烈な影響を与えた10枚です。これ以外にも沢山ありますが、どれも本当に素晴らしく変態(※褒めてます)なドラミングが聴ける音源ばかり」


<サブスクで聴けるインディーズ盤(ヴィジュアル博士のる)>
■Aioria『〜煌め逝く瞬間〜』
■MEJIBRAY『Emotional【KARMA】』
■denno:oblaat『KGB〜Katherine’s Ghost Blues〜』
■シド『星の都』
■umbrella『ダーウィン』
■Vogus Image『真空パック』
■Kagrra『gozen』
■色々な十字架『少し大きい声』
■LIQUID『L0』
■シェルミィ『ぼくらの残酷激情』
(順不同)

一言コメント
「現時点でサブスクで聴けるもの、そして、インディーズでリリースされたものに焦点を当てて、新旧問わず厳選しました。昔も今もヴィジュアル系はかっこいいと思わせ続けてくれるバンドが途切れずに存在し続けてくれるわけで、そりゃ30年間もギャ男をやめられるわけがないですよね」


<作家活動への影響を与えた10選(森田悠介)>
■X JAPAN『DAHLIA』
■BUCK-TICK『十三階は月光』
■Laputa『絵~エマダラ~斑』
■ROUAGE『BIBLE』
■DIR EN GREY『MISSA』
■黒夢『CORKSCREW』
■PIERROT『ID ATTACK』
■THE PIASS(妃阿甦)『妃阿甦』
■D≒SIRE『異窓からの風景』
■MALICE MIZER『Voyage 〜sans retour〜』
(順不同)

一言コメント
「10枚に絞るのは大変困難でした。現在の絵画制作において影響を感じるアルバムを中心に選んでいます。それにしても、ゴシック・メタル・ハードコアなど、多彩な表現の全てを“ヴィジュアル系”と一括りにできるのは改めて不思議に思いました」


<「電子ストアで聴ける我が青春のアーティスト」(石川裕二)>
■[ kei ]『THE CURSE』
■BAROQUE『PLANETARY SECRET』
■kannivalism『helios』
■deadman『in the direction of sunrise and night light』
■Raphael『不滅華』
■cali≠gari『17』
■Plastic Tree『Plastic Tree』
■CASCADE『Yellow Magical Typhoon』
■Janne Da Arc『D.N.A』
■PIERROT『DICTATORS CIRCUS -奇術的旋律-』
(順不同)

一言コメント
「自分で企画しておきながら、10枚になんて選びきれませんでした。deadmanの最新アルバムもめちゃかっこいいし……けど、入口になりそうな曲が多い『in the〜』を選びました。青春と言えば、あとは人格ラヂオの『証拠』を未だに聴くし(※電子ストアにはなし)、ファナもSOPHIAもwyseもWaiveも大好きだよーーー!!!!  ほかにはKneuklid RomanceもDué le quartz もVividもze零roもVanillaもJILSもpleurも聴いているッ! MUCCも蜉蝣も!! 中島卓偉(※TAKUI)さんはヴィジュアル系……? あぁ、おれも、もっと3人の話に加わりたかったぜ!」


(おわり)

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