編集者・石川裕二の超個人的サイト

FEATURE —特集—

2. この本自体が答えを出していない

【目次】
1.『フクシマ漂流』〜遠回りの理解〜

2.この本自体が答えを出していない

3.「作家として語らなくちゃいけない」

4.文学作品の町が被災してしまった

5.自分がいいことをしていると思わない

6.水俣市をモデルケースとして考える

7.「反原発」を現実論にするために

  
【プロフィール】

志賀泉(しが・いずみ)
小説家。1960年生まれ。福島県生南相馬市小高区(旧小高町)出身。県立双葉高校卒業、二松学舎大学文学部卒業。2004年、『指の音楽』で太宰治賞受賞。著書に『指の音楽』『TSUNAMI』(ともに筑摩書房刊)。

ブログ「福島県原被災地区の復興に向けて」
http://ameblo.jp/sigahina/



――『フクシマ漂流』というタイトルの由来を教えてください。

埼玉県の加須市にある旧騎西高校に双葉町民の避難所があって、
自分の同級生も何人かそこで生活していました。

その中の一人の女性が「自分は、いまだに
津波に押し流されているような気がする」と言ったんです。

彼女の家は津波に流されたわけではありません。
でも、原発事故が起きて、双葉町を出て、
避難所から次の避難所へと移動しながら生活をして、
加須の避難所に落ち着いた。

しかし、そこも定住の場所というわけではありません。
そういう避難生活を送っている方々の
「寄る辺のない不安」を一言で表すのなら、
「漂流」という表現になるのではないかと思ったんです。


――著書にも書いてありましたが、復興に向けて頑張ろうとしても「漂流」していては「踏ん張る場所がない」と。それを解決するには、使用済み核燃料の処理問題ですとか、放射能汚染だとか、抱えている問題が多すぎるように思えて。正直、どこを着地点にして志賀さんにお話を聞けばいいのか、整理しきれないまま今日を迎えてしまいました。

僕が結論として何を言わんとしているかは、
実はこの本に書いていないんです。
それは、自分自身に整理がついていないからでもある。

だから、『フクシマ漂流』を読んで
「何を聞こうか、何も聞けない」というのは、すごいわかります。
この本自体が一個も答えを出していないし、反原発とも言っていないしね。

むしろ、「反原発」という、正義の旗を単純に振るだけではダメだと言っている。
すごい誤解を受けそうなことも書いています。

整理しきれないっていうのはね、原発被災者自身がそうなんです。
自分たちがこれからどうなるかわからないまま仮設住宅にいてね、
そこで「東電が憎い」とか、「原発をゼロにしろ」と言ってもね、
どうにもならない空しさというのがあるんですよ。

今、東京で定期的に反原発の集会をやっている。
そのこと自体は結構なんだけれども、そういうことをやっていても、
「自分たちは“かやの外”に置かれている」という気持ちを
どこかに持っている被災者が多いんです。


――はい。

じゃあ、それをどうするのかと言ったら、
それはそれで受け止めていくしかない気がします。

踏ん張る土地がないというのは、政治家に問題がありますよ。
たとえば、我々が高校のOB会なんかをやっていると、議員の方が来て。
言うことは決まっているんです。

「我々は何があっても双葉に帰るぞ」と。
具体策は何もないまま建て前だけを口にする。

絵に描いた餅を出されたって、どうしようもない。

これはね、僕個人の意見ですよ。
最終処分場を双葉区の中につくって、
そこはもう帰れないんだ、
仕方がないんだと住民に納得してもらい、
今協議中の「仮の町」構想(※)を
もっと大胆に進めていくべきだと思います。

避難している人の中でも、
そういう意見を持っている人は少なくないんですから。

放射能で汚染されてしまった土地の活用法といったら、
それしかないんじゃないかなって思いますよ。
少なくとも中間処分場を決めないことには、
いろんなことが進められない。

率先して福島県が「ここだ」というのを決めてしまえば、
他の都府県もね、それにならって
決めていく風潮が起こるかもしれません。

仮に自治体がそれを申し出たとして、
政治家がそれをどう受け止めればいいか、
ほかにも双葉断層の存在など、難しい問題ですけどね。
いろいろ問題はあるんですけど、客観的に見れば
それが現実的なんじゃないかと僕は考えています。


※福島第一原発による避難住民の生活拠点を整備する構想。現在、双葉・大熊・浪江・富岡の各町が「仮の町」の整備を表明している


津波の被害にあった、福島県いわき市内の民家に書かれたメッセージ(撮影=志賀泉)




      

  

【インフォメーション】
文芸トークサロン
映画 『立入禁止区域 双葉~されど我が故郷』上映会
“原発事故 フクシマからのメッセージ”
日程:2012年10月26日(金)
時間:18:00~20:00
住所:日本文藝家協会(地下鉄 有楽町線 麹町駅1番出口)
料金:¥1,500(当日¥2,000) ※学生・65歳以上の方=¥500引き

※要申し込み。詳しくは同会ホームページへ
http://www.bungeika.or.jp/event.htm

  


※志賀泉さんの著書『フクシマ漂流』の購入を希望される方は下記リンク先へ
http://ameblo.jp/sigahina/entry-11306881920.html


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