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FEATURE —特集—

Ràyka「色彩に潜む華やかさとものがなしさ」

4月5日から初の個展『CIRCUS CIRCUS!(サーカス サーカス)』を開く絵画作家、Ràyka。個展のコンセプトや作風の特徴、同展の制作期間中に発生した東北関東大震災を受けて感じたという、“アーティストと社会のつながり”について話を聞いた。また、絵画作家になったきっかけや、作家活動のターニングポイントとなったデジタルからアナログ技法への転向についてなどを過去のアートワークと共に紹介する。


Ràyka(ライカ)。アーティスト、絵画作家。東京都出身。アナログ作品に色鮮やかな和紙をコラージュした作風が特徴。展示会を中心に国内外で作品を発表しているほか、今春にはモデルの冨永愛がクリエイティブ・ディレクターを務めるアパレルブランド「deep sweet easy」とコラボレーションするなど、多角的な活動を行っている。

京都精華大学芸術学部造形学科洋画分野科を卒業後、ドイツの映像制作会社でアートディレクターとして勤務。帰国後の2007年からはイラストレーターとして活動。09年の10月以降、現在の名義での活動を始めた。受賞歴は「Girls Illust Exhibition」グランプリ(10年4月)、「ACTアート大賞展」入選(11年1月)ほか。
Ràykaホームページ=http://rayka.jp/

取材・文=石川裕二(石川編集工務店)
写真=金子麻也
ヘア&メイク=おタケ(JULLY)
衣装協力=deep sweet easy
場所=The Artcomplex Center of Tokyo

1.「個展『CIRCUS CIRCUS!』」(4/1公開)
2.「アートと社会のつながり」(4/1公開)
3.「振り返る“学生時代”」(4/8公開)
4.「あなたに、早く届けたい」(4/8公開

1.「個展『CIRCUS CIRCUS!』」

“華やかさ”と“ものがなしさ” 、表裏一体の魅力
ーー初の個展となる「CIRCUS CIRCUS!」が4月5日から開かれます。同展は、2010年の4月にグランプリを受賞した「Girls Illust Exhibition」(「The Artcomplex Center of Tokyo」主催)の副賞ということですが、受賞から個展の開催まで1年を要したのはどうしてでしょうか?

Ràyka(以下R):その賞をいただいたときは、デジタルからアナログ技法に転向してからまだ半年しか経っていなかったので、賞をいただいたことに戸惑う気持ちのほうが大きかったんです。手元の作品数も少なかったですし、まだアナログでの技法を模索している最中だったので、当時は「まだ早い」という認識でした。でも、これはアナログ技法でのスタート地点に居た私にとって、今後の展開を考えていく上でいい目標であり、モチベーションにもつながりました。
単純に、「魅せる絵」「売れる絵」「足を運んでくださった方々が何かしらを感じて、持って帰ることのできる絵」を描けるようになることを念頭において、日々絵を描いていけばいいわけですから。自分の表現ですとか、こだわりというものは後からついてくると思っています。

作品をつくることに対する考え方や方法は人それぞれだと思いますが、私はこのやり方が合っていたように思います。舞台を用意していただけたのなら、後はその舞台をいかに良いものにするか、というだけですから。そして、その舞台が最終目的ではなく出発点であるということが、私にとっての幸運でした。


「Girls Illust Exhibition」グランプリを受賞した「If I were your mother No.1」

ーータイトルに「サーカス」という単語が使われていますが、個展のコンセプトについて教えてください。

R:「サーカス」をタイトルに使うことは、最初から決めていました。絵を始めとするアートはエンターテインメントだという認識があるので、ただ壁に掛かった絵を鑑賞してもらうのではなく、一つのショーとして楽しんでもらいたいんです。そこで、ライブ感のあるエンターテインメントを代表するサーカスがふさわしいと思いました。

あとは、私がサーカスという言葉からイメージするものと、私の作風は共通点が多いように思うんですね。華やかさとその対極にある暗さ、ものがなしさ、官能性、妖しさ、シュールさ、ユーモア、スリリングな部分、ストイックな部分、そして浮世離れした感じなど。あんまり言うと欲張りですけれど。

ーーものがなしさというのは、具体的にどういうことですか?

R:たとえば、私はドイツに住んでいたときに、いわゆる“巡業サーカス”を見たことがあるんです。10人にも満たないメンバーで……、メンバーというか“一家”ですね。本当に血のつながった親子もいれば、そうでない人もいるような。その人たちがトレーラーを連ねてヨーロッパ中を回り、各地で一定期間テントを張って興行するんです。

一家の中の“お父さん”と思われる人が、一人で何役もこなすんですよ。綱渡りも空中ブランコもナイフ投げも、みんな同じ人。入り口で赤ちゃんをあやしながら、もぎりをしていたお姉さんは、気付いたらナイフ投げの的となってステージに立っている。顔を白く塗ってクラウンに化けたこの男性は、さっきテントの外でアイスクリームを売ってなかったっけ、なんて。

「あぁ、芸を生業にして生きているんだなぁ」と思いました。ものがなしさというのは悲壮感のことを言っているのではなく、人が受け入れなくてはならない人生のかなしさ。彼らを見て、それらを受け入れている強さとか、たくましさを感じたんです。

“華やかさだけを売りにするなら、舞台裏に隠しておくべきこと”がまるまる見えてしまったというか。だからこそ、彼らが生きているということを強く感じたのですけれど。そして、そういう表裏一体の魅力が、私が絵で表現していることに近いのではないかと思っています。

ですので、個展『CIRCUS CIRCUS!』では、サーカスのパフォーマンスそのものをモチーフに絵を描くことよりも、イメージを重視して自由な発想で描いています。私なりの「サーカス」を楽しんでいただければ幸いです。

ーーRàykaさんの作品には女性をモチーフとしたものが多いですが、何か理由があるんでしょうか?

R:ビジュアルとして魅力的、というのが単純な理由です。私は作品のモチーフに、女の子や女性の主義主張を込めているわけでも、理想を描いているわけでも、ましてや自分を描いているわけでもありません。むしろ、そういうことを意識して描こうとするとヘンな絵になってしまいます。 自然のまま、本能的に気持ちの良いと思えるフォルムがとれたり表情が描けたりすれば、それが自分にとって魅力的なんです。自分がいい、と思っているものが他の人の本能の琴線に触れることができれば、とても嬉しいですね。

それと、よく私の描く女性にエロさを感じるという感想をいただきますが、それは本能なんだから仕方がないと思います(笑) 創作の原動力となるものが人それぞれにあると思いますが、私の場合はエロ……というとちょっとしっくりこないので言葉を変えて言うと、センシュアリティとか、リビドーとか、そうした性的なことに関わるエネルギーが原動力なんです。あとは、怒りの力。定期的に何かについて怒っています。怒るくらいならその原因となる何かを変えようと思えるので、これもものを生み出す大きな力になります。 性的なエネルギーと、怒りと、でもそういうことをドライに客観視している自分もいて、この3つのバランスが私の作風を生み出しているんだと思います。

3.11の大震災――
アーティストとしてできること

ーー今年の初めからアメリカで展示している作品や、3月20日まで開かれていたグループ展では、これまでの特徴でもあった色彩豊かな作風から一転して、モノトーン調の作品が目立っています。個展でもその流れは引き継がれるのでしょうか?

R:本当はそのつもりだったんですが、3月11日に起きた東北関東大震災を受けて、出そうと思っていた作品を急きょ変えることにしました。

ーーそれはどうしてでしょうか?

R:アメリカに出展する絵がきっかけで、私の中にモノトーンブームが来ていたんですけど、今回の震災が起こって日本全体がこういう状況下になって……。暗い絵を描く気持ちじゃなくなったんです。「今、私が描きたいのはこれじゃないな」というか、色彩が必要だと感じて。モノトーンの作品とカラーの作品とでは、見る人の気持ちも全然違うと思いますし。

そもそも、モノトーンの絵を描き始めたきっかけは、「私の強みと言われている色彩を封印したら、どういう絵が描けるんだろう」と思ったからなんです。つまり、チャレンジですよね。でも、私は技術的な面で色を使って絵を描けるんだから、こういうときこそ、チャレンジするよりもその武器を使うべきだと思ったんです。


「Champions of Justice Ⅰ」


「時の眠るまに While time sleeps」

ーー今回の震災に直接関わることで言えば、4月4日までアメリカで開かれている「“PrayForJapan” Art Fundraiser Exhibition」(「JapanLa」主催)、4月12日から開かれる「東日本大震災チャリティー展」(「The Artcomplex Center of Tokyo」主催)といった2つのチャリティー展に参加しています。社会的なダメージをもたらした今回の震災と、絵などを始めとするアートとの関係についてはどう感じていますか?

R:「アートはエンターテインメント」――そこに気づいたときに目の前が開け、この日本でもどこにいても、自分は絵で社会と関わっていけるのではないか、またその方法をいくつでもつくることができるのではないか、と感じました。

今回の震災に関して言えば、私が1人の人間としてできること、アーティストとしてできることの2つがあると思います。前者は募金をしたり、電気を無駄遣いしないことなどですね。ただ、後者については、絵をお金に換えて寄付する、という単純にそれだけのことではないんと思います。なぜなら、アートの役目は、まずは“エンターテインメント”なんですよ。そして、そこで発生したお金を有効に役立てることができる。この2つがアーティストの私としてできることではないかと思っています。

たとえば、チャリティーライブやチャリティーオークションなどありますが、正直、手段としてまどろっこしさを感じるんです。それならアーティストとか購入者が直接お金を送ったほうが早いですし、イベントを開くコストもかからない。じゃあ、何でそれでもライブとか展示を介しているのかと言われれば、結局、生まれるものがお金だけじゃないからですよね。それがエンターテインメントたる点だと思っています。

ーー野暮な質問ということを承知でお伺いしますが、「お金以外に生まれるもの」とは何でしょうか?

R:抽象的ですけど、見た人が「わぁ」ってなることです。別に、「楽しませる」とか「娯楽」みたいなものだけじゃないと思うんですよ。ポジティブなイメージを持つものだけがエンターテインメントじゃないと思いますし。何かしらの人たちの心の琴線に引っかかって「わぁ」ってなってもらうこと。そういうものでありたいし、忘れてちゃいけない。っていうか、それしかできないんです。

今回の震災で被災して傷ついている方々に、私の活動なんて届かないかもしれない。でも、こういう状況になっても、被災者の方々の分まで、日常通りに日本を動かしていかないといけない方々がいっぱいいる。せめて、そういう人たちを鼓舞することはできるのでは、と思うんです。首都圏でも計画停電や放射線による飲料水の問題などがあって、不安で不安で心が押しつぶされそうな人もいるかもしれない。そういう人に対して、元気を取り戻すきっかけにはなれるのではないか、そういうことができればいいと、心から思っています。

私が絵を描く理由
ーー縁の下の力持ちのような存在ということですね。

R:そうですね。エンターテインメントは、日常にあることを続ける活力になるようなものが理想だと思っています。1回見て「ああ、面白かった」で終わるだけじゃなくて、その人にとって何かしらのきっかけになればいいですね。

私ね、思うんですよ。絵では、命は救えない。病気も直せなければ、お腹もふくれないし、寒さをしのぐこともできない。そういうライフラインが全て整った上でしか価値がないじゃないですか。

実は、去年の夏くらいまで、絵を描くことに対してすごく苦しんでいたんです。「なんでこんなに苦しいんだろう」「やめちゃえばいいのかな」って、漠然とですけど思うこともあって。別に、苦しむことが嫌とかではなくて、「大変な割に、何の役に立っているんだろう」と思ってしまって。今言ったようなことは、自分が“それでも絵を描く理由”っていうのを考えたときに、出てきた結論なんです。

ーー以前、ブログなどで「私の絵を見て良かった、と思ってもらうために絵を描いている」という主旨の発言をされていましたね。

R:私自身、そういう経験があるんですよ。たとえば、音楽。皆がみんな、同じものを好きにはなれないじゃないですか。周りが「すごいいい」と言っていても、自分はどうしても「違うな」という人の気持ちがよくわかるんです。そういう時に、「これだ」と思えるものと出会えたときの喜びってありませんか? よくこの人たちが存在して、よくこういうものをつくって、よく私の元に届いてくれた、と思うんです。自分がそういうものに感動した経験や出会いがあるから、そういう感動を次の受け手へとつなげていきたいです。

> 2.「アートと社会のつながり」

【展示情報】
Ràyka『CIRCUS CIRCUS!』
日程:4月5日(火)~10日(日)
時間:11:00~20:00(最終日は18:00)
場所:The Artcomplex Center of Tokyo(新宿区大京町12-9)
料金:入場無料
http://www.gallerycomplex.com/

『東日本大震災チャリティー展』
日程:4月12日(火)~17日(日)
時間:11:00~20:00(最終日は17:00)
場所:The Artcomplex Center of Tokyo(新宿区大京町12-9)
料金:入場無料
http://www.gallerycomplex.com/index.html

『桜 Exhibition 2011』
日程:A. 4月18日(月)~5月21日(土)、B. 6月3日(金)~16日(木)
場所:A. 12G.(港区西麻布3-1-25)、B. EXCY GALLERY(ニューヨーク)
時間:各ギャラリーの開館時間にともなう
http://2011.sakura-ex.info/

ほかに、海外の展示会にも参加中。詳しくはRàykaホームページ=http://rayka.jp/へ。

【商品情報】
モデルの冨永愛がクリエイティブ・ディレクターを務めるアパレルブランド「deep sweet easy」では、Ràykaが絵を提供したカットソーを販売している。

http://www.dse19.com/index.html

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