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FEATURE —特集—

山本冬彦インタビュー Vol.3

1.「イラストは気軽に買えるアート作品」(3/14公開)
2.「絵を買うことは、消費の選択肢の1つにすぎない」(3/15公開)
3.「普通のサラリーマンらしいことは、なにもしてこなかった」(3/16公開)
4.「空想コレクションのすすめ」(3/17公開)
5.「コレクションは、人生の軌跡。」(3/18公開)

【山本冬彦 プロフィール】
約30年にわたって、毎週末、銀座・京橋界隈の画廊巡りを続けているサラリーマンコレクター。日本画・油絵・デッサン・版画など現存する若手作家を中心に集めてきた作品は1400点を超える。また、「アートソムリエ」を自称し、美術マーケット拡大のためのアイデア提起や、アート普及のための活動を行なっている。2009年8月には、画廊めぐりの入門書として「週末はギャラリーめぐり」(ちくま新書)を発行。2010年1月には、佐藤美術館で自身のコレクション展を開催している。



  

コレクター人生のはじまりは、新居の壁

――そもそも、山本さんが絵を買い始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

30年ほど前の話になりますが、マンションを買ったんです。新居の真っ白で何もない壁を見た時に、ふと「絵を買って飾りたいな」と思った。それがきっかけです。すぐに「いざ買おう」となったのですが、どこでどんな絵を売っているかがわからない。当時の僕といえば、たまに美術館に足を運ぶ程度で、それこそ絵は「買う」ものではなくて「見る」ものだと思っていましたから。

――当たり前といえば当たり前なんでしょうけど、山本さんも最初は何もわからなかったんですね。

そうなんです。それで、まずは入りやすいこともあって、デパート内の画廊をのぞきに行きました。でも、デパートで取り扱われるくらいですから、著名な方の数十万円するような作品ばかりしか置いていなくて、「やっぱり、美術品というのはサラリーマンに買えるものじゃないんだ。美術館に行って『良かったね~』と言ったり、ポストカードを買うのがせいぜいなんだ」と思ってしまったんです。その次に「ゴッホなど、有名な作家の複製品でも」と思ったのですが値段を見ると、良いものは数万円。でも、「数万円も出して複製品を買うなら、若くて無名でもいいから本物の絵がほしい」と思ったんです。

その後も絵を探していて、ある日銀座のセントラル美術館(当時)に入りました。そこは名前が美術館だったので、ふらっと入ったんですけど、実際は大きな画廊でした。しばらく中を見ていたら、ある日本画の作品をとても気に入ってしまってずーっと見ていたら、画廊の人に後ろから「お気に召されましたか」と声を掛けられました。値段を聞いたら、当時の僕の給料一月分くらい。正直、「やっぱり無理。どうやって逃げようかな」と思っていたんですけど、「月賦でも大丈夫ですよ」と言われて……。

――それがコレクター人生のはじまりになった、というわけですね。ローン払いとはいえ、給料一カ月分といったら相当な金額だと思いますが、どのような心境でしたか?

まさに「清水の舞台から飛び降りる」感じですよ(笑)。でも、家に帰って、殺風景な壁にその絵を飾ったら、とても良かった。……うん、とても良かったんです。毎日帰ってきて、その絵を眺めるのが楽しみなほどに。

月賦を支払い続けていた約一年間は、絵は買えませんでしたが毎週のように画廊めぐりを楽しむようになりました。支払いが終わった後は、新たに作品を買ったり、同年代の作家との付き合いも生まれたりして、すごい楽しかったですね。

――そういう部分も含めて、のめりこんでいったと。コレクターというとすごいお金持ちのイメージがありますけど、当時の山本さんは損保会社に勤めるサラリーマンだったわけですよね。

でも、いわゆる普通のサラリーマンらしいことは、なに一つしませんでしたよ。車もなければ、付き合いのゴルフにも行かないし、お酒も飲みませんでしたから。それはもう、そういうことを一通りやった上で絵も買おうなんていうのは無理ですよ。

世間一般でいえば「のけ者になりたくないから」と、そういうものに一通りお付き合いする風潮があると思いますけど、僕はそれがいいとは思わない。周りに合わせて満遍なく手を出しても、いわゆる平均的な人間になってしまいます。でも、その中で何か一点集中すれば、必ず突出した成長を得られるはず。みんな「個性を大事に」なんて言っていますけど、結局は当たり障りのないように、安全牌を選んで他人と同じことをしてしまっているんです。

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