【目次】
1.『フクシマ漂流』〜遠回りの理解〜
【プロフィール】
志賀泉(しが・いずみ)
小説家。1960年生まれ。福島県生南相馬市小高区(旧小高町)出身。県立双葉高校卒業、二松学舎大学文学部卒業。2004年、『指の音楽』で太宰治賞受賞。著書に『指の音楽』『TSUNAMI』(ともに筑摩書房刊)。
ブログ「福島県原被災地区の復興に向けて」
http://ameblo.jp/sigahina/
――原発事故当初、志賀さんは「小さな音楽界」という、各避難所での音楽イベントを主催するなど、いわゆるボランティア活動をしていました。その後は週刊誌に双葉高校野球部の甲子園予選にまつわる記事を寄稿するなど作家としての活動にシフトしていますが、何かきっかけはあったのでしょうか。
自分がまず考えたことは、この「被災」というものをネタに使って
作家的なキャリアを積むのはやめよう、ということなんです。
ものすごい申し訳ないように感じて。
実家が被災して、同級生も友達も被災して、
みんなバラバラに散っていった。
自分の両親も仮設住宅に避難しているんですけども。
だから、まずは作家という肩書きを置いて、
「一人の人間としてできることを」と思ったんです。
具体的には、チェロの演奏者の方と
避難所をまわって演奏会を開いたり、
精神科医のチームに同行して避難者の話を聞いて回ったり。
その後、チェリストの方が
「これから宮城や岩手のほうにも行きたい」
ということで、その活動は一段落しました。
――その後はどのような活動をしていたのでしょうか。
じゃあ、次は何をしようかと考えていたところ、
私の所属する日本文藝家協会の「トークサロン」という
イベントが昨年の7月に始まりまして。
その時のテーマが「原発事故」だったんですね。
私はそれまでに避難所を回っていましたから、
「被災地ではこんなことが起きている」ということを、
みなさんの前で話しました。
話した内容というのは、「被災者差別」と「避難所格差」についてです。
前者は放射能汚染などから起きる差別のこと。
後者は、目と鼻の先にある避難所間にも関わらず、
そこに届く物資やボランティアの数に
圧倒的な差ができていることです。
「これはどういうことだろうか」という提言をしたんですけれども、
その時はトークの流れが「反原発・脱原発」に集約されてしまって、
ないがしろにされたような気がしました。
――はい。
僕も「反原発」の意見です。
だから基本的に賛成なんですが、感情的にはズレがある。
というのも、避難中にある僕の同級生の中にも、
自分か家族が原発関連で働いているから
かろうじて生活できている人が多いんです。
「反原発」を主張すればこぼれ落ちてしまう、
彼らのことを無視しては、僕は何も語れない。
もしかしたら、それは間違いかもしれない。
それは瑣末なことと、ある程度割り切って、
「反原発・脱原発」巨視的な見方で活動していくのが、
正しいのかもしれない。
……でも、それは誰でもやっていることですしね。
原発の被害者でありながら同時に、
原発に頼って生きている人たちは肩身の狭い思いをしているし、
ジレンマを抱えながら「うちらはまだ恵まれているんだから
しょうがない」っていう、控えめな気持ちで暮らしている人がいる。
これも事実なんです。
じゃあ、そういう人たちをどうするか。
そういう人もいるんだっていう事実を届けられるのは、
マスコミじゃなくて、そばにいる人間でしょ。
そういうことを考えた時にね、
やっぱり、おれも作家として語らなくちゃいけないな、
ということを感じたわけです。
【インフォメーション】
文芸トークサロン
映画 『立入禁止区域 双葉~されど我が故郷』上映会
“原発事故 フクシマからのメッセージ”
日程:2012年10月26日(金)
時間:18:00~20:00
住所:日本文藝家協会(地下鉄 有楽町線 麹町駅1番出口)
料金:¥1,500(当日¥2,000) ※学生・65歳以上の方=¥500引き
※要申し込み。詳しくは同会ホームページへ
http://www.bungeika.or.jp/event.htm
※志賀泉さんの著書『フクシマ漂流』の購入を希望される方は下記リンク先へ
http://ameblo.jp/sigahina/entry-11306881920.html
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