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FEATURE —特集—

坂本美雨『Waving Flags』インタビュー

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愛しいものを守るための、おまじない。

——3月5日にリリースされるアルバム『Waving Flags(ウェイヴィング フラッグス)』は、蓮沼執太フィルの蓮沼さんをプロデューサーに迎えての、多幸感あふれるサウンドになっていますね。今作は“おまじない”をテーマにアルバムづくりが始まったとお伺いしています。

はい。まず初めに、私から蓮沼くんに投げかけたのが“おまじない”というテーマでした。「“自分の大切な人に、もう絶対悪いことが起こらない”っていうおまじない」のアルバムをつくりたいと。

おまじないというと、お祈りだったり、呪文だったり、「そうなりますように」と願って待っている――そんなふんわりしたイメージがあると思うんです。でも、このアルバムでは、もっと強い言葉として使っていて。“わがまま”というか。


——収録曲「やくそく」の「これからはもう いいことしか 起こらないよ」という歌詞が象徴的ですね。言い切ってしまえるのがすごいと思いました。

「絶対に悪いことが起こらない」っていうのは、普通に社会で生きていたら、ありえないことですよね。なにが起こるかわからない世の中で、なにも約束できないことが、頭の中ではわかってる。人はいつか死んでしまうし、動物もそうだということはわかっているんだけど……「だけど、ぜったい死なない、死なせない」っていうのは自然のルールにすら全力で抗(あらが)うわがままで。

でも、音楽とか、演劇とか、そういうものの中では、そのわがままが通用するんです。それは、作品づくりでしかできないことというか。……うん、だから、そういうものをつくりたかったんですよね。それに、言いきること、そうなると信じることがおまじないだと思うんです。“言霊(ことだま)”っていう言葉もあるぐらいですし。


——その強い気持ちの背景には、なにがあるのでしょうか。

「悪いことが絶対に起きませんように」と本気で願う人は、裏返せば「悪いことが起こる」と思っているんですよね。私自身、そう思ってしまうほうで。だから、まずは自分に「絶対大丈夫」って、言い聞かせて生きていくというか。

ただ、「“死”や“悪いこと”が起こらない世界をつくろうとした」というのとは、少しニュアンスがちがうんですよね。ファンタジーというよりも、「私はそうやって生きていくんだ」っていう決意のようなものなんです。そうしないと、自分の好きな人も守れないし、猫も守れない。こわくてしょうがないんですよね、毎日。だからつくったのかな。


——坂本さんがいま、不安に感じているというのは、どのようなことでしょうか。

うーん……もう、全部です。小さい頃から、階段を降りていたら「転げ落ちるんじゃないか」って思ってましたし(笑)。駅のホームに立っていたら「突き飛ばされてしまうんじゃないか」とか、飛行機に乗れば「落ちてしまうんじゃないか」とか。そういう、生と死のことを、小さい頃からずっと考えていて。なぜかはわからないんですけど。

そんな根っからの性格にプラスして、最近は世の中がだんだん悪くなっていくのをひしひしと感じていて。原発事故のこともそうですし。地球が壊れてきている世の中で、好きなものや愛しいものが増えることすら、こわい。

それは私だけじゃなくて、周りにも同じように感じている人がいるんです。「こわい、こわい」って思いながらも、切実に、全力で、大事な人やものを守って生きている。自分だけじゃなくて、そういう人たちに宛てたアルバムでもあるんだと思います。


——坂本さん自身、音楽に助けられたり、救われた経験というのはありますか?

小さい頃からずーっと、音楽は逃げ込む場所というか、絶対に悪いことが起きない場所でした。元気づけられるというよりも、“安全”な場所というか。音楽の中には、邪悪ものがないんですよ。源がきれいなものしか、音楽の中にはないと思っていて。だって、表現をする、作品を生むっていうこと自体が生きることですし、すごい前向きで、サバイバルなことなので。世界中の美しいものが音楽の中に集まっていると思うんです。


アルバムのイメージは“旗”と“音楽隊”

——蓮沼さんと組んで作品をつくることになった、きっかけを教えてください。

蓮沼フィルのライブを何度も観ていて「いいな」と思っていたんですけど、忙しい人なので、タイミングさえ合えばご一緒したいなと考えていました。そんなある日、TwitterのDM(ダイレクトメール)で、「この曲を美雨ちゃんに歌ってもらっている夢を見た」って、ピアノで弾いた素の状態の曲が送られてきて「あ、いまがそのタイミングだ」と感じたんです。今回、その「ドア」という曲がアルバムの1曲目になっています。


——蓮沼執太フィルのメンバーをはじめ、今作では□□□(クチロロ)の村田シゲさん、SAKEROCK(サケロック)の伊藤大地さん、pupa(ピューパ)のゴンドウトモヒコさん、ART-SCHOOLの戸高賢史さん、環ROY(たまきロイ)さんら、参加アーティストが豪華ですね。

村田シゲと伊藤大地くんは、もう2年ぐらいライブでご一緒していて、絶対的な安心感があったんです。彼らは蓮沼くんとも元々交流がありましたし。あとは、ライブと音源で同じ人にお願いしたかった、というのもあります。


——「=(イコール)」は、環ROYさんとの共作詞ですね。どのようにつくっていったのでしょうか。

ROYを呼び出して「ラブラブなやつ書いて」って(笑)。私とROYは同世代で、そろそろ結婚とかパートナー、家族をつくったりするような年頃なんですよね。そういう、暮らしや心境の変化をテーマにしています。ROYはあんまりラブラブな詞を普段は書かないので、「もっといけるでしょ。出せよ」って、半ば強引に(笑)。


——(笑)。今回、坂本さん以外の方の作詞曲が複数ありますが、ご自身で作詞した曲と比べて、歌う時にちがいを感じますか?

それはあまりなくって。逆に、自分が作詞するとギリギリまでできないので、他の人の書いたもののほうが歌い込んでいるんですよね。だから、レコーディングの時点では、カバー曲とかのほうが自分の曲になっているかもしれない(笑)。


——カバーといえば、illion(イリオン)さんの「HIRUNO HOSHI」と□□□さんの「おとぎ話」が収録されていますね。

「HIRUNO HOSHI」は、illionのアルバムが出た時に「いつか歌いたいんだけど」って、野田くん(※illion はRADWIMPS・野田洋次郎さんのソロプロジェクト)に言っていたんです。ものすごく好きな曲で、絶対に入れたいと思っていて。

「おとぎ話」は、□□□の三浦くんが音楽を担当して、私も出演させていただいた音楽劇『ファンファーレ』の劇中歌なんです。すっごく大好きな曲ですし、「おとぎ話を信じる」って言いきる感じも、このアルバムにピッタリだなと思ったんですよね。


——『Waving Flags』のアートワークも、とてもすてきです。“旗”と“音楽隊”がテーマになっているんですよね。

音楽隊は、今回のレコーディングに参加してくれた人たちのイメージ。みんなのいい演奏を聴いてほしいです。旗は、どうしてかわからないんですけど、どんな旗も好きなんです。ネパールやチベットにあるような、ものすごい数が交差したようなものも好きですし、はためいている様がすごい美しいと思って。それに、旗は「ここにいるよ」っていう印でもありますよね。案内の時には「こっちにおいで」という目印になりますし、「ここに来たよ」という証拠として山頂に旗を立てたり。そういうところが、すごいいいなって。


——その旗は“絶対に悪いことが起こらない場所”がここにあるよ、ということなんですね。

いまって、なにか言えば「証拠は?」「根拠は?」「そうじゃなかったら、どう責任を取るの?」と言われるような世の中じゃないですか。不安だらけの世の中でも、「大丈夫」と言いきってくれる存在は、そんなにいない。だれも「大丈夫」と言ってくれない中で、たとえば小さい頃にお母さんが「絶対に大丈夫」と言ってくれた時の安心感のような、根拠がなくても“絶対的”なもの――音楽は、それが存在できる世界なんです。『Waving Flags』も、そんなマジックのような力を持つ一枚として、みなさんのそばに置いてもらえればと思います。





<プロフィール>
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坂本美雨(さかもと・みう)
5月1日生まれ。9歳の時に家族でアメリカに移住し、10代をニューヨーク郊外で過ごす。1997年、“Ryuichi Sakamoto featuring Sister M”名義で「The Other Side of Love」を歌いデビュー。99年には映画『鉄道員』の主題歌を担当。1stアルバム『Dawn Pink』(1999年)をはじめ、2005年にリリースした『The Never Ending Story』(Honda企業CMタイアップ)など、8枚のアルバムを発表。また、親交が深いアーティストをゲストに迎えたイベント「DIRECT MIUsical」を不定期に開催。音楽活動と並行して、舞台出演、他アーティストへの歌詞提供、テレビのナレーション、ラジオのナビゲーター、エッセイや映画評などの執筆活動や、ジュエリーブランド「aquadrops」のプロデュースなど幅広く活躍。「FreePets~ペットと呼ばれる動物たちの生命を考える会」のメンバーとしても活動している。2011年10月からはTOKYO FM他JNF38局フルネット「ディア・フレンズ」6代目パーソナリティを担当。


<リンク>
オフィシャルブログ(http://blog.honeyee.com/msakamoto/)
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レギュラーラジオ(http://www.tfm.co.jp/dear/)


<リリース>
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『Waving Flags』
2014年3月5日発売
初回限定盤(CD+DVD)\3,000(税抜き)
通常盤(CD)\2,600(税抜き)
Yamaha music communications

【収録曲】
1.ドア
2.Q&A?
3.ピエロ
4.HIRUNO HOSHI
5.welcome to the village!
6.VOICE
7.=(イコール)
8.your name is magic word
9.おとぎ話
10.Waving Flags
11.やくそく

【DVD(初回限定盤)】
「Waving Flags」ミュージック・ビデオ、ジャケット撮影メイキング


<イベント>
4月19日、『Waving Flags』の発売を記念したインストアライブがタワーレコード新宿店で開かれる。



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