ライブに足を運べない人にも楽しんでほしい
——ミニアルバム『Acoustic Tempo Magic(アコースティック テンポ マジック)』(3月12日発売)は、安藤さんの代表曲をアコースティック・アレンジしたものが収録されています。“アコースティック”というと、静かで上品な音を想像する方もいるかと思いますが、アコースティックツアーで披露している“ライブ用のアレンジ”を収めているんですよね。生々しいほどの迫力や、熱量の高さを感じました。
今回のレコーディングは、みんなで同じ部屋に入って「いっせーの……ふっ(息を吸い込む仕草)」って(笑)、ライブのようなスタイルで録ったんですよ。ライブ用のアレンジだと、私の呼吸で止まったりスタートしたりが決まるので、クリック(※編注:テンポを把握するための音)じゃどうにもならない。
あらゆるテンポ感がみんなの空気の間合いだから、アコースティック・アレンジを再現するには一発録りのようにする必要があったんです。お化粧的に、後から音を足した楽器もありますけど、それは本当、お飾り程度で。
——ライブの“録音”ではなくて、“再現”を重視されたんですね。
私はね、ライブの録音って好きじゃないんですよ。やっぱり音の粗が目立つし、CDならではの“重ねた音の美しさ”とは逆の方向に行ってしまうから。あとは、『Acoustic Tempo Magic』はツアーに来られないみなさんにも、アコースティック・アレンジを聴いてほしいっていうのがスタートにあるんです。そもそもアコースティックツアーは、バンドライブでは行けない場所にも私たちの音楽を届けたいよねっていう目的で2008年から始めて。
アコースティックツアーは、基本的にはギターとピアノと私だけなんですよ。だから、CDに収録するアレンジとは別のアレンジをツアーの度に考えていて。そうすると、曲がだんだんと裸になって、いきいきしてくる。それがとっても楽しいんです。
「47都道府県は絶対に制覇しようね!」と言ってるんですけど、まだ行けていない場所もあるので、そういう土地の人たちにも「(アコースティックだと)こんなアレンジなんだよ」っていうのを楽しんでもらいたいなと。
——2008年のアコースティックライブを拝見しているんですが、いい意味で、当時とは全然違うなというのがCDを聴いての第一印象でした。
そうですね。はじめの頃はやっぱり、どういう感じでやるのがいいか掴みきれていなくて、CDアレンジのものをギターとピアノでどうやろうかっていうところがありました。いまはもう、はじめに固定観念を捨てて、曲そのものをもう一回練り直すところもあるから、自由度が高まっているのかなって思います。
大反響の新曲は「がむしゃらに走り回って生き抜く人を賛美する歌」
——『Acoustic Tempo Magic』は、タイトルの通り1stフルアルバム『Middle Tempo Magic(ミドル テンポ マジック)』の収録曲のアコースティック・アレンジが中心になっていますね。
アコースティック・アレンジのCDは初の試みというのもあって、デビューアルバムからピックアップしました。あとは、今後、ほかのアルバムのアレンジも続けていけたらいいね、って。
——ほかには、原田知世さんのカバー「早春物語」、新曲「世界をかえるつもりはない」が収められています。カバー曲は、シングルのカップリングなどで定番になっていましたが、実に3年振りで。
そう、「久しくやってないね、またやりたいね」って。今回はディレクターのアンディが「早春物語やりたい」って言って、私も「いいね~」みたいな感じで。角川世代なんでね、我々が。幼少期に耳にしてた“匂い”とか“空気”とか、根っこがそういうところにあるんですよね。
——新曲の「世界をかえるつもりはない」が、反響を集めています。公式サイトでミュージックビデオが公開されていますが、そこにも書かれているように「顔を歪め、湧き上がる感情をぶちまけるかのように叫び歌う姿は、これまでのパブリックイメージを覆す様な仕上がり」になっています。
曲自体はね、そんなに意外じゃないっていうか。そういう部分も自分の中にあるかなと思うんですけど。でも、表現しにくいけど、ライブを観たことがない人には、すごい意外に思われたかもしれませんね。
レコーディング用につくられた、“作品”としてのビジュアルイメージとか音楽――たとえば、CDジャケットの“安藤裕子”は作品に寄せてつくっているところもあって、私本人とは、ちょっと距離があるんですよね。だから、“安藤裕子”っていうアーティスト名ですけど、私は“安藤裕子というバンド”でやってます、っていう表現を私はよくしていて。
“パブリック的な安藤裕子”っていうのは、“安藤裕子チーム”のただのフロントマンであって。……そうだなあ、衣装は白っぽいものが多かったり、リネンぽかったりみたいなイメージがあると思うんですけど、私生活では白い服って着ないんですよ。そういう、“っぽい”イメージからは、遠い曲だと思う。
でも、CDを聴かないで「ライブの安藤裕子しか知らない」って人からしたら、たぶんいつも通りかなって思うんですよ。CDやミュージックビデオの表立った世界では出していなかった顔でも、ライブでは出してきた部分だから、その差かなって。
——周りの方は、曲を聴いてどのような反応でしたか?
ディレクターはすごい気に入ってましたね。「おれ、この曲すごい好き!」って言ってて、私は「え、そう?」みたいな(笑)。
——(笑)。「世界をかえるつもりはない」について、安藤さんはオフィシャルサイト内で「この曲は汗水鼻水垂らして歌う曲。今までのうのうとやってきた私の決意表明なんだろうか?」と書いています。曲が生まれる背景というのが、安藤さんの中にあったと思うのですが。
そうだな。それはね、やっぱり「時代かな」って思います。……私はすごくこう、平和な時代に生まれ育っていて。別にお金持ちでもないけど、貧乏でもない。生活に困ったこともないし。おいしいものもたくさん知ってる。なんていうのかな、すごくぬるい時代を生きたと思うんですよね。子どもの頃から今に至るまで。それはすごいありがたいことで。
「ふんふ~ん」って感じで生きられているけど、実はそれって、地球上に人類が現れてから、たぶんピラミッドの頂点に位置するくらい、すごいいい時代なんだと思うんですよ。
この時代が当たり前だと思ってしまうと、今後の揺れゆく時代みたいなものは、もしかしたら生きるに堪え難いと思うかもしれない。でも、歴史上、こんなに平和な時代がなかっただけであって、みんなもっと壮絶な時代を生き抜いてきたと思うんですよ。それでも、こうして人間っていうのは続いているわけで。
妊娠中にね、地震(※編注:東日本大震災)があったんですよ。地震を契機に、私を育ててくれたおばあちゃんの体調が一気に悪くなって、死んじゃった。その時、「あ、ここから何か変わるんだろうな」って、なんとなく感じて。そこから、自分の人生観みたいなものも結構変わりました。
いままでは自分が死ぬってことをあまり考えなかったんですけど、「ああ、死ぬまでに何が出来るだろう」とか、「娘がいったい何歳になる時まで、私たちが過ごしたような平和な時代は持つだろう」「その後も、この人は強く生きられるだろうか」とか、そういうことをすごく考えるようになった。
東京で暮らしている限りは感じにくいかもしれないけど、すでに生きづらさを感じている人って少なくないと思うんですよ。いろんなことが変わりつつある時代の中で、苦い思いをして亡くなってる人はたくさんいるだろうし、私もどこか「このままぼんやりしててはいけない」っていうのが、この曲の裏にはあって。
——はい。
私、「絶対に、信じてれば夢は叶う」みたいには、まったく思わないんですね。もちろん、それが叶う“ラッキーな人”もいるし、叶わない人もたくさんいる。だけど、叶わないけれども頑張ってるっていうのが、今の時代は一番美しいのかなって。もし、死んでしまったとしても、がむしゃらに、笑顔で生きていた人はやっぱりすごい美しいだろうなって。
この先の時代は、そういう人が本当の希望の星になるだろうなって思うし、そういう人をどこか応援したいというか。がむしゃらに走り回って、人生を生き抜く人を賛美する・応援するような歌でもある……うん、この曲はそんな気持ちで歌っています。
<編集部からのお知らせ>
来週19日(水)公開の「30歳になる、わたしたちへ。」の第2回に、安藤裕子さんが登場します。
<プロフィール>
安藤裕子(あんどう・ゆうこ)
1977年生まれ。シンガーソングライター。
2003年にミニアルバム『サリー』でデビュー。05年、月桂冠のテレビCMに起用された「のうぜんかつら(リプライズ)」が話題に。ソングライティング能力だけでなく、CDジャケットやコンサートグッズのデザイン、ミュージックビデオの監督など、そのアートワークも注目を集める。4月下旬発売のビューティ&カルチャー誌『CYAN』の表紙モデルに抜擢されているほかにも、今秋公開予定で、大泉洋さん、染谷将太さんらが出演する映画『ぶどうのなみだ』にヒロイン役として出演するなど、幅広く活動している。
http://ando-yuko.com
<リリース>
『Acoustic Tempo Magic』
2014年3月12日発売
CTCR-14823 / ¥1,890(税込み)
【収録曲】
1.slow tempo magic
2.黒い車 feat. NARGO(東京スカパラダイスオーケストラ)
3.早春物語(原田知世さんカバー曲)
4.隣人に光が差すとき
5.聖者の行進
6.世界をかえるつもりはない
【初回封入特典】
収録曲「黒い車」のミュージックビデオ(フルレングス)を先行視聴できる、安藤裕子さんデザインのフライヤー。AR(拡張現実)機能を使っての革新的な視聴方法です。
※期間限定視聴:2014年3月11日正午~4月11日正午。スマートフォン・タブレットPCのみ視聴可
<ライブ>
「安藤裕子 2014 ACOUSTIC LIVE」
5/6(火・祝) 神奈川 鎌倉芸術館 大ホール
5/16(金) 香川 高松市玉藻公園被雲閣大書院
5/17(土) 広島 尾道市民センターむかいしま文化ホール こころ
5/24(土) 大阪 サンケイホールブリーゼ
6/1(日) 仙台 宮城野区文化センター コンサートホール
6/7(土) 沖縄 桜坂劇場 ホールA
6/15(日) 名古屋 しらかわホール
6/21(土) 東京 めぐろパーシモンホール 大ホール
6/28(土) 福岡 IMSホール
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