編集者・石川裕二の超個人的サイト

FEATURE —特集—

30歳になる、わたしたちへ。(永井愛 5/5)

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1.三十歳ですべてが始まった

2.若いことに気付いていない

3.「自分は新しい」って思いたいでしょう?

4.四十九歳で新人賞を受賞

5.年を重ねる度に自由になる


<プロフィール>
永井愛(ながい・あい)
劇作家・演出家。二兎社主宰。桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒。「言葉」や「習慣」「ジェンダー」「家族」「町」など、身辺や意識下に潜む問題をすくい上げ、現実の生活に直結した、ライブ感覚あふれる劇作を続けている。日本の演劇界を代表する劇作家の一人として海外でも注目を集め、『時の物置』『萩家の三姉妹』『片づけたい女たち』『こんにちは、母さん』など多くの作品 が、 外国語に翻訳・リーディング上演されている。

二兎社オフィシャルHP


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――永井さんは『中年まっさかり』というエッセイ集を過去に出されていますが、そこには「中年は守りの季節どころか、最も冒険するのにふさわしい」と書いてあります。永井さんが、年齢を重ねることについて、どのように捉えているのかを最後に教えてください。

私はね、30代より40代のほうが自由だったし、40代より50代のほうが自由だった。最近60代になって、また一つ自由になったような気がしてるんです。これは、他の人にも感じることですけど、年を取れば取るほど固定観念から開放されて、自由になるっていう生き方もあるんですよね。

だから、年齢を重ねながら、思い切ったことが出来るようになりたいなあと思うんです。それは、すごく恐いのに無理してバンジージャンプするようなものではなくて、制限時間が近付いてくる中で、「人間としてどう生きる?」と自分に問いかける中から、自然に生まれる思い切りだと思う。

主体的に生きられる時間って、だんだん狭まってきますよね。私はまだまだ体の具合も悪くはないし、自分では老け込んだつもりはないのに、「60歳以上のお年寄りは……」なんて声がテレビから流れてくるのを聞いちゃうと「はっ……!!」って悲しくなる(笑)。もう“中年まっさかり”じゃなくて、“老年まっさかり”になっちゃったわねって。

電車では、最近席を譲られる。シルバーシートの前にたまたま押し出されちゃったら、そこに座っていた青年が私を見上げ、「あっ」と言って立ち上がる。「え、なんでなんで、なんで席を譲るんだ!?」って(笑)一瞬思いましたけど、「ありがとうございます」って座りましたよ。

結局ね、あと20年したら、私は80を超えてしまう。静が退団して独り立ちしてから今までの、40代から60代になる20年間って、すっごく早かったんですよ。それと同じ時間を過ごしたらもう80かって。いつあの世に行ってもおかしくない、本当に“今”しかないんだなということが段々わかってきて。そういう、自分という人間を完成させていく最後の仕上げの時期なのよね。

“自分”というものは、元からそのようにあるものではなくって、徐々に完成させていくものだって前に何かで読んだんですけど、仕事や何か目に見えるものではなく、「自分というものを完成させる」ことが人生だって考えると面白い。その最終形がどんな自分でありたいかと聞かれたら、やっぱり、自分に評価してもらえるような人間ですね。


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『かたりの椅子』(2010年)。左から竹下景子さん、山口馬木也さん。撮影=本間伸彦


2010年に『かたりの椅子』っていう作品を書いたんです。そこでは、言葉としては直接出てきませんけれど、「インテグリティ」という概念がモチーフになっている。日本語では「正直」とか「高潔」とか「誠実」っていう言葉に訳されることが多いようです。

でも、翻訳家の松岡和子さんが言うには、それがピッタリだとは思わないと。「インテグリティがある人」を「誠実な人」とするなら、それはだれに対する誠実なのか。「あの人は誠実な人だ」とか「正直だ」と人が評価する時には、対“社会”がそこに入ってくる。周りの人にそう思われたいがための、名誉としての誠実さや正直さも含まれてしまう。

そうではなくって、「今からしようとしていることは、人間としていいことなのか?」と自分に問いかける心を持っている人。そして、自分自身の内面において、良心が痛むことを自分にさせない、そういう自分との向き合い方が出来る人が、本当に「インテグリティがある人」なんだと聞きました。

生きていれば、少なからずやましいことがあると思うんですけど、日本って恥の文化だから、世間様にバレてみっともないかどうかが、善悪の基準になっちゃう。だけど、その世間を抜きにして、自分に恥ずかしい行いをしていないかと、自分に問いかけ、ちょっとでもマシな方向に自分を変えていけるような、そんな人間になりたいなって思います。

目指すは、“自分”という人間の完成ですね。死ぬ時に、その完成を評価するのは、自分だけですよ。だれも知らないもの、そんなことは。人間って、どうしても社会的評価で自分自身をも評価してしまいますけれど、自分で「ああ、いい生き方をしたな」と思えるようになりたい。簡単にはできませんけどね。


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<公演情報>
『片づけたい女たち』(グループる・ばる)
作・演出:永井愛
出演:松金よね子、岡本麗、田岡美也子

日時:2014年3月8日(土)14:00開演
場所:ゆめぱれす(埼玉県朝霞市民会館)
備考:地方公演あり。詳細はグループる・ばる オフィシャルHPにて
グループる・ばる オフィシャルHP

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『鷗外の怪談』(二兎社)
作・演出:永井愛

日時:2014年秋公演予定
備考:詳細は二兎社オフィシャルHPにて
二兎社オフィシャルHP


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