30歳になる、わたしたちへ。(永井愛 2/5)

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1.三十歳ですべてが始まった

2.若いことに気付いていない

3.「自分は新しい」って思いたいでしょう?

4.四十九歳で新人賞を受賞

5.年を重ねる度に自由になる


<プロフィール>
永井愛(ながい・あい)
劇作家・演出家。二兎社主宰。桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒。「言葉」や「習慣」「ジェンダー」「家族」「町」など、身辺や意識下に潜む問題をすくい上げ、現実の生活に直結した、ライブ感覚あふれる劇作を続けている。日本の演劇界を代表する劇作家の一人として海外でも注目を集め、『時の物置』『萩家の三姉妹』『片づけたい女たち』『こんにちは、母さん』など多くの作品 が、 外国語に翻訳・リーディング上演されている。

二兎社オフィシャルHP


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――20代の時、“30歳”に対してどのような印象をお持ちでしたか?

友だちグループの中に、ちょっと年上の人がいることってあるでしょう。一人だけ、絶対に年齢を言わない人がいたわけです。すてきな女の人でね、まあ、年上だろうっていうのはわかっていたんですけど、周りの子たちと「いくつだろう」っていう噂をしていたら、だれかが「30だってよ」って声を潜めて言ったんですよ。

その時にみんなで「え~~~~~っ!!」となって。「信じらんない、30だなんて!」って言ったのを覚えてますね。私、その頃はまだ22か3で、今考えれば7つしか違わないんだけど、何十歳も違うような気がして。30過ぎたら、もうおばさんって考えだったので、よく30過ぎて生きてるなと。


――(笑)。

20代の内に死にたいとさえ思ったもの。だから、人生は若い人のものだと思ってた。今にして思えば、30も充分若い――この歳になると、50でさえ若いですからね。うちの父は92歳で亡くなりましたけどね、「今日は若い人が来る」って言うから、どんな若者が来るのかと思っていたら70代の人で(笑)。父からすれば、70代だって若い人だったんですね。でも、悲しいことに、たぶん石川さんもそうだけど、30の時に自分が若いって認識しにくいかなって。そうでもない?


――若くもないのかな、と思っていて。一般的には、社会に出るのが20歳前後なので、そうすると8年から10年近く仕事をしているわけじゃないですか。私は独立して個人事業主として働いていますが、会社にいれば後から入ってくる新入社員がいっぱいいて、部下もいて。そういう年齢になると、「自分で若いと思っていいのか」と。かといって上の世代もたくさんいるわけで「もう十分に大人だ」とも思えない。そういう、何とも言えない中途半端な感じというか。僕自身、まだ掴みきれていないんです。平均寿命で見れば、もちろんまだまだこれからだとは思いながらも……。

人間っておかしいよね。17から18になるのは、まぁ、普通。でも、19から20になる時、29から30になる時には、何か特別だと感じる。同じ一年じゃないですか。だけど、最初につく数字が“2”になるのと“3”になるのとでは、やっぱり違うんでしょうね。私が30になる年に行動を起こしたのも、自分ではもう思い出せないけど、そういう意識が働いたのかもしれないですね。


――永井さんの過去のインタビュー記事を拝見すると、最初に作品を書き上げた時に、経験したことのない喜びを感じたとあって。さらに、「ダメダメなまま30歳になった自分でも、やればここまでできるんだ」と仰っているんです。“ダメダメ”と感じていたのは、どうしてなんでしょうか。

やっぱり、ぬるま湯に浸かっていたと思う。徹底して自分を追い込んで何かをやったことがなかったっていうことを、台本を書いてみて初めて知ったんですね。戯曲を書くっていう行為は、本当に大変だった。今から思えば、現在よりもずっといい加減に書いてるんですよ。だけど、あちこちで迷路に入り込むでしょ。そうすると、知っているつもりで、いろんなものをちゃんと見てなかったということに気が付いてくるんですよ。

戯曲っていうのは、一つの世界ですよね。それまでは作文とかで「私はこう思います」「私はこうしました」っていうことしか書いたことがなかったのに、登場人物がいろいろと出てきて、それぞれの立場で物を言う。それは、私にとっては、今までにない脳の刺激の仕方でした。

新しく設けた締め切りの直前2日間は徹夜をして書き上げたんですけど、まったく寝てなかったために、えらいハイになるというか、たくさんアドレナリンが出たんだと思います。もうね、みんなが驚くほど元気で(笑)。戯曲の完成に向かう最後の段階になると、すばらしいアイデアが続々出てくる。今考えれば笑っちゃいますけどね。行き詰まったり、すばらしいアイデアが出たりで、地獄と極楽のジェットコースターめぐりのような状況で。

でも、そんな自分をすごいと思ったんですよ。なんという広大な大地が私の中に眠っていたんだと。「掘れば掘るほど何かが出てくる」と思いながら書いていて。手書きですよ、その頃は。


――そうか、手書きですよね。

分厚いノートを買って、そこに縦書きで。書き上げて、二日ぶりにお風呂に入り、湯船の中で、この上ない喜びを感じました。「私は書いたー!!」と(笑)。夜明けのお風呂で、まだ薄暗かったはずなんですけど、こう……キラキラキラキラと、すべてが輝いて見えた。それまでも、もちろんうれしいことはいっぱいあったけど、それは全部、人と仲良くなれてうれしいとか、人から褒められてうれしいとか、対“人”だったんですよね。

でも、書いたことに対する喜びは、自分自身を認める喜びなのかな。人の評価は、まだないんですよ。まだ、だれにも見せていなかったから。でも、力を尽くしたと思えたのね。私は「この中で妥協していない」と。

「ああ、幸せとはこのようなものか」っていう、かつて感じたことのない、自分への全肯定感。「お前はよくやった」、「お前はすばらしい」「お前はこの次もやれる」という励ましの言葉を自分からもらったんですね。その後もうれしいことはいっぱいあったし、初めて受賞した時もうれしかったけど、冷静に考えたら、あの時一人でお風呂に入って自分を褒めた時ほどうれしかったことは、人生にない! ほんっとにうれしかった(笑)。2作目を書き上げた時までは、自分へのご褒美の言葉が心底から湧き上がってきたけれど、3作目からなくなっちゃったんですよ。


――それはどうしてでしょうか。

やっぱり、成長だと考えたいですね。「このくらいできて当たり前」っていう。戯曲を書き終えてあんなに喜んでいた自分、かわいかった(笑)。「お前はすごい」って一人で拍手しているのはどうかと思いますが、でも、最初のそれは、私が私に与えた祝福だったんですね。3回目からは、そんなことで喜んでる場合じゃない、となっていったんでしょうね。


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永井さんの処女作『アフリカの叔父さん』(1982年)。永井さんは写真中央


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<公演情報>
『片づけたい女たち』(グループる・ばる)
作・演出:永井愛
出演:松金よね子、岡本麗、田岡美也子

日時:2014年3月8日(土)14:00開演
場所:ゆめぱれす(埼玉県朝霞市民会館)
備考:地方公演あり。詳細はグループる・ばる オフィシャルHPにて
グループる・ばる オフィシャルHP

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『鷗外の怪談』(二兎社)
作・演出:永井愛

日時:2014年秋公演予定
備考:詳細は二兎社オフィシャルHPにて
二兎社オフィシャルHP


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