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FEATURE —特集—

山本冬彦インタビュー Vol.4

1.「イラストは気軽に買えるアート作品」(3/14公開)
2.「絵を買うことは、消費の選択肢の1つにすぎない」(3/15公開)
3.「普通のサラリーマンらしいことは、なにもしてこなかった」(3/16公開)
4.「空想コレクションのすすめ」(3/17公開)
5.「コレクションは、人生の軌跡。」(3/18公開)

【山本冬彦 プロフィール】
約30年にわたって、毎週末、銀座・京橋界隈の画廊巡りを続けているサラリーマンコレクター。日本画・油絵・デッサン・版画など現存する若手作家を中心に集めてきた作品は1400点を超える。また、「アートソムリエ」を自称し、美術マーケット拡大のためのアイデア提起や、アート普及のための活動を行なっている。2009年8月には、画廊めぐりの入門書として「週末はギャラリーめぐり」(ちくま新書)を発行。2010年1月には、佐藤美術館で自身のコレクション展を開催している。



     

「まあるい」人間になってはダメ

――学生の新卒採用などでも、「みんな同じ髪型で、同じようなスーツで……」という話をしばしば耳にします。

そうでしょう。企業は「個性のある人がほしい」、求職者は「個性を生かしてPRする」なんていいますけど、言っていることとやっていることが全然ちがう。採用するほうは「みんなリクルートスーツで個性がないな」と思いつつ、ジーンズを履いてくる人物がいたら採用するのかといえば、しないでしょう。もし、その人物が後々ヘマをした場合、上司に「あんなやつ採用するから……」と言われるからですよ。

だから、結局全員が紋切り型になる。「人間、個性!」というのなら、一人ひとりが自分の「とんがり」を持つべきですよ。それが個性。なんでも平均点の「まあるい」人間になっていては、ダメなんです。

――興味深いお話です。

これはね、仕事上の付き合いとか、採用面接とか、そういうことだけじゃないんです。もっと根本的なものですよ。周りに合わせるというか、権威にくっつくというかね。世間で人気だったり流行っているものを「自分は好きじゃない」と言える人間が少ないように思います。

僕はたまたまアートですけど、音楽でもファッションでも、なんでもいいです。世間の評価に流されず、自分で物事の良さを判断できるようにならないと。たとえばアートなら、無名の作家でも「この人の作品はすばらしいぞ」と思えるものを見つける。僕が絵を買う時に「権威や流行、将来有名になるかどうかの投資家的な発想にならないで」と言ったのは、そういうことなんです。

アートは主観的なものですから、世間や権威が「いい」というものと、自分が「いい」と思うものは別でしょう。もちろん重なることもありますけど、「知名度」「作者の略歴」などの能書きを刷り込まれて「素晴らしい」と思い込む必要なんてないんです。

アートソムリエとして、若い人にアドバイスを

――山本さんが最初に絵を買う時に「若くて無名な作家でもいいから、本物の絵を」と言っていたことと一致しますね。

あの頃の僕と同じように、自宅に一点でもいいから絵を飾りたいと考えている人は、潜在的にたくさんいるはず。でも、どこにいって何を買えばいいか、そもそも自分はどんな絵が好きなのかすらわからない、という人もいます。僕が「アートソムリエ」と名乗っているのは、そういう人たちにアドバイスをして、絵やアートを買う・飾る楽しみを知ってほしいからなんです。

――アドバイスというと、具体的にはどのようなことをしているのでしょう。

まず、どんなものが好きなのかを聞きます。絵柄でいうと、「人物」「花」「風景」「抽象」など、いろいろですね。あとは大きさや、飾る場所、予算。僕は30年近く画廊めぐりをしてきたから、そういうユーザーの条件を聞いて「あなたの好きそうな作品はこの画廊に行ったらありますよ。こんな作家を見てみたら」とアドバイスできるんです。後は自分で実物を見て決めればいいのです。

――なるほど。まさにユーザーの立場にたったソムリエなわけですね。

そう。あと、おすすめしているのは「空想コレクション」。見る目を養うには、身銭を切って作品を購入することが一番ですけど、それが難しい人もいますよね。そういう場合は、画廊に行ってただ絵を見るだけではなくて、「自分がもし買うならどれにするか」を選ぶんです。そうすると、単なる鑑賞とはちがってきますし、空想の「所蔵品」が増えていく内に、自分の好きな作品の傾向がわかってくる。一つの自分探しのようなものです。僕だって、人に「人物画が多いですね」と言われて、初めて「ああ、そうなんだな」と思ったくらいです。でも、最近になって、「コレクションの趣味がガラッと変わりましたね」と、よく言われるようになりました。

――それはなぜでしょうか。

昔は自分と同世代の作家を集めていたのに、最近は自分の子供より若い作家の作品を集めているんですよ。これは自分が昔同世代の作家の作品を集めたように、今の20・30代の人たちに、同年代の作家の作品を見て、買ってほしいと思っているからです。若い人に薦める以上、たとえばどんな作家かサンプルを提示する必要があるので、「僕はこんな人の作品を買っているよ」ということで購入しているのです。

若い人が、自分と同年代の作家の作品を購入することのメリットのもう一つは、作家と一緒に同時代を生き、交流が出来るということ。そして、将来その作家が成功するか消えていくかは別として、作家の行く末を見ることが出来るからです。コレクターとして一番の楽しみは無名の時に買った作家が将来成功すること。これは金銭的に高くなるという投資家的な側面もありますが、私はそれ以上に自分の見る眼があったことを確認できることがうれしいのです。20代、30代の人に是非こんな楽しみを知ってもらいたいんですね。

最近私が若い作家の作品を購入するのは、そのことで、ささやかですが作家の金銭的な応援をしているつもりです。若い作家にとって一番の支援は、百のほめ言葉よりも黙って「作品を買ってあげること」です。私が若い作家の作品を買っても、その作家の将来の成否は見られません。その作家が30年後有名になって高額になっても、その頃私は生きていないので、結果を楽しみにするというのではなく、若い作家への献血か奨学金のようなものなのです。

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