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FEATURE —特集—

WEB漫画が拓く未来 Vol.3「『オーシャンまなぶ』作者.拓須たくすインタビュー」

3「『オーシャンまなぶ』作者.拓須たくすインタビュー」

インターネット上で無料公開されている「WEB漫画」。近年、書籍化やアニメ化をはじめ、WEB漫画界で活動していた作者が商業誌にデビューするなど、徐々に盛り上がりを見せている。『東京黎明ノート』では、WEB漫画作家をはじめ、漫画編集者のインタビューを通して、WEB漫画が持つ可能性を紹介する。
※本サイトで指す「WEB漫画」は、出版社が運営するコミックサービスではなく、基本的にプロデビューを目指す個人や漫画を趣味で描いている人が自身のWEBサイトなどで公開しているものとする

取材・文=石川裕二(石川編集工務店)

1.「イントロダクション」(1/7公開)
2.「『ワンパンマン』作者.ONEインタビュー」(1/14公開)
3.「『オーシャンまなぶ』作者.拓須たくすインタビュー」(1/21公開)
4.「漫画編集者から見たWEB漫画」(1/28公開)

SPECIAL1.「ONE 書き下ろし1p漫画」(1/14公開)
SPECIAL2.「拓須たくす 書き下ろし1p漫画」(2/3公開)
SPECIAL3.「読者プレゼント」(1/28公開)

【プロフィール】
拓須たくす、愛知県出身。1987年生まれ。代表作のWEB漫画『オーシャンまなぶ』は1日約1万アクセスを記録。2011年には、電子書籍「BOX-AiR」(講談社)に読み切り作品『オーシャンまなぶ~現代日本編~』『ゆとり戦線~就職氷河期~』が掲載されている。

【作品紹介】

『オーシャンまなぶ』(2006年~)
物理的な暴力が成立しない“島”を舞台に、言葉の暴力による戦いを描いた漫画。息をのむ心理戦や頭脳戦の描写が話題を呼んでいる。「64話」まで公開中(2012年1月21日現在)
『オーシャンまなぶ』 Official HP

WEB漫画と商業デビュー

――現在、拓須さんは商業誌での連載に向けて準備を進めているとのことですが、話せる範囲で結構ですので詳細をお聞かせください。

2011年の夏頃に小学館をはじめとする複数の大手出版社からコンタクトがありました。いずれも原作者としてのお話をいただいて、現在はその内の2社で僕がWEB上で発表している『オーシャンまなぶ』の“完全版”ともいえるリメイク作品と、オリジナル新作漫画の2つを連載に向けて進めています。

――拓須さんは出版社へ作品の持ち込みなどをせずに『オーシャンまなぶ』を見た編集者側からアプローチがあったとお伺いしています。「商業デビュー」という側面において、WEB漫画の可能性をどう実感していますか?

「WEB漫画を発表して有名になる」というのは、今の時代ならではの新しい攻め方ですよね。話題になっているWEB漫画は、一部の編集者の方がチェックしているので。人によっては、WEB漫画を描いて評判にするほうが近道だと思います。

――確かに、持ち込みに関しては“縁”の要素が少なからずあります。漫画雑誌が無数にあり、さらにその中のどの編集者に会えるかによって、デビューを含めたその後の作家人生がガラリと変わるわけですから。才能を見初めてくれた編集者側からアプローチがかかるのはWEB漫画の利点ですね。

僕以外にもWEB漫画がきっかけでデビューした方が徐々に出始めていますが、まだ数えるほどしかいないのも事実です。「WEBで発表する」という選択肢の認知度がまだまだ低いんだと思います。漫画を描くのに一生懸命で、WEBに疎い人も少なくないのではないかと。

それに加えて、一部の編集者の方しかWEB漫画にアンテナを張っていないのが現状です。出版社全体の評価でいえば「WEBで見つけた新人候補」というだけで、作品としてのWEB漫画の評価はまだまだ置き去りにされています。現在WEB漫画をチェックしている編集者の方たちが、編集長や会社の役職に就いた時にそれは変わると思います。

WEB漫画の可能性と課題

――作者ではなく、WEB漫画そのものの評価ということですね。これまでは「商業デビューへの選択肢」としての側面を話してくださりましたが、WEB漫画という「一つの媒体」としての魅力・可能性をお聞かせください。

まずは、あらゆるアクションが早いことだと思います。読者の方からの感想もスピーディかつダイレクトに届きますし、原稿が完成したらボタン一つですぐに公開することができます。また、自分の描きたいものを表現の規制もなく描けますし、連載(公開)ペースも自由。人気が出れば、多くの反響が得られます。自己実現の方法として、WEB漫画は優れたツールだと実感しています。

ただ、現段階では「規模」、さらに言えば「収入」「知名度」において、商業誌との圧倒的な差があります。現在のWEB漫画と商業誌では読者の数が文字通りけた違いなので。WEB漫画でどれだけ有名になっても、現状ではせいぜい1日10万アクセスほどだと思いますが、商業誌の発行部数はその数十倍ですよね。たとえ表現の自由に制約がともなったとしても、それだけ多くの人に自分の作品を読んでもらえるチャンスがあるというのは魅力的です。人気が出れば知名度も上がるし、漫画を生業にできる。今は「WEB漫画で人気」と言っても、一般層にはほとんど知られていませんし、職業にはできていません。それは自分が7年近くWEB漫画を描き続けてきて実感しています。

――マネタイズという点で言えば、拓須さんは一時期『オーシャンまなぶ』最新話のダウンロード販売(ZIPファイル)を個人で行なっていました。購入者は通常公開に先立って漫画を読むことができ、一定の期間が過ぎればだれもが無料でサイト上で読めるという形式でしたが、反応はいかがでしたか?

1話あたり約100人の方々に買っていただけました。ダウンロード販売の日から通常公開までの日数×15円の計算で価格を設定し、大体100円前後の価格で販売していたんです。単価や人数が増えれば、立派な収入になりますよね。プロの方がやれば、充分食べていける仕組みだと思います。

現状では、パソコンからの入金のシステムが整ってないことが問題です。携帯電話のキャリア決済システムのように、手軽にお金を払えないので。僕は「ペイパル」「ウェブマネー」というサービスを使って漫画のダウンロード販売をしていましたが、アカウントをつくってクレジットカードの情報を登録したり、コンビニでプリペイドカードを買う必要があるなど、購入前の手続きが面倒なんです。1クリックで「ポチッ」と買えるようなシステムやサービスが整えば「面白そうだから買ってみよう」と気軽にWEB漫画を購入する人が一気に増え、プロが参入し、WEB漫画が一大勢力になる可能性もあると思っています。

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