編集者・石川裕二の超個人的サイト

FEATURE —特集—

40歳になる、わたしたちへ。 第0回 /高木裕吉「石川くん、40歳になるって?」

「最近どう、元気してる?」

本サイトの企画「編集者をむしばむ無力感について」に登場していただいた高木さんから、約2年ぶりの電話がきた。高木さんからは、いつも突然、連絡が来る。

「なんと法人化しました。あとは、今年で40歳になります」

「そうなんだ。ちょっとさ、今から場所送るから来ない? 話そうよ」

今から話さない? 高木さんとはそういう間柄だ。指定されたのは、偶然にも終日の取材仕事を終えた駅の近くだった。そういえば、この辺りは高木さんの自宅の近くだった。

「すぐ行けます。10分もあれば」

「あ、そう? じゃあ、あとでね」

この時の私はまだ、「40歳になる、わたしたちへ。」という企画を立ち上げることになるとは思っていなかった――。


<プロフィール>
高木裕吉(たかぎ・ゆうきち)
1972年生まれ、東京都出身。株式会社アイスの代表取締役。外資系製薬企業やデザイン会社、アニメーション制作会社などを経て、株式会社アイスを設立。同社では、キットカットのブランドサイトやSONYの映像制作、東京国際映画祭のサイト運営やジャガー・ランドローバーのブランドサイトなど、ナショナルクライアントのデジタル広告の数々を手掛ける。

https://ice.tc/

家庭でも職場でも“中間管理職”の40代

――わ、かっこいいバイクですね。

バイクの話はいいよ。それより、なに。40歳になるって?

――はい、12月で。早いですね、高木さんとお会いしたのが23歳の頃ですから。40代って、どんな感じなんですかね。

どんな感じ、か。うーん、40代って、すごく大事だと思う。「この人がいないと仕事が回らないよね」っていう存在じゃないといけない時期になってくるから。そこを怠ると、50代になった時にいわゆる“老害”と言われるような慕われない人間になってしまうんじゃないかな。

――すみません。ちょっとテープ回していいですか。記事にしたいかもです。

オッケー。

――高木さんが40歳になった頃って、どんなことをしていましたか?

仕事では、東日本大震災後の自粛ムードで、デジタルの制作案件がほぼ無くなってしまって……。とても大変な時期だったと思う。

――家庭ではどんな感じでしたか?

仕事でも家庭でもさ、40代って中間管理職なんだよね。いわば。会社では上司と部下に挟まれる。時には、部下と部下の間で挟まれるかもしれない。あとは、家庭では妻と子どもに挟まれて。ネガティブな言い方になるけど。

――ほぉ〜〜。

一方的にどちらかの肩を持つわけにもいかないしさ。だから、両者の話をちゃんと聞いて、自分で咀嚼して消化して答えを出さないといけないと思う。時には、自分が間に入って、三者で話すことも必要になるだろうし。

――めちゃくちゃ面倒ですね。

そうだね。ただ、周りの意見を聞くことで自分の知見も高まるし。そうすることでしか、周りの信頼だって勝ち取れないわけでさ。

まあ、自分がそれをできていたかと言われると、40代後半になって、ようやく少しできるようになったかなっていうくらいなんだけど。

――すばらしいですよ。僕はずっと一人で仕事してきたので。家庭のことも任せきりですし。

中間でいる事と自分一人で決めていく事、両方が必用だよね。40代は、仕事も家庭もすべて自分一人でできることは少なくなってくるから、信頼できる人に頼って任せていくべきだね。

中間はただ間に入るという立場ではなく、上下から意見を求められている立場と考えれば、楽しいかもしれない。

集めた情報からそれぞれの立場を想像して、もう一度中間の自分一人として考え発言していく。ミドルアップダウンだね。


▲高木さん提供の図表。なるほど〜〜! スマホで読んでいる人は拡大してね

40代になってできた夢と理想像

――僕、法人成りしたって言ったじゃないですか。それって、自分の可能性を信じてみたかったんです。その前の自分って、どこか己の人生に見切りをつけていた部分があるというか。影響力のある編集者とかライターにはなれなかったな、とか。

それは早いよね。早い。

たとえばだけど、映画の道を志していて、将来はカンヌを獲りたいと鼻息荒くしている若者がいたとしましょう。結果、その子は映画監督になることはできたけど、国内の小さな映画祭のアワードしか獲ることができなかった。

――ああ。

でもさ、たとえ一人でも観た人の心を動かして人生を変えたとか、そういうことができたんなら、それはもう、そのことがそいつのなかでのカンヌでいいと思う。

――そうですね……、そうなんだな。きっと。

そうですよ。

――じゃあ、若い頃の夢っていうのを達成できたと認めてあげていいものとして、高木さんは40代になって新しくできた夢や理想像ってありますか?

老後の楽しみが増えたよね。友だちと麻雀したいとか温泉行きたいとかね。

――ささやかですね。

そう? あとは仕事かな、やっぱ。おれは自分のしているデジタルの仕事が好きだし、どんどん進化していくデジタルの世界を楽しみたいから、60代になっても仕事したいと思っているわけですよ。

それと、40代の仕事の中間管理職の話とは矛盾するけど、今ってさ、副業OKの会社も増えてきたけど、仕事は本来そうあるべきだと思うよ。

映画の道だけでは生きていけないから副業で稼ぐというスタイルの副業の種類は、リモート化でもっともっと細分化できる。そんな40代を羨ましく思いますよ。

――そうかあ、自由に生きていいんだなあ。高木さん。このお話、「40歳になる私たちへ」という企画のプロローグにしていいですか? 前に、30歳になった時も同じようなことをしているんですけど。僕がいろいろな人の40代の頃の話を聞きたくなったきっかけとして、残しておきたいです。

もちろん。

――ありがとうございます。なんか、年を重ねると、自分の親が目に見えて老化していたり、ちょっとしんどいなと思っていたんです。元気に生きてくれているだけ、ありがたいのかもしれないんですけど。

生きていくと背負うものが増えていくからだね。結婚しているのであれば、子ども。親の存在は二人分。背負っている人って、カッコイイと思う。

――本当ですね。そうならなくてはなあ。

なれるよ。

――ありがとうございます。こうして今日、呼んでくださったことも。

すごい密に連絡を取り合う仲ではないけど。また会おう。これからの石川さんとの関係も、おれの老後の楽しみです。

――わぁ、なんだかうれしいです。後日でいいので、写真を撮ってもらいましょうよ。

いいね。

――よろしくお願いします!


▲そうして撮ってもらった写真


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