撮影=飯本貴子
取材・文=石川裕二
「ねぇ、聞こえますか?」――シンガーソングライターユニットのRYTHEMが、約12年ぶりとなるシングル『再愛』をリリースした。3月から全国ツアー、5月21日にZepp DiverCity(TOKYO)で20周年記念ライブを開催。同日には、ファン投票によって収録曲を決めるベストアルバムの発売も決定している。2011年に一度は解散したものの、2021年に再始動した2人。精力的な活動を行う近況について、話を聞いた。
再始動の経緯については、筆者が「コロコロオンライン」で執筆した記事を読んでほしい。
https://corocoro.jp/special/343271/
『再愛』はRYTHEM版『ウィ・アー・ザ・ワールド』
――1月27日に、約12年ぶりとなるシングル『再愛』がリリースされました。2021年の活動再開以来、初となる新曲のリリースです。再デビューとも言えるシングルにこの曲を選んだ理由を教えてください。武部聡志さんによるプロデュースで、作詞作曲はRYTHEM名義になっています。
YUI:再始動後に、初めて2人で新曲をつくろうとなりました。一緒に曲をつくるのは約11年ぶりのことでしたので、ゼロに戻った気持ちで制作環境も一新しようと、森のなかで曲づくりを行いました。
――ファンの方とのコミュニティである、“リズムの森”を思い起こす環境ですね。
YUI:はい。その森のコテージで、「今、RYTHEMが伝えたいことはなんだろう」と話し合いながら、つくった楽曲です。
――伝えたいこと。歌詞のなかには「僕の中で君が生きている」「君の中で僕が生きている」とあります。まるで、2人が互いのことを思い合っているような、RYTHEMとファンとの関係性を歌っているようにも聞こえます。
YUKA:伝わってるね〜!
YUI:ね〜!
――おお、よかったです……!
YUKA:歌詞はですね、今伝えたいことはもちろん、再始動前の思い出を蘇らせながら「あの時、こんなことを思っていたよね」という話を2人でしながら、紡いでいきました。一度は解散という決断をして、ファンの方はたくさん傷ついたと思うんです。それでもまた、こうして2人で歌おうとなって、どうして10年もの間、離れる必要があったのか、どうしてまた再始動したのかということを、しっかり、みなさんに届けたいよねという思いです。実はYUIとYUKAは離れている間にもしっかり愛情を持っていたし、ファンのみなさんの愛も感じていたよ、と。
――ファンの方にも伝わっていると思います。個人的には、ハルモニアの歌詞の引用を聞いて、胸にくるものがありました。
YUI:RYTHEMが歌ってきたものって、実はずっと変わっていないと私は思っているんです。2人で多摩川の土手で声を合わせて「楽しいね」「超音波みたいだね」と言っている私たちの世界を、「ねぇ聞こえますか?」という歌詞の『ハルモニア』でたくさんの方に伝えたいと始まったのがRYTHEMです。その姿勢は、今も変わっていません。RYTHEMを再始動しようと覚悟を決めた時も、YUIとYUKAという2人の女の子の物語を再び紡いでいこうという気持ちでした。私たちは音楽活動をする以前……13歳の頃からの親友でもあります。
YUKA:そうだね。
YUI:その2人の「歌うと楽しいよね」「これって愛情だよね」という思いを、みなさまに伝えていくツールが“ハモり”です。スケールの大きい話になりますが、RYTHEMは2人の愛を出発点に、世界平和を歌っていると思っています。『再愛』は、私たちなりの『ウィ・アー・ザ・ワールド』をつくろうという大きなテーマがありました。
――RYTHEM版の『ウィ・アー・ザ・ワールド』という表現は、とても、しっくりきます。その大切な曲を武部聡志さんにお願いした経緯も伺いたいです。
YUI:再始動をお伝えした時に、武部さんには「一緒に曲をつくろう」と声を掛けていただいていて。
YUKA:私たちも、ソロを含めた約20年にわたる音楽活動で、たくさんのすてきなプロデューサーさんと出会ってきました。そのなかでも、武部さんにお願いしようとなったのは、RYTHEMのことを愛してくれていて、「再始動の時は一緒に曲をつくろうね」と言ってくださっていたからなんです。今回、編曲のお願いをしに行った時も、まさに私たちがやろうとしていたことを「2人は、こういう曲をつくったらいいと思う」と仰ってくださって。私たちのことを理解してくださっている、と感じました。
――『再愛』は、先日の東名阪ライブで披露していますが、反響はいかがでしたか?
YUKA:観客のみなさん、号泣だったよね。
YUI:うん!
YUKA:男性も女性も、ほぼ泣いていました。
――みなさんに、2人の思いが伝わったんでしょうね。では、次は、その東名阪ライブについての話をお聞きしたいと思います。
YUI・YUKA:はい!
『A Flower』があるから、今のRYTHEMがいる
――昨年12月の東名阪ツアーは、RYTHEM・新津由衣・yucatという、2人のソロ名義を含む3マンという趣向を凝らしたライブでした。3マンという形にしたのは、どうしてだったのでしょうか。
YUI:私たちにとって、あのライブは20周年の物語のスタート地点だと考えているんです。これまでの19年のうち、10年は新津由衣とyucatという形でソロ活動をしてきましたので、その10年分の物語をお伝えしたいという思いで、3マンライブにしました。
――ソロの楽曲を知らない方、逆にソロから入ってRYTHEMの楽曲を知らない方もいたでしょうね。
YUKA:そうなんです。なので、反響はものすごく大きくて。なにより、私たちが19年間、どのように歩んできて、音楽と向き合ってきたかを知っていただく機会になったと感じています。『ハルモニア』から『再愛』に至るまで、私たちはこういう風に悩み、戦いながら生きてきたんだよと楽曲を通して伝えることで、『再愛』が生まれた経緯を、より理解してもらえるのかなって。私たちにとっても、自分自身と向き合えるライブになりました。
――個人的には『A Flower』がセットリストに入っているのが意外でした。解散時のシングルなので、今のお2人にとって、どういう意味を持つ曲なのだろうと気になります。
YUI:YouTubeの『A Flower』や解散直前の楽曲へのコメントを見ていると、「あの時の葛藤は、この曲に書かれていたんですね」と気づいてくださるファンの方が、とても多くて。事実、当時の私たちは公には言えない思いを曲にするという形でしか、気持ちを伝える術を持たなかったんです。なので、そういったコメントを見ると、とても報われる思いになります。RYTHEMを守るために解散という道を選ぶけれど、『A Flower』の、「永遠があるのなら 想い続けよう いつか愛は咲く」という歌詞は、あの時の掛け値なしの本心でした。未来への、叶うかわからない願いを込めた歌です。その願いが、今、こうして2人で歌うという形で実現しているということを再確認させてくれる、とても大切な楽曲になっています。
YUKA:当時のことを思い出しちゃって聞けないという方も、たくさんいました。私たち自身、当時のきゅっと胸が詰まるような思いが、歌っていると蘇ります。それでも、3マンライブでは、私たちの音楽活動の歴史を辿る構成になっていたので、離れたことに意味があるんだと感じていただけたように思います。だってね、ファンなら、「思い合っているなら離れないで」と思うじゃないですか。でも、こうして、また、2人で歌える日が訪れたことで、『A Flower』の真意が伝わったのかな。『A Flower』を「以前は聴くのがつらかったけど、ライブを経て好きになれた」という声が届いています。
「会いに行くね」と「会いに来てね」
――3月からは全国ツアーが始まりますね。「ふたりツアー」というタイトルですが、どういう編成になるのでしょうか。
YUI・YUKA:2人きりで……
――ハモりましたね!
YUKA:ハモりましたね(笑)。タイトルの通り、ステージ上は私たち2人以外、誰もいません。
YUI:原点だよね。高校生の時に、私たちが「魔法じゃない!? このハモり!」と話していた興奮を、そのままお届けする形です。私が鍵盤を背負って、YUKAがギターを背負って、みなさんに会いに行きます。
――全国ツアーを行うって、すごいことだと思います。全国にファンがいるということですから。ファンのみなさんの声が、2人に届いているんですね。
YUKA:一度、オンラインライブをした時に、北海道から沖縄まで、全国各地のファンの方が配信を見に来てくださったんです。YouTubeでライブ配信をしても「どこどこに来てー!」っていうコメントの地域に、あまりにばらつきがあって、「RYTHEMすごいな!」と思いました。昔も100箇所以上、1万人の方と握手するという企画の時には楽器を背負って2人で全国各地の方に会いに行ったので、それを思い出すというか。5月21日には、大きな大きな20周年ワンマンがあって、その時には、みなさんに東京にお越しいただくことになるので、その前に、まずは私たちからみなさんに会いに行こうという気持ちで、思い出深い土地を7箇所選ばせていただきました。
――2人の誠実さというか、ファン思いなところが伝わります。今、話題に出た5月21日のワンマンライブですが、Zepp DiverCity(TOKYO)での開催です。2011年の解散ライブがZepp Tokyo(※2021年に閉館)でしたから、同じお台場の、Zeppという名のつくライブハウスには、やはり、こだわりがあったのでしょうか。
YUI:RYTHEMを一度は終えた場所から、20周年を始めるという意味では、とてもこだわりがあって。大きな会場ですし、今の私たちに見合った場所なのかとドキドキもしたんですが、本格的な再始動の始まりの場所として、Zeppでできたらいいよね、と。
――でも、デビュー日付近ではなく、デビュー当日である5月21日にその箱が取れたというのが、そもそもすごいですよね。巡り合わせなんじゃないでしょうか。
YUKA:すごいですよね。いろいろなスタッフさんが動いてくださって。頑張ってくださいました。
YUI:本当に、はい。
――Zeppは、ふたりツアーとは違ってバンド編成なんですよね。
YUI:そうです。今回、初めてのバンドメンバーさんとお届けすることになります。RYTHEMは色あせない音楽をつくってきたつもりなので、過去の楽曲を新しいメンバーさんと奏でることで、一つひとつの楽曲が、生まれ変わったように聴こえるかもしれないという希望があります。懐かしくも新しいRYTHEMの音楽を、Zeppではお見せできるかなと思います。
ベストアルバム投票結果は「予想できない」
――20周年ライブと同じく、5月21日には、投票によって収録曲を決めるベストアルバム『RYTHEMの世界』が発売となります。……これ、投票結果を参考にするのではなく、投票結果によって収録曲が決まるんですか?
YUKA:そうなんです。私たちも、何がどうなるか予想がつきません(笑)。こんなの初めてだよね!
――「これは入るだろう」という曲を、ずばり、お聞かせください。
YUI:え〜! でも、代表曲は入るかなと思うんですよね。
YUKA:うんうん。『ハルモニア』『ホウキ雲』『万華鏡キラキラ』とかね。
YUI:今だからこそ、『A Flower』もあるかもしれないよね。解散時に「どういう曲なんだろう」と思われていたものが、今、紐解かれて「これは未来への願いの歌だったんだ」となれば、選んでくださる方もいるでしょうし。
YUKA:『A Flower』以外にも、お互いのことを思い合って歌った曲って、実はたくさんあるよね。アルバム曲だったり、カップリング曲だったりで。でも、本当、結果がどうなるのかは、わかりません!
YUI:逆に言えば、ファンの方たちが今のRYTHEMに何を求めてくださっているのかがわかるよね。今後の展望に向けても、すごくいい刺激になると思っています。
――ファンファーストなお2人の姿勢が、そのままアルバムになる感じで興味深いです。でも、どうして投票形式にしたのでしょうか。
YUKA:解散時にベストアルバムとコンプリートボックスを出しているのですが、20周年なので記念となる作品を出したいよねと話していたんです。どうすれば、ファンのみなさんが喜んでくれるだろうと考えた時に、解散してからもRYTHEMの曲をずっと聞き続けてくれた……いわば、私たちの音楽を生き続けさせてくれたファンの人たちと一緒に作品をつくれたらいいんじゃないか、となったんです。私たちのYouTubeでは、曲にまつわる思い出をとてもすてきな文章で残してくださる方がたくさんいるので、それも一緒にパッケージングしたいね、となりました。なので、投票時に送れる思い出エピソードを、ブックレットに載せさせていただくんです。
YUI:全部は載せきれないので、抜粋させていただく形にはなるのですが、思い出エピソードはすべて読ませていただいています。
――それは、ファンの方はうれしいでしょうね。特典音源として、再始動後にレコーディングされた新曲も収録されるとありますが、どういった内容になりますか?
YUI:『再愛』はもちろん収録します。あとは、過去にレギュラーを担当させていただいていたラジオ番組で、毎月、曲をつくっていたんです。それらは、過去にリリースされていないのですが、ファンの方たちに人気の曲もあって。それらの楽曲を、フルコーラスでつくって、今の私たちの声で収録しようとなっています。
――音源化されていなかった楽曲ですね。あとは、Blu-rayも付いてきますが。
YUKA:過去に撮り溜められていた、ドキュメンタリー的な映像です。これも、過去のDVDには収録されていない、貴重な映像です。学生の頃の映像なので、自分たちでも見るのが怖いです(笑)。ほかにも、ブックレットには100ページ超のゆいゆか物語が収録されます。これを読めばRYTHEMのことがわかるよ、っていう辞典的なものになる予定です。
――これまでのファンの方の記念碑に、また、これからファンになる方への入門書にもなりそうですね。最後に、今後の展望を教えてください。
YUI:20周年というのは、あくまでスタート地点だと思っています。ファンのみなさんと、目と目をしっかり合わせながら新曲も、ライブもお届けしていきたいです。
YUKA:ぜひ、全国ツアーと20周年ライブでお会いできると、うれしいです!
■ベストアルバム『RYTHEMの世界』の収録曲への投票は下記リンクから(※2月28日まで)
https://www.110107.com/s/oto/form/question?ima=3137&cd=VRYT00001
■3月から始まるツアー情報、5月開催の20周年ライブの情報は下記リンクから
https://www.rythem.jp/live
■元[Alexandros] のドラマー・庄村聡泰さんの『再愛』レビュー記事を読む
■特集記事のバックナンバーはコチラ