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FEATURE —特集—

【潤いある言論を求めて/#3 飯間浩明(国語辞典編纂者)】発信力のあるファクトチェッカーよ出でよ

飯間浩明さんは、三省堂国語辞典の編纂(へんさん)者だ。言葉に関する知識とロジカルな思考に全幅の信頼を置いている私は、飯間さんが混沌としたネット社会をどう捉えているのかを知りたく、寄稿を依頼した。

「いろいろなことば」がネット社会に渦巻いている

言論が制限され、場合によっては発言者が為政者によって弾圧されることが普通にある国や地域に比べると、日本は言論が自由な国であることは疑いありません。誰しも、自分が望めば、今この瞬間から、情報や感想、考えを全世界に向かって発信できます。SNSでもブログでも動画でも、発言の手段はいくらでも用意されています。明らかに反社会的な内容でないかぎり、その発言は究極的には法によって保障されるでしょう。

最初に「言論」と記しましたが、ネットで目にすることばは「言論」だけではありません。発言者が熟慮の末に発したことばではなく、従来ならば人の目に触れなかったような、無責任な「言論以前」のことばもネットに多いことはご承知のとおりです。脳から生まれたのではなく、脊髄から生まれたと形容すべきことばもあります。虚実取り混ぜて、いろいろなことばがネット社会に渦巻いています。

私は、たとえ無責任なことばであっても、それらを一概に規制すべきだとは考えません(くどいようですが、明らかに反社会的な内容でないかぎり)。むしろ、読者の側が判断力を身につけ、防衛すべきです。少なくとも、「言論以前」の無茶苦茶なことばと、十分に検討を経たことば(それがどんな立場の人から発せられたことばであっても)を選別する眼力を持たなければならない。

そうは言っても、無茶苦茶なことばに同調してしまう、きつく言えばだまされてしまう人は一定数出てきます。それを「自己責任だからしょうがない」と切り捨てるのも正しくありません。

ファクトチェッカーが育つことが必要

そこで求められるのが、発信力のあるファクトチェッカー(事実をチェックする人)です。自分の詳しい専門分野について、怪しい言説がまかりとおっていれば、「この発言は、これこれの理由で事実に基づいていません」「この発言は事実に基づいていますが、誤解を与えます」などと評価して、多くの人に判断材料を与える人々が育ってほしい。

現在、発信力のあるインフルエンサーたちは、必ずしもファクトチェッカーの役割を果たしていません。インフルエンサーがある発言を取り上げ、「こんなことは許されない」「ばかげた発言だ」などと反発する。すると、その支持者は「よくぞ言ってくれた」「私も同じ気持ち」と溜飲(りゅういん)を下げる。元発言がはたして事実に合うのか、論理的に正しいかなどは検証されないことも多い。結局、元発言に関して賛成・反対の意見が際限なく出ただけで、何となくその話題は終わってしまう、ということがしばしばです。こんなとき、ファクトチェッカーが信頼できる事実を示したり、誰にでも分かる形で論理の誤りを示したりすれば、流れは変わってくるかもしれません。

優秀なファクトチェッカーたちが多く育ってほしい。ただ、その彼らがうそをついていたらどうなのか、と不安を持つ人もいるかもしれません。事実をチェックし、人々に結果を示すに当たっては、なるべく一般に公開された情報を根拠に挙げるのがいいでしょう。もしマイナーな資料を根拠にする場合は、その資料を確認する方法を紹介するなどの配慮がほしい。ファクトチェッカー自身が、うそのつけない仕組みを作って、自分自身を縛るのです。

私自身は、複数のファクトチェッカーの存在を知っています。それは個人の場合もあれば、ひとつの団体の場合もあります。日々のニュースなどを見聞きして疑問に思ったとき、ファクトチェッカーが情報を提供してくれていないか、確認します。その情報を参考にしつつ、最後は自分の頭で、なるべく客観的に判断します。判断材料を豊富に発信してくれるファクトチェッカーが増えれば、正当で信頼できる発言がいっそう力を持っていくことでしょう。


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