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30歳になる、わたしたちへ。(石川裕二)

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『東京黎明ノート』の編集をしている石川裕二です。「30歳になる、わたしたちへ。」の第3回の更新は、自分がこの企画を立ち上げたきっかけについて書きました。

本当は最初の更新時に公開すべきものだったのですが、久しぶりの特集企画の更新が自分の記事っていうのもなんだかなあ……と思い、ずるずるタイミングを逃していたのです。永井愛さんの記事と同時に更新というのも一つの手だったのですが、ちょっとボリューミーすぎるだろうと、後に残しておいた格好です。

内容は、結構抽象的です。下記のように思うまでには、いろいろ生々しい感情のうねりがあったんですが、それを一つひとつ話す必要もないだろうと。物事の輪郭が見えれば、その中にあるものも自然と見えてくると思うのです。

ちなみに、写真は19歳当時の僕(一番右)です。眉毛ないし、口にピアスしてるし、若いです……。


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“30歳”という一つの区切りを前にして、29歳になったばかりの僕はこれからどう生きていこうかと考えた。こんなことを考えるのは初めてかもしれない。なんせ、一つ前の区切りであろう20歳の時の僕は、ちゃらんぽらんだったから。

そういう意味では、僕は初めて自分のこれからと向き合ったことになる。しかし、目を凝らしてみると、一歩先が真っ暗闇で見えない。歩けば木にぶつかり、立ち止まる。迷いの森にいるみたいだ。遠くには、北極星のごとく強い光を放つ“死”が見えた。

これまで、そんなに強く“それ”を意識したことはなかった。きっかけはひょんなことだ。ラーメンを食べたら、胃がもたれた。「そんなことで?」と思う人もいるかもしれないけど、いままで起こりえなかった出来事に、僕は死までの距離をなんとなく感じ取ってしまったのだ。

新卒当時、ラーメンをおごってくれた30代の上司が「明日は胃がヤバイな」なんて言っているのを聞いても、その感覚が全然わからなかったのに。もっと言ってしまえば、その上司を「おっさんじゃん」なんて思っていた自分が、まさにその“おっさん”になってしまったのだ。こうして、僕は少しずつ変わっていってしまう。今日と明日は確実に違う世界なのだ。走り去る面影を掴もうとしても、するりと逃げていった。

その先には死がある。極端な話、明日事故に会うかもしれないし、明日病院に行ったら病気が見つかるかもしれない。こわい。

それからというものの「自分にはどれだけの時間が残っているんだろう」とか、「これまで自分がつくってきたものは、世間にどういう影響を与えてこれたんだろう」ということを考えるようになった。そして、自分の小ささ・弱さを実感しては「おれはこのまま死んでいくのかな。それって満たされないな。いやだな」なんて、どつぼにはまっていく。

思うに、30歳というのは、過渡期なんだろう。まだまだ若輩者だと思いつつも、若いと言われる歳ではない。仕事でいろいろなことを経験してきて自分が成長したことを感じられる反面、理想とする自分との間に距離を感じ、焦燥感に駆られる。そんなわけで、29歳になった昨年12月からの2ヶ月ほどは、自分のこれからのことについて考えれば考えるほど、不安で仕方がなかった。

そこで立ち上げたのが、この「30歳になる、わたしたちへ。」という企画だ。僕がかっこいいと思う人たちに「30歳になる時に何を感じたんだろう。30代って、どんな時間だったんだろう」ということを聞いてみたかった。人に聞いて、自分の問題が解決するわけじゃないのに。それがわかっているにも関わらず、すがるように話を聞きにいく見苦しさ。それを企画にして公開するということは、そのまま自分の恥をさらすということでもある。

一方で、この企画を進めていくことに喜びも感じていた。自分がすてきだと思う人に取材をするのだ。「心から紹介したいと思える情報を伝えよう」と立ち上げた『東京黎明ノート』を更新できていないことも心の引っかかりの一つになっていたから、それを解消できるのは単純にうれしかった。

永井愛さんのインタビューも、安藤裕子さんのインタビューも、手前味噌ながらすばらしい記事になった。永井愛さんの記事に至っては、初めて自分のつくったものを読んで泣いてしまった。

30歳になって大丈夫なんだと思えた。

迷うっていうのは、本当につらい。自分の進んでいる方向が正しいのか、まったくわからないのだ。そうして、気力が失われていく。しかし、ここが迷いの森なら、僕はいま“北極星”の見える方角を頼りに、少しずつ出口へと向かえているように思う。もっとも、それは一つのハードルでしかないんだけれど。

この企画の一連の記事は、迷いの森の先を行く人が、30歳になるわたしたちに残してくれた目印のようなものだ。「先人も同じ道を歩いた」とわかれば、希望を持てる。

一本の木に刻んだ僕の恥と見苦しさも、いつかだれかの役に立てばいいと思う。


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