既製服を展開する「GOOSE BERRY(グースベリー)」、ウエディング用のオーダーメードドレスなどを展開するブランド「GOOSE BERRY Luxe(グースベリーリュクス)」のテーラー、下條多恵子。“世界に一つのモノづくり”を追求する同ブランドのフィロソフィー(哲学)を通して、「服飾デザインによる人との繋がり」をひも解いていく。10日公開予定の後編では、デザイナーになるまでの経緯や、学生時代のエピソードなども紹介する。
下條多恵子(しもじょう・たえこ)。「GOOSE BERRY」「GOOSE BERRY Luxe」デザイナー・テーラー。1983年生まれ、北海道出身。北海道文化服装専門学校卒業。2003年、都内のアパレル会社に就職後、デザイナーとして活動。09年にオリジナルブランドである「GOOSE BERRY」を立ち上げる。クリエイター集団「TWELVE NINE(トゥエルブナイン)」のメンバーとしても活動。
GOOSE BERRYホームページ=http://www.twelve-nine.com/GOOSE-BERRY/
取材・文=石川裕二(石川編集工務店)
写真=森田悠介(TWELVE NINE)
1.「世界に一つのものづくり」(6/3公開)
2.「デザイナーという憧憬」(6/10公開)
3.「“デザイナー”から“テーラー”へ」(6/10公開)
“特別な一着”をつくり続けていきたい
ーー「GOOSE BERRY」の立ち上げに至った経緯がよくわかりました。同ブランドでは、「デザイナー」ではなくて「テーラー」と名乗っていますが、これにはどういう心境の変化があるのでしょうか?
世間一般の「デザイナー」に対する華々しいイメージと、私のデザイナーとしての仕事って少し違うと思うんです。私自身、学生の頃に想像していたデザイナーって、服のデザインを描いて指示をして……というもので。そういうデザイナーも本当にいると思うんですけど、自分が実際にその立場になってわかったことは、デザイナーはデザインするだけじゃなくて、もっと自分自身が動いて商品のことを考えたり、ミシンを踏んだりするということでした。
実際、今もデザインしたり縫製したり、という一連の作業はすべて私一人で行なっています。そういう私の仕事を一言で言う場合、上のようなイメージのある「デザイナー」よりも、“服を仕立てる人”を意味する「テーラー」のほうがしっくりするんです。「つくり手でいたい」という私のイメージにも合っていますし。
ーー「GOOSE BERRY」では、演劇など舞台衣装の制作も行なっています。
演劇やオペラなど、服が一つの世界をつくりあげるパーツになれる。やりがいのあるお仕事です。それに、公演のためにつくるという点では、結婚式のためにつくるウエディングドレスと似ているようにも思うんです。舞台だったら1週間、結婚式なら1日しか着ない服だけど、それをつくったことに対してすごく感謝してもらえる。光栄に思います。
また、舞台衣装の場合は、普通の服とは違う服づくりをできるのが楽しいですね。
着替えの都合で早く脱げるような仕組みにしたり、よく動くキャストの場合は、衣装が破けないように関節部分をやわらかいカットソー素材などにしたり、工夫が求められるんです。
「GOOSE BERRY」が衣装制作をした舞台『ケセラッチョっ』(2010年10月、写真上)、同公演の特別イベントとして開かれた「GOOSE BERRY」のファッションショー(写真下)
ーー“特別な一着”をつくる下條さんが考える、“服を着ることの楽しみ”を教えてください。
私にとっての“服を着ること”は、日常にあふれる困難から私を支えてくれるもの。元気がない時は新しい服を着たり、デートでもないのにお気に入りのコーディネートを楽しんでみたり。逆に、朝、寝坊しちゃってコーディネートが適当だったりすると、服のほうからブルーな気持ちにさせられたりもするんですけど(笑) でも、日頃から服に対してそういう付き合い方をしているからこそ、結婚式や舞台での一着がどれほど特別で大切なものかが分かるんです。
会社を辞めて一人でやるのは大変な部分もありますけど、お客さまから「ありがとう」や「すごい素敵なドレスだね、ってみんなに言ってもらえた」など、感謝の言葉を掛けてもらった時は、本当にやっていて良かったなあ、と思うんです。それだけで全てのつらさが吹き飛んでいくほどに。
ーー最後に、今後の未来図を教えてください。
将来的にはオーダーメードをメインでやっていきたいと思っています。既製服や流行の服は大きい会社に任せて、私は周りに染まらず「テーラー」として自分のできることをやっていきたい。
あとは、常にものづくりに携わっていたいという気持ちが強いので、いろいろなコト・モノに携わっていければと思います。自分の経験上、一つのことばかりやっていても広がりが持てないんです。一見関わりのないことでも積極的に踏み込んでいって、吸収したものをドレスづくりに還元できればな、と。そうやって、着る人の人生のように深みを帯びたドレスをつくっていきたいです。
【取り扱い店情報】
「mistico disco(ミスティコ ディスコ)」
住所:東京都目黒区鷹番2-16-23 M&K鷹番2階
時間:14:30~24:30
※「GOOSE BERRY」のみ取り扱い
「ROSHE(ロシェ)」
住所:東京都渋谷区恵比寿西2-21-15 荒井ビル100号
時間:13:00~20:00
※「GOOSE BERRY」のみ取り扱い