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EDITOR'S-ROOM

ありがとう、ガンプラ。

何事も“目に見えない”というのは、不安だ。その点、この1年ほど、私がちょこちょこつくっている“ガンプラ”はいい。「ちょこちょこ」と言いつつ、優に20個は購入している(もっとかもしれない……)。

知っている人も少なくないと思うが、“ガンプラ”とは、『機動戦士ガンダム』というアニメに出てくるロボットのプラモデルのことだ。数十点、ものによっては数百点のパーツを説明書の通りに組み上げていくと、ロボットの形になる。

パーツを組み上げるだけなら、1時間弱〜5時間程度だろうか。みるみる内に脚・腕・頭・武器などが形づくられていくさまはパズルのような快感があり、おもしろい。好きなロボットを部屋に飾る喜びや、複数の機体をそろえて劇中のシーンを再現するなどの楽しみもある。

余談だが、私は“ドム”という機体が好きだ。ずんぐりむっくりの体型ではあるが、メリハリのきいた流線型のフォルムがかっこいい。アニメではドム3体によるチーム攻撃を得意としており、ファンとしては3体そろえずにはいられない。プラモデル以外にもさまざまな商品が展開されているため、私の自宅には20体弱のドムがいる。ドムは大好きで、唯一、大学時代から集めてきているのだ。

ドムを指差し、「これ、何がちがうの」と呆れながら聞いてくる妻に、「これはプラモデルより可動範囲が多いから、いろいろなポーズができるでしょ。こっちはね、アニメのフォルムの再現度が高い。ほら、丸っこいんだよ。これはシャアって人が乗っているから色がちがうわけ。それでこっちは……」なんて説明していると、「ふーん。今日の夕飯、うどんにするね」なんて、強引に話を切り上げられる。ほかにも砂漠用のタイプとか、いろいろ飾ってあるんですけど。

話を戻す。プラモデルは、各機体のデザインに合わせて色が分かれているが完璧ではなく、細かい部分は同梱されているシールを貼ってカバーしていく。しかし、シールを貼ると、仕上がりがいささかチープになってしまうため、筆やスプレーなどを使って塗装をしていくことになる。塗装をすると、プラスチック特有の質感がなくなり、グンとかっこよくなるのが利点だ。

私も先日、初めて本格的に塗装をしてみたが感動ものだ。決して褒められるような仕上がりではないものの、間違いなく、なにもしないよりは見栄えがいい。愛着もわく。「かさ張るから」と、息子の幼稚園の入園式ですらコンパクトデジカメを持っていったのに、久々に一眼レフカメラを引っ張り出して、塗装したガンプラをパシャパシャと撮影したほどだ。

撮った写真は、パソコンの画像編集ソフトで、写真の明るさやコントラストを調整。塗装したプラモデルやその写真を眺めながら酒を飲むのは、なかなか幸せな時間だった。

ガンプラは、塗装をはじめ、パーツを組み合わせた際に生じる合わせ目を消したり、安全への配慮のために角が丸まっている部分をシャープにしたりと、手を掛ければ掛けるだけ、目に見えて完成度が上がる。だからこそ、数週間を要するような面倒な作業でも、頭の中にある完成形に向かって手を進められる。

着実に前進し、完成形に近付いていく実感のわくガンプラは、自分という人間の完成形がおぼろげな私の、心のバランスをうまく取ってくれている。大げさかもしれないが、そうとでも理由をつけなければ、「仕事をしないでいいのか。営業とか、売り込み用の企画を考えるとか、できることはいっぱいあるだろ」という自営業ならではの強迫観念から逃げられないのだ——という言い訳をして、限られた時間のなかでガンプラをつくっている。楽しい。ありがとう、ガンプラ。

5月1日で、独立して丸4年が経つ。編集・執筆を生業とする者として、日々の暮らしに小さな喜びを与えてくれるガンダムに、いつか仕事で恩返し……と言ってしまうと、おこがましい。この喜びを、一人でも多くの人に伝えるお手伝いができればうれしい。


<執筆=石川裕二>

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