「素晴らしきかな、ヴィジュアル系」第10回哀と凛人の無所属
その日、僕はいつものようにYouTubeをぼんやりと見ていた。ショート動画をスワイプしては、動画を見漁る。すると、知らないヴィジュアル系バンドのMVが流れてきた。ダークで耳に残るメロディーが特徴的な「おやすみ。」という曲だった。
動画に記載されているバンド名を検索すると、現在は「哀と凛人の無所属」として活動していることを知る。Xのアカウントをフォローして間もなくすると、フリーライブが告知された。正直、若い世代のバンドはほぼ聴いていないのだが「行かないと絶対に後悔する」と思い、取材を申し込んだ。気づいたら、それくらい惚れ込んでいたのだ。
書き手は、ヴィジュアル系バンドの音源レビューサイト「安眠妨害水族館」で知られる、魚がとれたさんにお願いすることにした。僕と同世代の魚さんが、彼らをどのように評価するのか知りたかったのだ。臨場感たっぷりのライブレポートを楽しんでほしい。
取材・文=魚がとれた
撮影=藤吉彬
編集=石川裕二
突然開催された初の単独フリーライブ
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
2日前に足を運んだライブが日本武道館(1月4日に開催されたWaive LAST GIG.「燦」)だったこともあって、うっかり着込んできてしまった。ライブハウスがこんなにも熱気に満ちていて、汗だく必至の場所だということを失念していた。
哀と凛人の無所属による単独公演「急遽でごめんだけど1/6空いてない!?」が、正月ムードが冷めやらない1月6日に開催された。
一風変わったユニット名である哀と凛人の無所属は、2023年に活動停止となったgulu guluのVo.哀、Gt.凛人が立ち上げた自主プロジェクト。
バンド始動までの準備期間と思っていたのだが、なんやかんやでもう2年近くこの名義で活動している。そんな彼らが、2025年末、突然フリーライブの開催を発表。なんでも会場となる渋谷REXにて当初予定されていたイベントの開催が難しくなり、すぐに動けそうな”無所属”の彼らに声がかかったとのことだ。

▲ライブの告知文
フットワークの軽さは伝染するのか、あれよあれよと事が運びライブ当日に。準備は万端とフロアに足を踏み込んだ結果、冒頭の後悔に至る。
十分な告知期間が設けられていなかったにも関わらず、抽選前売りの段階で平日のチケットをソールドアウトさせてしまったあたり、彼らの勢いを感じずにはいられない。

予定時間より少し遅れて、「閉園時間となりました。」のアナウンスとともに鳴り響くブザー。元旦にリリースされた初音源「解脱できない廃墟遊園地」の世界観を再現する新SEとともにメンバーが登場すると、挨拶代わりに演奏されたのは「変なメリーゴーランド」だ。
遊園地がモチーフとなった代表曲であり、なるほど、没入感を高めるにはもってこい(もしかして、ウマ年1発目であることも関係あるのだろうか)。
ステージ後方、バックドロップの代わりに設置されたスクリーンには、楽曲とリンクした映像が映し出されて、ものの数秒でその歌詞世界に引きずり込む仕掛けになっていた。

心の闇をゴシックホラー的なサウンドアプローチによって表現する彼らは、ともすれば”作品派”。視覚的な要素も音楽の一部とする、原理主義的なヴィジュアル系である。
様式美と衝動が共存する廃遊園地
しかしながら、彼らのライブは聴覚や視覚だけに留まらない。ディープな世界に浸ろうと耳を澄ませたのも束の間、そこに割り込んできたのは、新年らしく袴姿でパフォーマンスを繰り出す哀の絶叫だった。

ブレイクにより音が止まったタイミングで、衝動的に口に咥えていたマイクをフロアに向けて大きく突き出すと、「汚い声を頂戴よ!」と要求。すると彼の叫びに呼応して、会場全体から地鳴りのような歓声が沸き上がる。入ったら最後、外に出ることはできないという廃遊園地は、この瞬間に在りし日の姿を取り戻したのではなかろうか。

配信音源では歌モノ、雰囲気モノといった装いだった「十四」は、まるで暴れ曲のような激しさに変貌。「生首を飛ばせ!」の号令とともにヘドバンの嵐が巻き起こった「汚れた豚」、真っ赤な拡声器を振りかざしてカリスマ性を示した「左手はスナッフフィルム」と、もともと攻撃的なナンバーにしても、制御不能のジェットコースターがゴーストハウスに突っ込むかのごとく、スリル満点の迫力を上乗せ。
作品派は作品派でも、彼らの作品は”体験”にも重きを置いて作り込まれているのだ。
続く「轟音とニードル」は、メンバーからのお年玉。MC内で、この曲の演奏中だけは動画の撮影およびSNSへの投稿(ただし、盛れている場合に限る)を許可するサプライズが伝えられると、歓喜で色めき出すオーディエンス。

もっとも、客がスマホを構えているからといって容赦しないのが哀である。頭を振らせて、折り畳みをさせてと、飴と鞭を使いこなしたアジテーション。
続く「不幸人形」がはじまれば、すぐさまスマホをしまって暴れることに専念するファンの適応力を見るにつけ、よく調教できているな、もとい、これが彼ら流のホスピタリティなのだなと感心してしまった。
序盤こそ稚気と毒気が共存する哀のステージングに目を奪われていたものの、重厚なリフが耳に残る「ハッピーバースデー」では、凛人が生み出すコントラストも彼らの魅力なのだと気付かされる。
クールな表情を崩さず、一歩引いた立ち位置でテクニカルなフレーズを紡ぐ凛人。その佇まいには華があり、神々しさすら感じるほどで、対照的なプレイスタイルのふたりが光と影のメタファーに見えたのは偶然だろうか。

象徴的だったのは、「悪人」から「Rubra」に繋げた歌モノパート。特に「悪人」の照明演出が圧巻で、VJから漏れる白い光を光源にして逆光を作り出し、シルエットのみで悲壮感を表現。一見、自由気ままに見える彼らの立ち振る舞いも、哀と凛人の無所属という様式美であることを物語っていた。

「火炎瓶」はタイトル通りの起爆剤
折り返しとなる「擬似隠し」からは、再び彼らのど真ん中。シアトリカルな「宙吊り少女」、ダイナミックな展開の「「 」-まっしろ-」と続く。
2度目のMCでは、睡眠時間を削ってまで作ったというスペシャルゲスト(?)ex.自主盤倶楽部たかはし氏からのコメントビデオを上映。初見の来場者も多かったと思われ、やや内輪ネタが通用しにくい環境ではあったけれど、カンストしていた熱気をクールダウンさせるにはちょうど良かったのかもしれない。

▲スペシャルゲストのたかはし氏
ロングスパートとなる後半戦は、フルスロットルで叩き込まれる「CHILD’S PLAY?」から。持ち場を離れずにプレイに徹していた凛人が、ここにきてはじめてセンターに立つと、華麗なギターソロを披露。

戻り際に哀とグータッチを交わしたシーンにグッときたのは、きっと私だけではあるまい。
左右に分かれてのWODがお約束らしい「火炎瓶」では、リミッターが外れる音があちこちから聞こえた気がする。打ち上げられるのを待つ花火さながら、火種を待ち望んでいたのであろうオーディエンスたち。
笑顔で中指を立て合う光景は、傍から見れば狂気的に映るのかもしれないけれど、当の本人たちは多幸感に包まれているのだから面白い。もみくちゃになることで会場内の空気は一段とヒートアップし、その名に恥じない起爆剤となっていた。
残された余韻は飛躍の予感に
上がりに上がったボルテージ。「この曲は俺らだけの曲じゃない、お前らの曲でもあるんだ。どうか一緒に。」とファンへのメッセージを添えて内面からも熱くさせた「首輪教育のすすめ」、コール&レスポンスで高揚感をぶち上げてクライマックスの口火を切る「リビングデッド・エンド」を続けざまに披露。渋谷REXでのライブは、いよいよ佳境に差し掛かる。

一瞬の静寂を切り裂いて、哀のシャウトとともに演奏が開始されたのは、彼ら随一のハードチューン「嗅覚障害」だった。
禍々しいリフのループに乗せられて逆ダイを繰り返す、古式ゆかしいヴィジュアル系のフォーマット。「ヴィジュアル系へようこそ!」という哀の煽り文句が示すとおり、この道を通る者であれば誰でも参加できるわかりやすさがある。
それでも、飽きさせないようにするにはプラスアルファの工夫が必要で、ここでダレるとライブの評価が180度ひっくり返ってしまうリスクも孕んでいるのだが、彼らがこの楽曲に費やした時間は、およそ12分。サブスク全盛期の世の中ではなかなかお目にかかれない長尺で、ワンマンとはいえ無謀な挑戦だ。
ある種の賭けに出た彼らであったが、結論としては大成功。メンバーだけでなくファンも上手に下手、後方から前方まで縦横無尽に動き回り、体感速度はあっという間。(どんなにぐちゃぐちゃになっても、一区切りごとに立ち位置に戻るバンギャル様の帰巣本能には、いつ見ても驚かされる。)


廃遊園地から”出られない”という設定は既に忘却の彼方。もはや、自分の意志で”出たくない”に変わっていた。そうか、楽園はここにあったのか。
濃厚な時間だっただけに、最後に演奏された「不味い麻酔」は幾分かあっさり終わってしまった印象はあるのだけれど、それがかえって余韻を残していたのも事実。
アンコールを設けなかったことも相まって、もっと遊んでいたかったというもどかしさに、ついつい次のスケジュールをチェックしてしまう。離れがたい表情を浮かべながら、「あけましておめでとう!」と告げてステージを後にする哀と、最後までクールに決めていた凛人。感情表現も対照的だが、名残惜しいのは同じのようだ。
楽曲のサブスク解禁、無料ワンマンの開催と、初物を続々と解禁してきた2026年の哀と凛人の無所属。根を張る作業を終えて、いよいよ枝を広げるフェーズに入ったと捉えたいところだが、失敗した失敗した。もっと早く出会っておけば良かった。
いくら事務所の後ろ盾がないとはいえ、これだけのポテンシャルを持っているのなら、見つかってしまうのも時間の問題。
彼らがシーンを騒がせる未来は、もうすぐそこまで迫っている。
<セットリスト>
01.変なメリーゴーランド
02.「十四」
03.汚れた豚
04.左手はスナッフフィルム
05.轟音とニードル
06.不幸人形
07.ハッピーバースデー
08.「悪人」
09.Rubra
10.擬似隠し
11.宙吊り少女
12.「 」-まっしろ-
13.CHILD’S PLAY?
14.火炎瓶
15.首輪教育のすすめ
16.リビングデッド・エンド
17.嗅覚障害
18.不味い麻酔
<リンク>
公式サイト
https://musyozoku.themedia.jp
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