「素晴らしきかな、ヴィジュアル系」第6回/deadman
結成25周年を迎え、全国ツアー中のdeadman。本記事は、恐らく『鱗翅目はシアンブルー』に関するインタビュー記事としては最も遅いタイミングで行われたものだ。だからこそ、目次を見ていただければわかるように、これまでにはない情報があふれるような取材を意識している。気づけば、aie氏の新バンドという特大ニュースが飛び出るインタビューとなった。約6000字の、ボリューミーなaie氏単独インタビュー。庄村聡泰氏(ex. [Alexandros])による、aie氏の音楽のルーツに迫るインタビューも同時公開しているので、併せて楽しんでほしい。
取材・文=石川裕二
全国ツアーの楽しみの一つは宇宙軒食堂の豚バラ定食
――現在、結成25周年記念EP『鱗翅目はシアンブルー』を引っ提げての全国ツアー中ですね。新譜を届ける形で全国を回るというのは、ファンにはたまらないと思います。
去年、打ち上げの時に2025年のことを話していたんです。その時に「やっぱり、新曲出したいよね」って。過去の曲ばかりのセットリストだと、飽きが来ちゃうじゃないですか。「じゃあ、目指せ3曲かな」というところから始まりました。それで、バンドのイメージとは違うようなインタビュー集を付けたら、ファンクラブ限定のアイテム感が出ておもしろいかもしれないね、っていう。『鱗翅目はシアンブルー』は通販でも購入できるんですけど、ライブというハードルを越えた人に手に取ってもらいたいな、と一般流通に乗せるのではなく、会場限定販売にしました。
――この取材時点では、ツアーの3本目までを終えています。ファンの方たちの熱気はいかがですか?
まだ関東3本しかしていないので、これからですかね。フロアが熱いというよりも温かい感じがしています。
――ツアー中、「あそこの店のこれが食べたいな」みたいなものがあれば、教えてください!
4人が共通して好きなのが、石川県にある宇宙軒食堂。豚バラ定食がとにかくジャンクでうまくて。ボリュームもあって中高生の運動部の連中が大好き、みたいな感じのメニューなんですけど(笑)。その豚バラ定食のタレが絶品なんですよ。だから、タレを再現したいんですよね。たぶん、醤油、酒、みりんでしょ。あとは何かの果物を使っているんじゃないかと目星をつけているんですけど。
――すごい(笑)。料理がお好きなんですね。いろいろな街にそれぞれの楽しみがありそうで、これからのツアーも楽しみですね。
それが、意外とお店が閉まっているパターンが多いんですよね。本番終わりで次の街に移動するから、街に着く頃にはお店がもう閉まっちゃってて。仮に開いていたとしても、スタッフを含めると人数が多いでしょ。なかなか入れるお店がないんですよ。タバコも吸いたいし、生ビールより瓶ビールが好きだし、面倒な条件がいろいろあるんです(笑)。
「雨降りの悪い夢」がセットリストに入った理由
――既に上がっているライブのセットリストを拝見すると、「雨降りの悪い夢」が演奏されているじゃないですか。近年、演奏されているイメージがなかったのですが、あの曲を演ろうとなったのは、どなたの意見だったのでしょうか。
晃直です。それこそ再結成した最初の1、2年は演っていた記憶があるんですけどね。でも、晃直から「この曲は本編ラストにもできますよ」と言われて、僕と眞呼さんにはその発想は全くなかったんですけど、じゃあ演ってみようか、つって。今まで演ってこなかった曲を急に演り出したら、それはメンバーかスタッフ、メイクさんたちのリクエストですね。人の意見というか、客観的な意見は聞くべきだと思っているので。
――そうだったんですね。個人的に大好きな曲なので、晃直さんに感謝しなくっちゃ……! 大学生の時に、めちゃくちゃ聴いていたんです。
「雨降りの悪い夢」はね、東京で初めてレコーディングした曲なんですよ。実は幸也さん(※kαinの藤田幸也氏)のレーベルから出していて。
――えっ、Kreisからですか!? それは存じませんでした……!
幸也さんに「今後、東京に引っ越すんですけど」と電話していた時に「何か困ったことがあったら言ってね」と言ってもらって。「シングルを出したいんですけど」と相談したら、「じゃあ、共同でやろうか」となって、出したシングルです。
――うおぉ、レアなエピソードをありがとうございます!!
deadmanの核を形成するものとは
――ここからは『鱗翅目はシアンブルー』の話を聞いていきたいと思います。他媒体のインタビューを拝見すると「ザ・deadmanというCDにしたかった」とありましたが、deadmanの“核”を形成しているものって、aieさんのなかではどんなものだと思いますか?
あまり意識はしていないんですけど、自分たちが影響を受けた音楽って、イントロがかっこよければ、あとはどうにかなるというか。そういう意味で言えば、サビが邪魔になるような曲もあるんですよね。そこが眞呼さんと共通していて。だから、とにかくソリッドに削り落としていって、自分たちがかっこいいと思えることだけをやるようにしています。売れる・売れないとか、お客さんが好き・嫌いっていうのは一旦、置いておいて。そういうことをまあまあやりがちですね。
――休止期間こそあれど、バンドが25年も続いているというのは、それをかっこいいと思うファンがいるからですよね。
そう思ってもらえるようになったのは復活してからなのかな、と思っています。deadmanってこういうバンドなんだってお客さんが認知してくれたから、自分たちもそういうやり方で曲をつくれるというか。解散前は「なんでサビがない曲をやってんの?」「売れる気ないっしょ?」みたいなことを周囲から言われてましたから。周りのバンドがどんどんキャパを上げていっているなか、自分は「目指せ、永久にクアトロツアー」っていうバンドマンになりたかったんですよ。今でも、割とそういうところがあるんですけど。
――「クアトロでライブをできたら幸せだよね」ということですよね?
そうです。「このバンド、かっこいいじゃん」と思ってライブ情報を見てみると、クアトロで演っていることが多くて。O-EASTでもいいんですけど。チケットを買えなくて困る人がいないくらいの箱っていうか。理想的ですね。
――すてきだと思います。
自分でもこれが本心なのか、わからないですけどね。復活前のkeinで活動していた頃、自分は10代後半から21歳くらいだったのかな。動員がポンポン増えて、メジャーデビューも見えていたところで解散して、次に始めたのがdeadmanだったんですよね。keinの名前があったから最初は良かったけど、ガクンと動員が落ちた時期があったんです。そこから一度解散するまでは、ジワジワと続けていましたけど。そういう状況下で自分を肯定するために、さっきみたいなことを言い始めたのかもしれない。ムックやメリーがどんどんキャパを上げていくのを横目で見ながら。悔しいと思ったことは一度もないはずなんですけどね。振り返っても後悔は全くしていないですし。
――当時から独特な存在感を持っているバンドでした、deadmanは。
いろいろなことがありましたけど、全部が今につながっている気がします。30歳くらいの時から、誘われたことは何でもやろうと思って生きてきて。新宿LOFTでバーテンやりませんかと言われた時も「いいっすよ」って言いましたし、友人がロックオペラをやりたいから役者をやらないかと言われた時だって、初めての経験でしたけど、やりましたし。スケジュールさえ空いていればね。未来の自分の計画も見えないまま、30代を突っ走ってきました。よくよく考えたら、30代って自分の未来が不安になったりする年齢じゃないですか。老後のこととか。でも、自分は音楽が好きだったし、結婚とか子どもを諦めたから音楽を続けてこられたのかもしれないですね。もう、そろそろまじめに働いて、音楽は趣味程度の活動にして……ってなっていたら、全く違う人生でしたでしょうし。
――そうですね。
おれね、昔、犬を飼っていたことがあるんですよ。その時、自分って相手に尽くすタイプだって気がついて。子どもが生まれたら、音楽やっている場合じゃないと思っちゃうかも知れない、と想像したんです。生活の第一優先が犬だったから。相変わらず飲みには出掛けていたけど、一度タクシーで家に帰ってエサをあげて、また飲みに行くみたいな。だから、おれはそういう普通の生活が向いていないと思ったんです。若い頃なんて、毎月家賃払ったら、現金で1万5000円しか残んない生活だったんですから。……あれ、何の話でしたっけ?
――deadmanの核を形成するものです(笑)。
そうだった! まず、眞呼さんとの共通となる音楽のバックボーンがあることですね。あとは何より眞呼さんの歌が、このヴィジュアルロックシーンにおいて異質だと思うんですよ。ほかにも、この15年くらいで音楽はコンピュータでつくるのが主流になってきましたけど、自分たちはそこに取り残されたようにスタジオに4人で集まって曲づくりをしていて。おれたちは何も変わってないのに周りが変わったから、deadmanがちょっと特殊に聞こえるんじゃないかな。だから、インタビューで曲づくりのことを聞かれると、驚かれますよ。「今時、そんな人いないですよ」って。
――人が集まることでしか起こり得ない何かって、あるじゃないですか。それがあるから、今も昔と変わらない手法で曲をつくっているのでしょうか。
そうそう。「さっきのテイクのほうが音的にはいいけど、すごくいい顔で叩いていたから、今のテイクを採用しようよ」みたいな。あとは、眞呼さんがよく変な声を入れたがるんですけど、それを聞いているおれたちが一番笑ったやつを採用しようとか、そういう空気感でやっています。なんかね、そうやってつくった曲のほうが、賞味期限が長いと思っていて。消費されにくいというか。音楽は消耗品って考え方も、すげえわかるんですよ。世界的に今こうだから、音楽もそういう聞かれ方をされているっていうのも理解できるけど、あまりにも消費されるスピードが早いと思っていて。メッセージ性がない音楽ほど、そのスピードが加速していくというか。それはすごく悲しいことだなと思うんで、まだ手づくりでいたいというのがあります。
それでも、ライブで演ってみてフロアの空気感が違うなと思えば、やらなくなる曲もありますしね。生でつくってですら、それなんで。パソコンでつくっちゃうと余計に難しくなりそうだなと思うんですよね。あとは、如実に“これまでしてこなかったこと”を探しそうで。まだ自分がやってないもの。そういう不純な理由でアレンジをし始めちゃう気がするんですよね。iPhoneとかは使いますよ。ボイスメモが便利ですよね。
――この取材もボイスメモで録音しています。
gibkiyで一緒にやってるkazumaさんは、スタジオでのレコーディングの様子をずっと録音しているんですよ。で、それを持ち帰って、爆音で再生しながら、もう一台のiPhoneに向かって歌うっていうことをしています。デジタルなのかどうなのか、もはやわからないですよね(笑)。
「Tik Tokは誰かが教えてくれれば、やります」
――deadmanの結成当時と今とでは、CDの存在感がだいぶ変化したと思います。今はサブスクのサービスなどもありますし、著名なアーティストでも配信だけのリリースというケースも少なくありません。aieさんとしては、どういう思いでフィジカルの音源をリリースし続けているのでしょうか。
僕らのマーケットは、まだフィジカルな音源を欲しがってくれていると勝手に思っていて。だからこそ、写真集やインタビュー集などの特典を付けて、かっこいいものにしたいんです。自分も時代に乗って、Apple Musicで音楽を聴きますよ。でもね、応援しているバンドの音源は盤で買うようにしています。買って応援、という気持ちで。THE YELLOW MONKEYは再発しまくってるから、おれは応援貧乏になりかけてますよ(笑)。
――最近、Plastic TreeがTik Tokで公式アカウントを開設したじゃないですか。
deadmanも全然やりますよ。ただ、やり方がわからないので、誰かがレールを敷いてくれれば。
――えっ、そうなんですね!
ダンス動画でも全然やるのに。
――そっちですか!?(笑) 過去のMVの投稿はもちろん、レコーディング風景などを配信機能で見たい人はたくさんいると思います。
ルールを誰かに教えてほしいですね。やっぱり、暗黙のルールを間違えたりすると恥ずかしいじゃないですか。手づくり感があっても笑ってもらえるとは思うんですけどね。
――deadmanとTik Tokって、いわば水と油みたいなものかと思っていましたが、共存できそうですね。
言動や行動が矛盾さえしていなければ、何をやってもいいと思います。
deadmanという存在と新バンド
――aieさんって、今、deadmanだけではなく、kein、gibkiy gibkiy gibkiy、the god and death starsと複数のバンドを動かしているじゃないですか。そのなかで、deadmanはどういう場所になっていますか?
優先順位はないですし、全バンド本気でやっていますけど、中心に位置するのはdeadmanかな。そこからはみ出たロックンロール成分はthe god and death starsでやっていて、もっとアンダーグラウンドなのはgibkiy gibkiy gibkiyでやって、deadmanよりも一歩お茶の間に近づいたのがkeinなのかなと思っています。後付けかもしれませんけど。でもね、もう一個やろうとしているんですよ、バンド。
――えっ!!!!
もうね、みんなおれとやりたがるんですよ(笑)。珍しいから、生でやる人間が。スケジュールが合えばね、なんて言っていたら偶然にもスケジュールが合っちゃって。
――これは、書いていいんでしょうか。
いいです。
――いいですか! うわぁ、すごい。うれしいなぁ。また一つ、aieさんの新しい音楽が聴けるんですね。
来年動けるかどうかってところなんですけど。曲だけはもうあるんです。2年くらいスタジオに入っているので、15曲くらいあります。
deadmanで叶えたいこと
――では、最後の質問を。先ほど、クアトロのステージにずっと立てるくらいのバンドでありたいというお話がありましたが、今後、deadmanで叶えたいことって、何かありますか?
もう解散する理由がないので、一番は長く続けることです。でも、そうだな。口にすると叶うっていう希望を込めていうなら、もしかしたら、deadmanのほうがお茶の間に向いてるんじゃねぇかと思う時もあるんですよね。異質な存在として。メジャーのヴィジュアルシーンにいない枠として、万が一、バグっちゃって、武道館って言われたらやらんでもないなと思うんですけど。でも、目標ではないです。
――おぉぉ……観たい。武道館でdeadman、観たいです。いやぁ、いい話を聞けました。では、次はサトヤスさんのインタビューに移りたいと思います。一旦、ご休憩で!
タバコ吸ってきます!
<全国ツアー中のdeadmanのチケットは下記からチェック!>
https://davidskullnorecords.net
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