「素晴らしきかな、ヴィジュアル系」第5回/wyse
「6月21日の渋谷公演のレポートを書いていただけないでしょうか」――1通のメールが届いたのは、wyseがインディーズ時代からメジャーデビュー直後までの楽曲にフォーカスしたツアー「1999-2001」の大阪公演を控えた前日の夜のことだった。先日のインタビューを経てのMORIさんとTAKUMAさんからのご依頼だという。
僕は、自分が音楽ライターではないため音楽的な知識がないこと、ライブレポートを書いた経験がないことを懸念点として伝えた。すると、「TAKUMAが直接話をしたいと言っています」との返信が。
「わかりました」と返事をすると、程なくして電話が鳴る。心臓が高鳴るのを感じた。そして、TAKUMAさんは次のように話してくれた。補助輪を外した自転車に乗る子どもに「大丈夫だよ」と話し掛けるような、温かくやわらかい声だった。
「音楽的な知識がない、大丈夫です。ライブレポートを書いたことがない、それも大丈夫です。石川さんの思うライブレポートを自由に書いてもらいたくて。この前のインタビューで、昔の楽器を使うのもおもしろいかもしれないと話しましたけど、大阪の実家から本当に当時のベースを引っ張り出してきたんですよ。あのインタビューの続きとしてライブレポートをお願いしたいんです」
ライター冥利に尽きる。ここまで言ってもらえたのなら、やるしかない。楽しみな気持ちとわずかな緊張を胸に抱えながら、6月21日を迎えた。
取材・文=石川裕二
写真=今元秀明
未来のために過去と向き合うツアー
会場はVeats SHIBUYA。SEが流れるなか、オーディエンスの拍手に迎えられてメンバーが続々とステージに現れる。そして、サポートメンバーであるshuji(ex.Janne Da Arc)のドラムの音が会場に一瞬の静寂を呼び込み、5人の演奏が始まった。1曲目を飾ったのは「Feeling」だ。同時に、「準備はいいか、お前ら! ツアーファイナルだ!!」と月森が叫ぶ。
1999年にリリースされたデモテープ『Lazy mind』の1曲目である同曲は、ライブで長く歌い続けられているwyseの定番曲だ。Aメロでの月森とTAKUMAの掛け合いが心地いい。1曲目からwyseの唯一無二の武器を魅せつけられる。
4人の衣装を見てみると、それぞれのメンバーカラーが細部に組み込まれていることがわかる。華やかな衣装でも魅せてくれるのがwyseのライブの醍醐味の一つだろう。そして、TAKUMAが手にしている鮮やかな緑色のベースが目を引く。これが電話の時に話してくれたものか、と一人で頷く。
2曲目は「A≦nd Crash!!」。2000年にリリースされたデモテープ『Lime』の収録曲だ。激しい演奏に応えるように、オーディエンスの動きが大きくなっていく。演奏中、MORIがピックを手にした指をゆらゆらと揺らし、オーケストラの指揮者のように観客の動きを先導しているようだった。
「東京、こんなもんかおい! もっと盛り上がっていこうぜ!!」という煽りから、「Blank paper」へ。この曲も『Lime』(2ndプレス)の収録曲だ。疾走感のあるナンバーが続き、コーラスするHIROの表情も力強くなる。月森もオーディエンス側を指差し、満足げな笑みを浮かべた。
「Blank paper」の演奏が終わると、TAKUMAのベースの音が会場に響き始めた。「Virus『赤と黒と白の定説』」だ。10代の自分の“足りない何か”を埋めるかのように『With…』を聴き漁っていた頃を思い出す。今思うと、この曲を書いた当時のTAKUMAも10代だったはずだ。この曲のようにリアリティのある歌詞が、多くのファンの共感を呼んだのだろう。同時に、wyseの音楽が若かりし頃の自分の良き理解者だったことも思い返さずにはいられなかった。
MORIの印象的なギターから始まる「冷たいベッド」は『Lazy mind』からの選曲。「ありふれた優しさに嫌気が差していたの」と身を悶えさせながら歌う月森は、ただきれいな歌声の持ち主なのではなく、豊かな表現力を持つヴォーカリストなのだと改めて実感する。HIROのギターソロも、歌詞に登場する女性が泣いているかのように感じる切なさを帯びていた。
6曲目は異国情緒の漂う「Swella para Scyallu para Sail」。この曲が収録されているミニアルバム『PERFECT JUICE』はリリース当時、リアルタイムで聴いていたので思い出深い。しかし、当時は今のように気軽にインターネットでライブのチケットを予約できなかったこともあり、同曲をライブで聴くのは初めてだ。「イントロはMORIさんなんだ」「『トゥル、トゥットゥ〜♪』のコーラスはTAKUMAさんだったのか」など、目の前で音を体感するからこその発見があり、ライブならではのおもしろさを肌で感じた。
そして、この日初めてのMCがTAKUMAから。
「wyseです! 『1999-2001』ツアーも今日がファイナルです。限りある時間のなかで、会いにきてくれてありがとうございます。去年の25周年ツアーのあとは未来が見えなくなる……と言うとネガティブに聞こえるかもしれないけど、それくらい全部注ぎ込んだツアーでした。そこで一度、自分たちが歩いてきた道を振り返ってみようと今回のテーマでやってきたんだけど、おもしろいね。当時のおれたちを知っている人は、なおさら、いろいろな思い出が残っていると思う。音が残っているし、そこに香りが存在するような感覚もあると思います。でも、当時のことを知らなくても大丈夫です。今日という日が、未来になっていくとおれたちは思っています。一緒に未来をつくっていきましょう!」
未発表の新曲「紫陽花のころ」
TAKUMAのMCは続く。
「当時、形にならなかった曲があって。このツアーがあったからこそ、その曲たちのことを思い出すことができたと思います。2025年の新曲だけど、当時のおれたちと今の自分たちが共作したような楽曲です。短いツアーではあったけど、各地に来てくれたみんなと大切につないできた音を、東京でも届けたいと思います。当時の僕たちでは完成させられなかったけど、今のおれたちがアレンジしたからこそ、すてきな曲になったと思います。聴いてください。『紫陽花のころ』」
紫陽花が咲いたかのように、照明がステージを青色に染める。ツインギターの音色の重なりが優しく響く、スローなナンバー。きっと、TAKUMAの新曲だろう。隣に座るサトヤスさん(=庄村聡泰/ex. [Alexandros])が足でリズムを取っているのが視界に入り、なんだかうれしくなる。
続けて披露されたのは『DEAD LEAVES SHOWER』に収録されている「Sweet rain」。月森の歌声は、時にどうしてこんなにも甘く美しく響くのだろう。
2ndヴォーカルを担うTAKUMAの歌声も、音源がリリースされた当時よりも優しくなっている気がしてならない。そんな感想への、答え合わせのようなMCがTAKUMAから。
「2025年のwyseの新曲『紫陽花のころ』でした。どうもありがとう! 時間の経過と共にみんなも、おれたちも変化して。大事にしてきたものは変わってないけど、人が変われば出す音も変わる。声も変わるだろうし。そんななかで、wyseはどんどん変化してきたけど、今回は当時リリースした音源のオリジナルテイクに近づけて音を作り直しました。そうすることによって、自分のなかに眠っていたものがどんどん生き返ってくるような感覚があって。それが今回のツアーの大きな収穫です。みんなも今日のライブのこと、どこか一瞬だけでも将来思い出してもらえれば、すてきだなと思います」
その後、TAKUMAが月森に話を振ると、月森は「おれ、バラードの前にめちゃくちゃ煽ったことあるよね。インディーズの頃」と笑いながら話す。すると、TAKUMAがすかさず「当時だけじゃないもんね、去年もあったし。そんなん、いっぱいあるやん」とツッコミ。激しい楽曲からポップな楽曲まで振り幅があるwyseらしく、MCも胸がグッとなる話から笑えるエピソードまで幅広いのがユニークだ。
HIROとMORIの新曲も披露
本編の9曲目は「言葉を失くした僕と空を見上げる君」(『DEAD LEAVES SHOWER』)。先日のwyseのインタビューの時に、サトヤスさんが「この曲を聴くと胃液が込み上げてくる」と話していたので感想を聞いてみたところ、「音源だとフェードアウトしながら楽曲が終わるのに、ライブだとHIROさんのタッピングに変わっていた」と、さすがミュージシャンと思わずにはいられない感想で、彼をからかおうとした自分が少し恥ずかしくなった。同曲では、MORIが客席を見渡しながら微笑んでいた点も記しておきたい。
間髪入れずに「You gotta be」(『the Answer in the Answers』)のイントロが流れ出し、「楽しんでいこーぜ!」と月森。MORIの歪んだギターの音色は「Link」(『ヒカリ【ジャングル大帝Disc】』)を彷彿とさせるものがあり、「あのイントロもMORIさんに違いない」という思いが頭をよぎった。踊るように歌う月森、違うレイヤーで鳴り響くMORIとHIROのギター。TAKUMAと月森の掛け合い。wyseの魅力がこの一曲に集約されているように感じた。
ここで2曲目の新曲「Get Out」がお披露目。MORIの低音の効いたギターの音が聴こえてくるのと共に、ステージが赤く染まる。「これはMORIさんの新曲だ」と直感的に感じた。一体、誰の曲だろうと予想するのは作曲者が複数いるバンドのファンの楽しみの一つだろう。ライブ中、MORIの肩に手を乗せて歌う月森の姿が印象的だった。
さらに、次の新曲「Missing you」が演奏される。ハードななかにもメロディーセンスが光る楽曲で、「オイ! オイ!!」と観客が腕を突き上げながら作曲者であろうHIROのギタープレイに呼応していた。
月森の「楽しいな! 腹から声出せ!!」という掛け声と共に始まったのは「Miss txxx」(『With…』)。ライブの定番曲とあり、オーディエンスのボルテージも加速して高まっていくのを感じた。続く「路地裏のルール」で、盛り上がりは最高潮に。イントロのTAKUMAのベースソロでは、歓声が沸いていた。
また、月森がTAKUMAのベースプレイのマネをするなど、アーティスト側のテンションの高さも感じられた。楽器隊の3人はステージのギリギリまで出てきて演奏。HIROとTAKUMAは至近距離で向かい合いながら楽器を弾き合い、会場の熱気を感じさせた。
熱の冷めやらぬまま「Scribble of child」(『Lime』)へ。枚数限定で販売されていたインディーズ時代の音源が完売していた当時でも、この曲が収録されたオムニバスCDは比較的容易に手に入れることができたので、よく聴いていたという人も少なくないだろう。
一緒にライブを観ていたヴィジュアル博士のるさんが、体を揺らして大きくリズムを取っていると思ったら、その隣にいた同氏の息子くんも手で膝をリズミカルに叩いていて、小学生でも夢中になるリズム、そしてshujiさんのドラムプレイはさすがだと誇らしい気持ちになる。あとは、ギターを弾くMORIの腕の動き! 同性から見ても艶っぽかった。
「最高の時間をありがとう!」という月森の言葉で、この曲が本編のラストなのだと悟る。「あの日の白い鳥」(『DEAD LEAVES SHOWER』)だ。月森が頭上でクラップすると、オーディエンスも高く手を上げる。若い頃、この曲の歌詞で青い鳥にもなり、赤い鳥にもなれる白い鳥を、まだ何者でもない自分と重ねていた。大人になった自分は、今、何色の鳥になったのだろうと思いを巡らす。自分は40歳になったが、できれば何歳になっても、何色にも染まっていない白い鳥のままでいたい。
リリース発表とライブ告知に沸く観客
メンバーが手を振りながらステージ裏へ姿を消すと、すかさずアンコールの声が響いた。しばらくして照明がつくと、大きな拍手に迎えられながら、ツアーTシャツを着たメンバーが登場。アンコール1曲目は「wade」(『wade』)だ。1999年に発売されたデモテープで、wyseにとって最初の音源。始まりの曲と言っても過言ではないだろう。初期衝動の詰まった楽曲は、四半世紀という時を経ても色褪せることなく、会場中を魅了した。
触れたら消えてしまいそうな音色のMORIのギターで、「19回目の夏に僕に見えたものと見えなくなったもの」(『19回目の夏に僕に見えたものと見えなくなったもの』)がスタート。切ないメロディーが、儚い夏の空虚さを感じさせる。同時に、迷い、悩み、もがいていた10代の頃の自分が記憶から蘇る。
まるで、昔の自分と対峙し、受け入れ、許す機会をもらったかのようだ。もしかしたら、ここにいる一人ひとりが、それぞれの楽曲を聴きながら、何かと向き合っているのかもしれない。
MCでは、TAKUMAから今回披露した新曲に未発表の1曲を追加した音源を秋頃にリリースするとの発表があると、今日一番の歓声が。しかし、次の瞬間、ライブハウスが静まり返る。
「12月7日、ここVeats SHIBUYAで最後のライブをやります!!」
頭が一瞬の内に空っぽになり、メモを書く手が止まる。「最後のライブ」という言葉の意味を考えていると、すかさず月森が「今のはヤバイ」と笑う。「“今年最後”のライブです!」とTAKUMAが慌てて言い直した。
「『1999-2001 Complete』という形で、今回のツアーで演奏しきれなかった楽曲も含めたライブをするので、ぜひ来てください!」
TAKUMAは「間違っちゃった」と言わんばかりの顔。照れくさそうに笑う姿は、悪ガキのような笑顔だった。どこか幸せな空気に包まれたアンコール最後の楽曲は「little peace」(『PERFECT JUICE』)。多幸感に満ちたライブは、手をつないだ5人の姿と月森の「どうもありがとうございました!」という感謝の言葉によって幕を閉じた。
終演後の一言インタビュー
終演後、wyseの4人がインタビューに応じてくれた。夜から行われるファンクラブ限定ライブのリハーサル前とあり、10分ほどの時間ではあったが、彼らの熱のこもった思いをここに残しておきたい。今回のツアーを通じて発見したこと、感じたことを4人に聞いた。
HIRO「僕らがライブバンドだということを再確認できました。ライブをしたいという衝動で始めたバンドなので。楽曲も当時のアレンジで臨むことによって、お客さんも当時を再現するかのようにノッてくれて、非常に盛り上がったライブでした。これからもライブを中心に頑張っていきたいです」
MORI「過去の自分たちと今の自分たちをつなぎ合わせるような時間でした。ギター2人の絡みとかは今と昔で全然違うので、そういうところからもいろいろな発見がありましたし。いい時間を過ごせました。過去の自分たちと一緒にライブをしている気持ちが強く、原点は変わっていないことに気がつけました」
TAKUMA「どの曲も、お客さんのみんなが笑顔で口ずさんでくれていて。昔からwyseを知っている人からすれば当時の思い出だったり、当時を知らない人にとっては新鮮に感じたり、いろいろな時間が混ざり合ったようなライブだと感じました。これからも思い出をたくさんつくっていきたいです。それは自分たちのためにも、ファンのみんなのためにも。(「12月7日はラストライブではないですよね?」という確認に対して)違います(笑)。あくまでこのテーマの区切りというだけで。あんなに明るい解散宣言はありません!」
月森「HIROも言っていましたけど、やっぱりwyseってライブバンドだなということに気がつけました。今回のツアー、めっちゃ楽しかったんです。きれいに歌うとか、いい声を届けるとかも大事だと思うんですけど、歌手というよりも“ロックバンドのヴォーカリスト”でありたいなとも再認識できました」
TAKUMA「(ステージ上でずっと微笑んでいましたが、という問いに対して)先ほどの話と重複するんですけど、ファンのみんなが明るい表情で笑いながら歌ってくれているのが一番幸せで。いい時間を過ごさせてもらいました。また次に向けて頑張ります」
この日、オーディエンスからはダブルアンコールの声が。たしかに、聴きたい曲がまだまだある。wyseがわずか3年という短いインディーズ期間において、いかに愛される楽曲の数々を生み出してきたかの証拠でもあるだろう。しかし、しばらくして、ライブの終了を告げるアナウンスが流れた。
大好きなあの曲や、思い出のあの曲は12月7日に聴けるかもしれないという期待を込めて、その日を待ちたい。自分の青春時代はwyseの楽曲群と共にあったのだと、改めて感じさせられたライブだった。
<セットリスト>
01. Feeling(『Lazy mind』)
02. A≦nd Crash!!(『Lime』)
03. Blank paper(『Lime』2ndプレス)
04. Virus「赤と黒と白の定説」(『With…』)
05. 冷たいベッド(『Lazy mind』)
06. Swella para Scyallu para Sail(『PERFECT JUICE』)
07. 紫陽花のころ(※新曲)
08. Sweet rain(『DEAD LEAVES SHOWER』)
09. 言葉を失くした僕と空を見上げる君(『DEAD LEAVES SHOWER』)
10. You gotta be(『the Answer in the Answers』)
11. Get Out(※新曲)
12. Missing you(※新曲)
13. Miss txxx(『With…』)
14. 路地裏のルール(『路地裏のルール』)
15. Scribble of child(『Lime』)
16. あの日の白い鳥(『DEAD LEAVES SHOWER』)
17. wade(『wade』)
18. 19回目の夏に僕に見えたものと見えなくなったもの(『19回目の夏に僕に見えたものと見えなくなったもの』)
19. little peace(『PERFECT JUICE』)
<wyseの今後のライブ予定>
■wyse × fuzzy knot 「Double Helix」
2025/07/26(土)
Veats Shibuya(東京)
【OPEN】17:00 【START】17:30
https://wyse-official.com/2025/04/double-helix/
■wyse Live 2025 『REQUEST』~あなたの好きな曲~
2025/07/27(日)
Veats Shibuya(東京)
【OPEN】15:00 【START】15:30
https://wyse-official.com/2025/04/request/
■wyse Live 2025 『REQUEST』~あなたがライブでテンションの上がる曲~
2025/08/30(土)
HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3(埼玉)
【OPEN】15:00【START】15:30
https://wyse-official.com/2025/04/request/
■CROSS ROAD Fest<DAY2>
2025年11月16日(日)
幕張イベントホール(千葉)
【OPEN】10:30 【START】11:30
La’cryma Christi / PENICILLIN / FANTASTIC◇CIRCUS / SHAZNA / L‘luvia / wyse / Waive / LM.C
https://wyse-official.com/2025/05/cross-road-fest/
■wyse Live 2025 『1999-2001 Complete』
2025年12月7日(日)
Veats Shibuya(東京)
【OPEN】14:30 【START】15:00
https://wyse-official.com/2025/06/complete/
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