埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり旅11 ー東松山市ー

2010年9月第3週
ー東松山市ー(11箇所目)

「やきとり」である。

「何をやぶからぼうに」と思う人もいるかもしれないが、
東松山市は「やきとりの街」とうたっているくらいで、
同市の観光協会のトピックスにも、
「観光ポイント」「季節のイベント」「アクセス」
と並んで「やきとり」があるほどだ。

同市の「やきとり」は、豚のカシラ肉を焼いたものに、
ピリ辛のみそだれをつけて食べるというもの。

なんでも昭和30年代に、
市内の食肉センターであまり使われることのなかった
豚のカシラ肉を消費しようとしたのが、
東松山独特の「やきとり」の始まりだという。

「焼き鳥」ではなくて「やきとり」と表記しているのは、
恐らく、上記のような理由で豚肉を使っているからで、
つまり「肉を串に刺して焼きました」という、
いわば「焼き鳥」という概念的なものだろう。

そして、私はといえば、焼き鳥が大好き。
もう、豚肉でも何でも構わない。
焼き鳥さえあれば幸せだ。最高!

そんなこともあり、東松山市はこの旅を始める前からも、
いつか行こうと決めていた町。

やきとり店がオープンするのは、どこも夕方以降。
それまでは、いつも通り、市内をブラブラすることにしよう。
ああ、楽しみだなあ。

東武東上線「高坂駅」に着いたのは、午後1時30分頃。
「池袋駅」からは50分ほどである。
ちなみに、同市は埼玉県のおよそ中央に位置していることから、
「埼玉のヘソ」とも呼ばれているらしい。

天気は快晴。
絶好の旅日和だ。




毎回、駅の改札を出てから確認するのが、マクドナルドの有無である。
この旅の定説では、「駅前にマクドナルドがあれば、
そこそこ寂れていない」という認識なのだ。

とはいっても、これまで埼玉の各地を旅してきて思ったのは、
どんなに駅前が栄えてそうでも「3分も歩けばどこも同じ」ということだ。

駅前に高層マンションがあろうと、
そこはやはり、全都道府県を対象にした
「魅力度調査」でワースト5位の埼玉県。

少し歩けば、風情も何もない、住宅街しかないのである。
まあ、そんなところでも、ぶらぶらと歩いては、
毎回何かを発見したり、感じたりしていて、
一人おもしろがっているのだけど。

さて、高坂駅はというと、駅前にマクドナルドがある。
アウトレットモールもあるようで、
20~30代のキレイなお姉さんもちらほらいるなど、
思っていたより寂れていない。

何より目についたのが学生の多さで、
近くの案内板を見ると、大学が近くにあるようなのだ。
部活帰りらしき学生の集団を見て、学生時代が少し懐かしくなる。

「その時間はかけがえのないものなんだぞ、大切にするんだぞ」なんて、
初っぱなからセンチメンタルになっている。

最初の目的地は、「埼玉県こども動物自然公園」。
同駅からバスで10分ほどで到着する。
私は動物園には目がなくて、
京王線沿線に住んでいた頃は
「多摩動物公園」によく一人で行ったほど。

動物園のどこにそんなに惹かれるのかは
うまく説明できないが、動物を見ていると、心が落ち着くのだ。
きっと、普段の生活にいそいそしていて、世界が狭くなっているところに、
普段見る機会のない動物たちを「これでもか」と見ることによって、
押し狭まった世界を再び広げているのだと思う。

私が特に好きな動物は、キリンだ。
あの黄色と茶色の奇天烈な模様。
異様に長い首。耳と角の完璧な造形。
均整のとれた、たてがみ。
それに加えて、紫色の舌。

絶妙な違和感とでもいうのだろうか。
……なんというか、美しいのだ。

あとは、カバも好きだ。
あの、ずんぐりむっくりなフォルムに首ったけ。
鼻から口にかけては非常におっさん臭いにも関わらず、
つぶらな瞳がアンバランスでカワイイのもいい。




まあ、そんなわけで、入場券を買って園内に入り、
もらった案内図に目を通すと、そこそこ広そうな感じがする。
園内は大きく「北園」と「東園」に分かれており、
「北園」には、私の好きなキリンを始め、
プレーリードッグ、ミーアキャット、
フラミンゴなどの鳥類がいる。

「東園」にはコアラやカンガルーなど、
オーストラリアの動物がいるとのこと。

ほかにも、乳搾りを体験できる「乳牛コーナー」、
乗馬体験が可能な「ポニー乗馬コーナー」、
レッサーパンダやシロフクロウなどがいる
「小動物コーナー」などがあり、盛りだくさん。

なぜか『ピーターラビット』の作者の資料館もあるようで、
園内にはピーターラビットの着ぐるみがいて、
人もまばらな入り口近くに立ち、哀愁を漂わせていた。
駐車場を見る限りでは、かなりの台数が埋まっていたようだけど……。




さて、体験好きな私は、乳牛の乳搾りをしたいと思った。
次回の乳搾りタイムは午後2時30分からなので、
まずは入り口近くにいるキリンを見に行くことにする。

3分ほど歩くと、視界に「あの長い首」が入ってきた。
キリンを見上げ、しばらくその場に立ち止まる。

そして、キリンを見たまま、ぽけー、とする。
ただ、うっとりと見るだけだ。
家族連れやカップルが次々と立ち止まり、
「おっきいねえ」とか「キリンさんだねえ」と言っては去っていく。




馬小屋を見て、園内の中心に着くと、やきとりの屋台が出ていた。
夕方以降のお楽しみにしようと思っていたが、
昼食を食べていなかったので、
「タン」「ネギ間」「ホルモン」を1本ずつ購入。

お肉の焦げ目、たっぷり塗られた辛みそ、
鼻から食欲を刺激するジューシーな香り
……ぜ、ぜひビールもっ!! と思ったが、
「こども動物自然公園」というだけあってか、
アルコール類は一切なし。

こちらは、本当に夕方までオアズケである。

 


落胆しながらベンチに座ると、視界に入ってきたのは
親子で水遊びできるプールのようなスペース。
小さい子どもが「楽しくてたまらない」
という表情で全身を使って水と戯れている。

そして、それを微笑みながら見守る両親。




口の中のホルモン焼きが、ゴムのように感じた。

どうやら「さびしい」と思ってしまったらしい。
というのも、生後5カ月の息子と妻を置いて、今日の旅に来ているのだ。
ものすごく楽しそうに、幸せそうにしている親子の姿を見て、
言いようのない虚しさを覚えてしまった。

しまいには、「おれだって、家族と来たいし。
でも、これは一人旅っていう企画だし」とモヤモヤして、しょうがない。

気を紛らわそうと、近くの売店で
マンゴー味のソフトクリームを買い、食べ歩きする。

フラミンゴなど鳥類のいるスペースを通り抜け、
乳牛のいる牧場の近くまできた。
ベニヤ板に乳牛の後ろ姿を書いた看板がいくつもあり、
「コッチダヨ」と案内している。




ああ、だれかと一緒なら、
「だらしねえケツしやがって、ぶちこんでやろうか」
なんて冗談を言えるのになあ、と思い、ますます虚しくなる。

結局、牧場の乳牛を見てもテンションは元に戻らず、
動物園を出ることに決めた。

入り口のところまで戻り、
お土産屋で同園の30周年記念カルタを買う。
息子が大きくなったら、一緒にやるのだ。
最後に、もう一度キリンを見て、動物園を後にした。




動物園を出たのは、午後3時前。
このまま帰ろうかとも思ったが、
動物園内にある屋台のなんちゃって「やきとり」を
食べただけというのでは寂しすぎるので、
夕方まで時間をつぶすことにした。

携帯電話で調べると、近くに戦時中の暮らしを紹介する
「埼玉県平和資料館」というのが近くにあるらしい。
そういえば、私の卒業研究は「坂口安吾『堕落論』に見る、
戦後日本の国民性」というテーマで、
太平洋戦争についてはいろいろ調べて興味もあったので、
そこに行ってみることにする。

バス停を探す気力もなく、ゆるやかな坂道を歩く。
ひたすら歩く。

……全然近くないし、途中からは山道になっており、
バイクでツーリングするご一行までいた。携帯電話も圏外だ。
迷子になったら死ぬかもしれない、と思った。
すっかり気が弱ってしまっている。

しかも、天気の雲行きが少し怪しくなって来た。
40分ほど歩いて、同資料館に到着。
タワー状の構造になっており、展望台もあるらしい。




館内では、被爆によって壊れてしまった
当時の暮らしの道具などが展示されており、
いびつな形に変形したガラスのビンは、
爆弾の威力の凄まじさを物語っている。

また、戦時中の一般家庭の暮らしや防空壕を再現しており、
防空壕の中には実際に入ることができた。

狭くて暗くて寒くて、寂しかった。
あんなところに入り続けていたら、
未来も見えないだろうなあ。

  


ほかに、疎開先の息子へ送った
両親の手紙などが展示されており、これには泣かされた。
ダメだ、本当に気が弱ってしまっている。
後日(つまり今)書いている、
この文章までどこか物悲しく感じる。




4時30分で閉館するとのアナウンスが流れたので、展望室へ向かう。
エレベーターを降りると、目の前に広がるパノラマの世界!
……というのは少し大げさだけど、
なんでも関東平野が一望できるとのことで、
海抜は約148mだという。

うん、いまいちピンとこないけど、高いはず。
さっそく望遠鏡を覗いてみると、東京タワー、
新宿都庁、建設中のスカイツリーまで拝むことができた。




江戸時代の権力者がお城を建てた理由がなんとなくわかる。
月並みだけど、見える景色のすべてが、自分のもののように思えるのだ。

それにしても緑が豊かで、
随分な山を登って来たものだ、と思う。
俯瞰(ふかん)で見ると、物事がよく分かる。

なんだって、そうだ。




「高坂駅」までバスで戻り、隣の「東松山駅」へ焼き鳥を食べに行く。
着いたのは午後5時30分。一杯引っ掛けるには、ちょうどいい時間だ。

駅前に出ると、駅舎の全景が見える。
「げっ、どこかに似ているぞ」と思ったら、
同じレンガ造りの「深谷駅」にそっくりだった。

何度も言っているけど、
深谷市の旅は国道をひたすら歩いているばかりで、
寒いし暗いし、つらい思い出しかないのだ。

なんだか、今回も落ち込みながら山道をひたすら歩いたり、
少し似ているような気がする。

レンガ造りの駅がある市は、要注意だ。




駅から1分もしないところで、第1号の「やきとり」店を発見。
そこからほどないところに、もう1軒、また1軒、と
「やきとり」の文字が踊っている。

すごい、さながら「やきとり天国」だ。

扉が開きっぱなしで入りやすかったので、
駅から5分ほどのところにある「松川屋」というお店に入る。




10席ほどのカウンターがある狭い店内には、
古く黄ばんだ紙に「カシラ」「ネギマ」「ナンコツ」など、
マジックで手書きされたメニューが
アルコール類を合わせて10枚ほど貼られている。

とりあえず、瓶ビールと「やきとり」を各1本ずつ注文する。

カウンターには、2席に1つほどの割合で、
東松山やきとりのアイデンティティとも言える
「辛みそ」の入った小さいツボがあり、
備え付けのハケでそれを好きなだけ塗って食べる。

アツアツの「やきとり」に塗られた辛みそからは、
味噌とニンニクの香りが醸し出され、食欲をそそる。
食べてみると、辛みその中の黒コショウが
味をきりっと引き締めていて、しつこくない。

うまい。

動物園の中で食べたものとは、全然ちがう。

斜め向かいでは、「やきとり」を肴(さかな)に、
50代のおじさんらしき3人が
「今年の祭りはどうたらこうたら、
うんたらかんたら」と話している。

手慣れた様子でハケをさっさっ、
とやり、「やきとり」をひょいと口に運ぶ
——常連さんの飲み様・食い様というのは、
見ていて気持ちがいい。

疲れていたのか、瓶ビール1本で酔いが回ってきたので、
ハシゴすることもなく、そのまま帰ることにする。

駅へ向かう道中、また心がモヤモヤとしてきた。
昔は何をするにも一人が好きで、実際それが楽しかったのに、
今回、動物園で言いようもない虚しさに襲われた。
で、この始末である。

成長なのか退化なのかはわからないが、
これが大人になるってことなのかもしれない、
なんて、しみじみ思った。

旅は続ける。

次の場所で自分が何を思うのか、
知りたいと思うのだ。


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