埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり旅10 ー越谷市(後半)ー

2010年8月第3週
ー越谷市(後編)ー(10箇所目)

「南越谷駅」に隣接する、東武伊勢崎線「新越谷駅」に到着。
改札を出て駅ビルの階段を降りると、
阿波踊りの衣装が書かれた顔出しパネルが設置されており、
道行く人たちがこぞって写真を撮っていた。

観光地などによくあるけれど、
あそこから顔を出している人は、なんとなくバカっぽく見える。
あのパネルには、人間の誇りとか威厳とか、
そういうものをフッと消し去る何かがあるんじゃないだろうか。




阿波踊りが始まるまで一時間近く時間があるので、
久しぶりに駅周辺を歩くことにした。

会場近くの道路はすべて歩行者天国になっており、
準備中の屋台がズラリと立ち並んでいる。
近くの個人経営の飲食店をはじめ、ダイエーのような
大手スーパーも特設屋台を組んでいて、とっても賑やかだ。

お祭りのこういう雰囲気って、好きだなあ。
誰もつらそうにしていない場所が存在するって、
すごいことだと思う。




鮮やかな衣装に身を包んだ老若男女が、本番を前に談笑している。
中には、衣装のまま、そこらをブラブラ歩いている人もいて面白い。




しばらく歩いていると、私が以前知っていたお店が
空き地になっていたり、別のお店が入っていることに気がついた。
思い出の場所がなくなるのは、少し寂しい。

でも、自分は長い間、この町で遊ぶことはなかったのだ。
それなのに、「あの頃と違う」なんて、厚かましいとも思う。
きっと、今は別の人たちの思い出が、現在進行形でつくられているのだろう。

そんなことを考えていたら、少しおセンチな気分になった。
思春期に出会った、多くの人たちの顔が走馬灯のように浮かんでは、消えていく。
荒れていたし、きっと、いろんな人を傷つけた。

いけない、いけない。
これでは、『埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり
センチメンタルジャーニー』になってしまう。
とりあえず気を取り直そうと、
ビールとたこ焼きを買って、もぐもぐ食べる。




型抜きの屋台も出ていたので、20年ぶりくらいに挑戦。
金魚の形をしている。成功すれば、500円だ!!
が、複雑に入り組んだ尻尾の部分で失敗。
そういえば、子供のころ、明らかに成功しているのに
「うーん、ちょっと欠けてるねえ。ダメダメ」と
言われてすごい悲しかった記憶がある。

そりゃあ、おっちゃんも商売なんだろうけど、
子ども相手にそりゃないぜ、と言いたい。
しかし、私はもう立派な大人だった。
いや、立派かどうかは分からない。
それに型抜き自体、失敗しているじゃないか。

そうこうしているうちに、太鼓や笛、鉦(かね)などの
「ちゃんかちゃんか、ちゃんかちゃんか」という楽しげな音が聞こえてきた。

阿波踊りが始まったのだ。
駅前の大通りまで戻ると、流し踊りの踊り手たちを
一目見ようと、すごい人だかりが出来ている。

もう、もの凄い人の数である。
そういえば、同祭りのホームページには、
毎年約60万人の人が訪れると書いてあったっけ。

しかし、まったく見えない。
いや、踊り手の腕が上がった時だけ、かすかに見える。
周りでは、少しでも見えるようにと、
植え込みの縁(へり)の部分などに乗っている人が大勢いる。

こういう時、人間は2パターンに分かれる。
意地でも見ようとする人と、どうでもよくなっちゃう人だ。
私は幸か不幸か後者であり、とりあえず腕をギリギリまで上に伸ばして、
ノンファインダーで写真だけ撮ってその場を後にした。




そういえば、ダイエーの特設屋台で売っていた
焼き鳥が美味しそうだったっけ、と思い、
焼き鳥と缶ビールを買いに行く。
ビールはスーパーが売っているだけあって、
200円と安い。

焼き鳥(レバー)を食べながら、
配られていた祭りのパンフレットを見ていると、
ダイエーの近くに特設会場があると書かれている。
しかも、そこでは午後6時30分から
素人参加の「阿波踊り教室」が開かれるのだ。

「“同じ阿呆なら、踊らにゃそんそん”」

前回の旅のリベンジを果たすのだ。
とりあえず、邪魔になりそうな「越谷だるま」を
ダイエー近くのコインロッカーに入れた。

特設会場も混んではいるが、見られないほどではない。
流し踊りとは違い、舞台向けにアレンジした阿波踊りを見ることができた。

場内に響く、「やっとさー、やっとさー」という掛け声。
小学生くらいの子どもから、
還暦を迎えているであろう大人まで、みーんな踊っている。

踊っているグループは、同市やその近隣地域に
籍を置く企業や市役所などの有志メンバー。
中には、踊りのためだけに作られたグループもある。




「秩父音頭まつり」の時にも感じたことだけど、
やっぱり、「どうして踊るのか」が分からない。

地域に踊りが根付いていて、
それをするのがごく自然という感覚がわからない。
みんなが、あまりに素敵な表情をしているから、
私はそれを知りたいのだ。

グループによる阿波踊りのステージが終わり、
「阿波踊り教室」の時間となった。
アナウンスによると、本場の徳島県から
招待された人たちが指導してくれるらしい。

希望者は、さっきまで阿波踊りが披露されていた
スペースまで出て行くのだが、なかなか前に出て行く人がいない。
私もその光景を見て、正直気後れしてしまっている。

「皆さん、恥ずかしがらずに前に出て来てください」という、
アナウンスのお姉さんの声で、人がまばらに集まり始めたので、
私もその中にうまく紛れ込んだ。が、私の後ろには誰もいない。
やっぱり、少し恥ずかしい。

参加者と向き合う形で指導してくれるのは、
50歳くらいに見える男性だ。
ほかにも、その男性の指導に合わせて、
実際に動きを見せてくれる人たちが5人・演奏者が10人ほどいる。

「阿波踊りっていうのは、2拍子なんです。両腕は常に頭の上」




集まった30人ほどがぎこちない動作で、両腕を上げる。
恥ずかしさなども相まってか、どうにもこうにも“サマ”になっていない。
見本となっている人たちは“スッ”と格好よく決まっているのに対し、
私たちは“ぺやっ”という感じで、なんとも情けない擬音が聞こえるようだ。




「太鼓の音に合わせて、右手を下ろし右足を出す。
左手を下ろし左足を出す。その繰り返しです」

ぺやっ、ぺやっ。
私を含め、みんな踊りにキレがないので、
どうしても情けない感じに見えてしまう。
でも、なんだかそれがおかしくって、
一人でニコニコ笑っていた。

「そうそう、みなさん、いいですよ。
男性は、腰を少し落として左右に振ると、もっといいですねー」

ぺやっ、ぺやっ。ぷりっ、ぷりっ。
うんうん、なんだか楽しくなってきた。

「いやー、みなさん素晴らしい。
じゃあ、そのまま私たちに付いて来てください」

そう言って、私たちは1つの列になり、
特設会場内をぐるりと周り始めた。
近くの人たちも、全員ニコニコして楽しそう。

「そうそう、みなさん楽しいでしょう?
もう1周りしましょおー」

ふと後ろを振り返ると、
何十人もの人たちがぎこちない動作で踊っていた。

私は、その光景に少しだけ感動したのだ。

「いやー、みなさんお疲れさまでした。
阿波踊りの楽しさを、少しでも味わってもらえたなら幸いです。
本当にありがとうございました」

みんな、拍手をしていた。カーテンコールみたいだ。
参加した周りの人たちは、なんだか不思議と幸せそうな表情をしている。
秩父郡や今回の旅で浮かんだ疑問の答えが、
ほんの少しだけ分かった気がした。

この後、流し踊りを少しだけ見て、そのまま帰宅。
今回の滞在時間は5時間ほどだった。




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