埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり旅10 ー越谷市(前半)ー

2010年8月第3週
ー越谷市(前編)ー(10箇所目)

埼玉県のすべての市郡を巡る旅も、ようやく10箇所目。
観光地に行くわけでもないのに、
よくまあ飽きずに続いているな、と我ながら思う。

何もないようで、ちょっとした何かがあって、
でもやっぱり他には何もない。
平和で、案外いいと思う。

さて、今回の旅先である越谷市には馴染みがある。
私が生まれ育った市に隣接しているし、
学生時代は通学時の乗り換えで毎日のように
武蔵野線「南越谷駅」を利用していたのだ。
中学生とか高校生の頃は、友人とたまに遊びに来てたっけ。

その「南越谷駅」周辺で、毎年夏になると行なわれている「南越谷阿波踊り」。
当時の私はこれっぽっちの興味も示さなかったが、今では興味津々。
ぜひ見てみたい。当日参加も出来るらしいので、
あわよくば踊ってみたい、とすら思っている。

この変化はなんなんだろう。
でも、1つでも多くのことに興味を持つことが出来れば、
生きるのがその分だけ楽しくなるんじゃないかと思う。
人生が少し楽しくなったのかもしれない、私は。

ちなみに南越谷の阿波踊りは、本場の徳島県・高円寺と共に
「日本三大阿波踊り」の一つに数えられているとのこと。
すぐ近くに住んでいたというのに、そんなことは全く知らなかった。
イベントは午後5時から始まるので、
例によって、それまでは市内をブラブラしようと思う。

越谷市に向かう電車の中で、同市のことを
インターネットで調べていると、とある地名が目に飛び込んでハッとした。

その場所には、私の兄のお墓があるのだ。
大学生の頃に両親とお墓参りしたのが最後で、
それ以降は行っていなかったっけ。
そうだ、兄のお墓参りに行こう。

東武伊勢崎線「せんげん台駅」に着いたのは、午後1時40分頃。
私が住んでいた町も同じ沿線上にあるので、
シルバー×あずき色の見慣れた電車が懐かしい。

まずはお供え物を買わないと、と思い、駅前のミニストップへ。
何を買おうかと思ったが、とりあえず大人になったので、
キリンビールクラシックラガーの350ml缶をカゴに入れる。
このビールは、私たちの父が好きな銘柄なのだ。
1本だけでいいかなと思ったが、少し迷って2本目を手に取った。

ドラマや漫画では、墓に供えたビールの缶に、
自分が持つ缶を「コツッ」とし、故人と乾杯するかのようなシーンがある。
私は、キザなようでそれを少し恥ずかしいと思ったが、
兄と酒を酌み交わしたいとも、純粋に思った。

一緒にお供えする食べ物は、
私が好きなチーズ入りのサンドイッチを買った。
結局、後で食べるのは自分だ。

当日の最高気温は35度。お墓参りに行くつもりで歩き、
熱中症で倒れてしまってはシャレにならないので、駅前でタクシーに乗る。

私一人でお墓参りをするのは初めてだ。
両親はどうしてたっけ、と思い返していたら、
お墓に供える花を途中で買っていたことを思い出した。

「お墓に供える花を途中で買いたいのですが」

タクシーの運転手にそう告げると、
両親がいつも寄っていた店に到着した。
お店のおばちゃんに「お墓に供える花が欲しいのですが、
お墓参りが初めてなのでよくわかりません」という
主旨のことを伝えると、「はいはい」と優しく笑いながら、
花を適当に見繕ってくれた。

包装してくれるのを待っている間に店内をキョロキョロしていると、
お線香を買っていないことにも気がついたので、一緒に購入。
そういえば、数珠もない。
なんて行き当たりばったりなんだろう。

タクシーに再び乗車し、兄のお墓がある霊園へ。
懐かしい景色だ、なんて言うと、自分がどれだけ兄不幸な弟かが分かる。

少しお墓の数が増えているようで、
兄のお墓を見つけられるが少し不安だったけど、
迷うことなく見つかる。
意外と、体が覚えているものだ。

両親がしていたことを一から思い出し、
まずは、買ってきた花を枯れたものと入れ替える。
次にビールとサンドイッチを墓前に供え、
お墓の頭頂部から杓子で水を何度かかけ、線香を焚いた。

一人でも、見よう見まねで出来るものだ。
「もし、罰当たりなことをしていたらすみません」と
心の中で思いながら、自分の分のビールを空けて一口飲む。

今、目の前のお墓に入っている兄は、
私の両親にとって初めての子どもだ。
現在、私には存命の姉と兄が一人ずついるが、
私を含めたいずれも、この兄とは会ったことがない。
生後間もなく、亡くなったからだ。

だから、妙にセンチメンタルな気持ちにはならない。
でも、両親がこの兄に起きた出来事をとても悔しく思っていること、
兄を今でも大事に思っていることは知っているので、
一人の家族として、報告しようと思うことはいろいろあるのだ。

「大学を卒業したよ。結婚したよ。息子が産まれたよ。
おれは編集者とかライターって呼ばれる仕事をしているよ。
このビールは親父が好きなんだよ。
そのサンドイッチはおれが好きそうだから、あとでもらうよ。
家族はみんな元気だよ」

ここで、大変なことに気がついた。
兄の缶ビールのフタを空けていなかったのだ。
一人だけビールをゴキュゴキュ飲んでいた私。
ひどい弟である。

あわてて缶のフタを空け、心の中で「改めまして」と言った。
私以外だれもいない霊園に、乾いた金属音が響く。

サンドイッチを食べながら30分ほど歩き、「せんげん台駅」まで戻る。
新らしい靴を履いているので、足が少し痛い。さて、次はどうしよう。
今回は行きの電車に乗るまで、同市のことを何も下調べをしていなかったのだ。




とりあえず、駅のホームのベンチに座り、
携帯電話のインターネット機能を使う。
同市の観光場所を紹介しているページを見ると、
お寺などの情報がズラリと並んでいる。

これまでに行った埼玉の旅のほとんどに言えることだが、
とにかく観光場所に「お寺」を推している。
それも、かなりのゴリ推しだ。
正直、自分は歴史に詳しくないし、
有り難みもほとんど感じないので、
これからも旅の中でお寺に行くことはないだろう。

となると、あとは名産品巡りである。
名産品を紹介しているページを見ると、
「越谷だるま」なるものを発見。

なんでも、発祥は1713年で「だる吉」という人形師が作り始めたもので、
現在では埼玉県の伝統的手工芸品に指定されているらしい。

「越谷だるま」を購入できる場所を検索して調べていると、
「もっくん」というおもちゃ屋がHITした。
なぜにおもちゃ屋? と思いながらも、
「もっくん」の最寄駅である東武伊勢崎線「越谷駅」で下車。




地図を見ながら3分ほど歩くと、
「もっくん」の名を掲げた平屋を発見。
一面ガラス張りの入り口には、
カードゲームのポスターがびっしりと貼られている。
「遊戯王」「デュエルマスター」「マジックザギャザリング」

——本当にあるのか? 「越谷だるま」。

場違いな雰囲気をひしひしと感じながら店内に入ると、
奥にある「デュエルスペース」と書かれた場所で、
カードゲームに興じる小中学生が20人弱。

「おれのターンね!」「よっしゃ、いいカード来た!」など
微笑ましい声が聞こえてくる。
中には、「はい、攻撃」「はい、トラップカードぉ~」
「はい、トラップ返しぃ~」など、
ちょっと性格の悪そうなやり取りも。

呆気に取られながらも、ふと横を向くと、
数十枚のカードとともにショーケースに陳列された「越谷だるま」を発見。

小中学生たちの遊ぶカードゲームと一緒に並ぶ、伝統的手工芸品。
すごい感覚である。でも、とても面白いと思う。
こういう雑多な、異文化MIXっていうか、“TOKYO”って感じ?
埼玉だけどね。

店員さんに聞いて分かったことだが、
なんでも、「もっくん」の店長と
「越谷だるま」を作る職人さんが親類らしい。
それで、こんなにも絶妙な違和感のあるショーケースになっているのだ。




今回は、白色のだるまを購入。この旅の初回で行った、
坂戸市のだるま市では赤いだるまを購入したので、
紅白のだるまがめでたく家に並ぶことになる。

時計の針は、まもなく午後4時を指そうとしている。
そろそろ、「南越谷阿波踊り」の開かれる会場へ向かおう。


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