埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり旅9 ー秩父郡(後半)ー

2010年8月第2週
―秩父郡(後編)―(9箇所目)

「皆野駅」の改札を出ると、夏祭りらしい
「ピーヒャラリィ~」という笛の音と、太鼓の音が聞こえてくる。
音の方向につられて歩いて行くと、ピンクや浅葱(あさぎ)色の
鮮やかな浴衣に身を包んだ人たちが目に飛び込んできた。




踊りの会場は、歩行者天国になっている道路。
といっても、その距離わずか30mほどだ。
道路には「ここまで踊ってね」という白線が引いてあって、
それまで「あ~、ホイホイっ」と粋な感じで
手足を動かし踊っていた人たちが、白線を過ぎた途端に“素”に戻る。
その光景が、なんだかおもしろかった。

この皆野町は、「秩父音頭まつり」発祥の地。
自分の住む町にそういう伝統が根付いているのって、
どういう気持ちなんだろう。




それにしても、夏祭りらしさが足りない。屋台である。
ビール・たこ焼き・焼きそば……。
周りを見渡しても、屋台が出ている気配はない。
かといって、ここでずっと踊りを見ているのもなあ。

とりあえず、ぷらぷら歩いていると、
スーパーマーケットが駐車場のスペースを利用して、
ビールやら焼き鳥やらを売っている。やった!!
朝からかき氷しか食べていなかったので、お腹がペコペコなのだ。
ビールとたこ焼き、ホタテのバター焼きを買う。
うんうん、このチープな感じがおいしいんだ!!




アルコールの力でちょっといい気分になり、
さらに先に進むと、笛の音と太鼓の音が再び聞こえてきた。
実は、さっきまで見ていた所はサブの会場で、
奥まで進んだ所にメイン会場があったのだ。

会場になっているのは、皆野町商工会所の駐車場。
入り口から駐車場中央にある社(やしろ)まで
花道が敷かれていて、そこで踊りが披露される。
社の上部では演奏をしているほか、
花道での踊りを終えたグループが社の周りで円形になって踊っている。

私はこの日2杯目のビールを片手に、
花道前のパイプ椅子に座りながら踊りを見ていた。

踊っているのは、近隣で活動する自治会やスポーツクラブ・サークルなど。
小学生からご高齢の人まで、数十組のグループが参加しており、
それぞれの踊りの前にアナウンスが流れる。

「私たち子ども○○クラブは、町内で活動をする○○のクラブです。
週に3回の活動をしていて、先日の町内大会では5位に入賞しました。
今日のために精一杯踊りの練習をしてきました。どうぞお楽しみください」

うんうん、お兄さんはちゃんと見てるよ。
なんだか、そんな微笑ましい気持ちになる。

5グループほど見ているうちに、
自分がその振り付けを自然と覚えていることに気がついた。
右手を上げ下げし、足の辺りでポンポンと手を叩く。
私は踊りには詳しくないけれど、
なんというか「静」と「動」みたいな感じ。
日本の“わびさび”って、こういう踊りの中にもあるんだろうなあ。




そういえば、皆野町のホームページには
「流し踊り(当日)参加者歓迎」と書いていた。
しかも、参加者には秩父音頭まつりの
「免許状」がもらえるとも書いてあった。
ぜひとも参加して、免許状が欲しい!! 
これとない旅の記念品になることは間違いない。

そこで、総合案内にいた初老の女性に
「当日参加の流し踊りは何時からですか?」と尋ねると、
「あれ、あったかしら。ちょっと待ってくださいね」との返答。

なんだか、どうしても踊りたくなっちゃった人みたいで恥ずかしい。
5分ほど待ち、女性が戻ってきた。

「今回はないみたいです。ごめんなさい」

「えー、ホームページに書いてあったんですよ。本当にないんですか?」
と聞きたかったけど、「この人はそこまでして踊りたいのか」と
思われるのも癪(しゃく)なので、
「あ、そうなんですね。へへ」と言って、その場を足早に去った。




3杯目のビールを飲みながら、ボーッとする。
会場では、なんとなく中高生の姿が目についた。
浴衣姿だったり、ちょっとオシャレにしてきました、
みたいな感じの格好で可愛らしい。

そういえば、自分もそのくらいの年の頃は、
クラスの好きな子とたまたま会ったらどうしよう、
なんて思ってドキドキしながら祭りの会場にいたっけ。
カッコつけて、ゲームセンターの景品で手に入れた
シルバーアクセサリーなんか付けちゃったりして。
会場にも、そんな雰囲気が少し漂っていた。




午後9時からは花火の打ち上げも
あるみたいだけど、まだ3時間以上もある。
このまま同じ踊りを見てるのもなんかなあ、と思い、
今回はそのまま帰ることにした。滞在時間は、約7時間。

帰り際に聞こえてきた、
幼い子どもと母親の会話が耳に残る。

「お姉ちゃん上手だねー。
ケイちゃんももう何年かしたら、あそこで踊るのよ」

「うん、早くお姉ちゃんと踊りたい」

皆野町の人たちにとっては、
夏にこの踊りを踊ることは、当たり前のことなのだろう。
自分の住んでいた町には、そういうものが
なかったから、不思議な感覚だ。
思春期だろうと反抗期だろうと、一生懸命な子どもたち。
腰が曲がっていても、こなれた動作で踊る高齢の人たち。

この人たちが踊る理由は、一体なんなんだろう。
彼らを突き動かしている感情を共有出来ない自分が、少し寂しかった。

自分が育った町にも、何かあれば良かったのにな。


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