埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり旅8 ー春日部市ー

2010年6月第2週
―春日部市―(8箇所目)

『クレヨンしんちゃん』(双葉社)である。
春日部市は、同作品の舞台になっている町だ。
いつだったかは忘れたが、「野原しんのすけ」の
住民票が発行されていた気がする。

「クレヨンしんちゃん」といえば、
私が小学生の時にアニメ放送が始まり、
今や国民的アニメの一つだ。

ちなみに私は、お酒を飲みながら同作品のアニメを見て、
金曜の夜を過ごすのが大好き。
幼少時代を刹那的に、思いっきり楽しむ園児たち。
「しんちゃん」を見ていると、自分の悩みなんて、
ちっぽけなもののように感じるのだ。

さて、今回の旅の目的は「招き猫の絵付け」だ。
同市には、張り子(木の型などに紙を何重にも張って、造形したもの)で
著名な「玩古庵」というお店があり、
そこで絵付け教室があるというので申し込んだのだ。

私はコレクターと言えるほどではないが、招き猫をよく買う。
家には10匹以上いるし、招き猫の縁(ゆかり)の地へ足を延ばすなどしている。
今回、自分の理想の(しかも、世界に1体)招き猫が
つくれるということで、かなり楽しみである。

電車を乗り継ぎ、東武伊勢崎線「春日部駅」へ。
到着時刻は午前11時、快晴だ。
埼玉の旅で、午前中に目的地に到着したのは初めてかもしれない。
興奮したのか、いつもより早く起きてしまったのだ。
遠足に行く小学生のようだ、と思った。



絵付け教室は午後2時から。
それまでは市内をプラプラする。
そういえば、駅には同市の名産品を展示しているミニコーナーがあり、
「凧(たこ)」が名産品だと紹介していた。

凧——私が小さい頃は、
父がよく土手に連れて行ってくれて、そこで揚げたっけ。
父もずいぶん年を取った。
「春日部駅」は、実家のある駅と
同じ沿線ということもあり、少し感傷的になる。

たまには両親に顔でも見せようか。
いや、急に行くのもなんだか恥ずかしい。
そして、近況を話してご飯でも食べると、
途端にすることがなくなるのもわかっている。
遠くもなく、近くもないと「いつでも行けるし」なんて思って、
結局長い間顔を見せなくなってしまう。

気を取り直して、バスに乗る。
毎年5月に開かれる「大凧あげ祭り」で使用する凧などを
展示しているという「大凧会館」へ行くのだ。

バスの窓から流れる景色を眺めていると、
「ロビンソン」という百貨店が見えた。
この名前には、聞き覚えがある。

小学校の時の男性の担任が
「春日部のロビンソンにはなんでもあるんだ。
すごい大きいお店なんだぞ」とよく言っていた。
母にその話をしたら、「あそこには、なんでもあるのよ」と言っていたっけ。
どうやら、ロビンソンとは、この界隈では有名な百貨店のようだ。
時間があったら、後で寄ってみよう。

バスに乗り、30分ほどで最寄りのバス停に到着した。
駅前こそ多少賑やかだったけど、
車で30分も走ると、さすがにうらぶれている。
屋根が低くて、江戸時代の町並みのようだ。
凧の絵が書かれた看板が目に入る。
絵の上には「大凧会館」の文字。

大凧会館は、大きい。建物その物も大きいが、
周りの駐車場らしきスペースが半端ない。
まるで、城下町を備えたお城のようだ。
ローカル臭がぷんぷんする。




敷地内はやけに静かだ。駐車場にも車は一台も止まっていない。
本当に営業しているのか不安になる。
恐る恐る、ガラス戸越しに中をのぞくと、
初老の女性が笑顔で会釈をしている。
良かった、営業していた。

女性からパンフレットを受け取り、
館内の説明を少し受ける。
どうやら、3階に展望室があるようだ。

中に入ると、「大凧あげ祭り」で揚げているという
巨大な『百畳敷きの大凧』が否応無しに目に入ってくる。でかい。
大凧が飾ってある最初のフロアーは、
3階分ほどの高さまでぶち抜きになっているほどだ。
加須市のジャンボ鯉のぼりを思い出した。
ほかにもスタンダードなタイプものからユニークなものまで、
多くの凧が展示されていた。

3階の展望室は見晴らしはバッチリだけど、角度が狭くて窓が汚ない。
空が薄暗く見える。市内の観光スポットとして設定しているんだから、
もう少しメンテナンスするべきだと思う。
看板だって、どうせなら本物の凧を使えばいいのに。

帰りに、受付のお土産コーナーに売っていた、
30cmほどの「ミニ大凧」(どっちだよ、とツッコミたくなるネーミング)を
記念品に買おうかと思ったけど、
今回は絵付けする招き猫が記念品になるのでやめた。



バス停へ戻る途中に、土手を発見。
私は土手や階段を見ると、どうしてもそこへ行ってみたくなる。
向こう側に何があるのかを考えると、ワクワクするのだ。
向こう側の景色はただの平地だったけど、
凧を揚げている人がいて、凧の町なんだと少し実感した。

私以外の乗客がいないバスで「春日部駅」に戻り、
駅近くにある「ヤマヤ食堂」へ。



食べ物の名産がない同市に彗星のごとく現れたという
B級グルメ「春日部やきそば」が食べられるのだ。
メニューにも、「春日部名物 限定20食」と書いていた。
あんかけをかけた固焼きそばの上に、同市の花である
「藤」をイメージした紫蘇のふりかけがかかっている。
味はB級グルメそのものだったけど、こういうものがあると、
その町に行く楽しみが増えるので嬉しい。

その反面、観光地でもないところで、
こういうものを食べるのは少し恥ずかしい。
「春日部、旅してます」と宣言しているような気がするのだ。
しかも、私は首からカメラをぶらさげていて、完全に「観光客」の出で立ち。

普通の町なのに。
恥ずかしがっていても仕方がない。
旅なんだから楽しく行きたいと思い、
景気付けにビールを飲んだ。



再びバスに乗り、絵付けを行なう「玩古庵」へ。
店内に一歩入ると、無数の招き猫がお出迎えしてくれた。
サッカー日本代表のユニフォームを着たものや、
野球チームの阪神のユニフォームを着たものなど、
さまざまな絵付けをした招き猫が所狭しと並んでいる。
絵付けの参考になりそうなので、じっくりと見ておく。

時間になり、絵付けを行なうスペースがある2階へ移動する。
私を含めて10人ほどが参加しており、
親子で参加する人や、まだ20代らしき若夫婦、
女性同士(30代前半くらい)で参加する人などがいた。

絵付けは、あらかじめ用意された張り子の白い招き猫に、
好きな柄を描いていくというもの。
右と左、どっちの手を挙げているかは選ぶことができる。
私は、人を招くと言われている「左手」を挙げたほうを選んだ。
ちなみに、右手は金運だ。



長机に絵の具や筆など、道具一式が置かれている。
絵の具を使うのなんて、中学生以来だ。
失敗したら、取り返しがつかないので、慎重に筆を進めていく。

隣にいた女性たちはすでに何度も来ているようで、
見本で置かれている招き猫とそん色ない仕上がりになっていた。
私は結局、時間いっぱいの90分ほどで作業を終えた。
周りの人たちが、私の招き猫を見て笑う。

「煩悩(ぼんのう)の固まりじゃないですか」



帰り際、お店で気に入った粘土細工を買って帰路につく。
風が心地よくて、駅まで歩いて帰った。
真っ直ぐに伸びる道から見える、夕焼けがきれいだ。
滞在時間は約6時間。

結局、ロビンソンには行かなかった。
私が子供だった頃の大人たちが「すごい」と言っていたものに、
大人になった自分がなんらかの評価を下すのが嫌だったのだ。




気づけば、私も今年で26歳。
駅の階段からふと空を見ると、
ビルの看板には昔と変わらぬ「しんちゃん」がいた。

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