埼玉県ゆるゆる全市郡ひとり旅4 ー深谷市ー

2010年2月第1週
ー深谷市ー

旅の4箇所目は、深谷市だ。
いつもなら、ここで思い出エピソードを
語っているところだが、今回は何もない。

というか、何も知らない。もちろん、行ったこともない。
市のホームページを見ると、ネギが有名らしいということがわかった。
あとは、こけしと能面、瓦(かわら)が名産品とのこと。

こけしと能面! 
私の好きな民芸品である。
毎回の楽しみにしている記念品は、決定だ。
瓦は飾るわけにもいかないので、当然スルーである。

この週は、深谷市に行くことだけは、なんとなく決めていたのだが、
撮影や原稿の〆切に追われていて、あまりリサーチをしていなかった。
しかし、調べてみると、駅舎内に観光協会があるようなので、
「当日、観光協会で聞けばいいや」と思い、出発することにした。
大抵、いつもこんな感じで行き当たりばったりである。

しかも、起きるのが午前10時過ぎで、正午過ぎに現地に着く。
毎回、「午前中に着きたい」と思うのだが、
たまの休日くらい、ゆっくり寝たいとも思う。
案の定、この日も11時に起床した。

急いで着替え、朝食も取らずに出発。
今回も大宮駅を経由するのだが、
先週の北本市よりも、さらに群馬方面へと進む。
というのも、深谷市は埼玉県でも最北の地域に部類しており、
群馬県に隣接しているのだ。
ちなみに、池袋からは、1時間30分ほどかかる。


前回に続き、大宮駅で朝食とビールを購入。
今回は、「赤いソースのカツサンド」を食べた。
パッケージには、やはり、汽車のイラストが描いてある。
「旅っぽい」という、それだけの理由で購入した。
発泡酒ではなく、ビールを選んだのは、
なんとなく贅沢している気分になるから。
いつもは発泡酒を飲んでいる。

先週のように、いい気分になって
乗るべき電車を間違えるのもご免だが、
今回は、前日に降った雪のせいでとにかく寒く、
まったく酔えなかった。

雪化粧した平野の中を、電車ががたんごとん、と進んでいく。
前回と同じ景色のはずなのに、別世界のように感じる。
キレイではあるが、寒い。
さっき飲んだビールが、早くも膀胱を刺激する。
しかし、先述したように、深谷市は埼玉の北部である。とにかく遠い。
大宮駅からの45分間、気が気でなかった。
もう、乗車前にビールを飲むのはやめよう。

午後2時、「深谷駅」に到着した。
改札を出て、右手すぐに観光協会があった。
オススメの観光地などを教えてもらおうと思ったが、人がいない。
しかも、電気がついているのは、入り口付近の部屋半分だけ。
とりあえず、置かれているパンフレットを拝借しようと
奥に進むと、若い女性事務員が一人いた。
視線を机に落としており、私のことは見ようともしない。

「あのー、オススメの場所ってどこでしょうか?」

今のは、心の声である。
彼女は、「話しかけるな」という
オーラで部屋全体を包み込んでいた。
接客カウンターの前に置いてあるパンフレットを見て、
存在を必死にアピールする私。
若い事務員は、だんまりを決め込んでいる。
どうやら、積極的に市を案内してくれる雰囲気ではない。
結局、置いてあったパンフレットをすべて手にして、観光協会を後にした。




パンフレットを見ると、深谷で育った牛
「深谷牛」が名産ということがわかった。
しかし、食べられる場所が「大宮」と書いてあったので、
深谷牛を購入できるという物産館へ行くことにした。
また、物産館のすぐ近くには深谷牛の振興協議会もあるので、
市内で深谷牛を食べられる場所を教えてくれると思ったのだ。
あとは、こけし・能面を記念に購入する。
もう、深谷市はそれだけでいい―寒空の下、歩き始めた。

駅の階段を降りると、ロータリーがある。
マクドナルドもあり、とりあえず安心する私。
ほかにも、全国チェーンの居酒屋や牛丼屋があり、
マンションも3棟ほど建っている。

深谷市は安心できそうだ。人がちゃんと歩いている。
まずは、駅から近い方にある、こけし・能面のお店から行くことにした。

ロータリーを出ると、一気に雰囲気が変わった。空が広い。
赤褐色にさびた看板と閉まったシャッターが至る所で目に付く。
ハッキリ言う。うらぶれている。

しかも、パンフレットをよく見ると、
こけしと能面を売っているのは、眼鏡店なのだ。
私はこれまで、こけしを売っている眼鏡店を見たことがない。
無論、眼鏡を売っているこけし店も見たことがない。どういうことだろう。




うらぶれた町中を歩いていると、目的地に到着した。
どこからどう見ても、眼鏡屋である。
「こけし」「能面」といった文字は、見当たらない。
「メガネ」と書かれたノボリが風に揺れている。
何度もパンフレットを見直したが、
間違いなく、このお店で合っている。

意を決して、中に入った。店内には誰もいない。
そして、当然のことながら、店内は眼鏡だらけである。
14帖ほどの、決して広くない店内を一周する。

メガネしかない。
話が変わるが、編集者の作業の中には、
「校正」という、誤った情報が記事内にないかを確認する作業があり、
正しい情報を提供するために、何度も確認作業をする。
要は、念のため、もう2周したのだ。

店内では、スタンダードなフレームを始め、
老眼鏡や近視鏡など、たくさんの眼鏡が売っていた。
……ちがう。私は、眼鏡を買いにはるばる深谷市までやって来たのではない。

呆然と立ち尽くす私。すると、奥から40代とおぼしき男性が出てきた。
「・・・・・・目、悪いわけじゃないです、よね?」
こうして思い返すと、なんとも失礼な言い草だと思うが、
いわゆる「若者ファッション」の青年がうらぶれた街の小さな眼鏡屋で、
ぼーっと立っていたのだ。不審に思っての発言だろう。

事情を話すと、カウンターに案内してくれた。
カウンターの陳列ケースには、眼鏡に混じり、
5cmほどの能面のブローチが飾ってあり、
店の奥には、こけしが飾られていた。
なんでも、能を以前にやっていたことが高じて、
眼鏡屋の店主をする傍ら、能面をつくり始めたらしい。

よく見ると、こけしの顔にも能面が付けられている。
「能面こけし」というもので、同じく店主が考案し、
つくりだしたところ、市の工芸品として紹介されるようになったという。
少々不気味な気もするが、物珍しさも手伝ってか、とても魅力的に感じた。

値段を見ると「¥333,600」。能面は「¥59,800」だ。
桁が一つ多いのではないかと目を疑ったが、
それぞれ、店主が丁寧に一つずつ手作りしているとのこと。

店主は、同市に目立った工芸品がないことを嘆いていた。
確かに、自身の能面やこけしも、市にゆかりがないことや、
お土産としては高価すぎることなどから、
観光地としての同市において工芸品として呼べるのかは疑問だ。
それでも、店主は深谷市を盛り上げようと、
市の商工会と土産品開発などの話に加わるなどし、
観光地としての付加価値を形成しようと奮闘しているようだった。

「実際にお店まで見に来てくれたのは、初めてだよ」と
嬉しそうに話してくれた店主さん。
能面とこけしは買えなかったけれど、
「深谷まつり」というシールの貼ってある、
木製の根付けのようなものを購入した。
能面こけしがリーズナブルな価格で商品化されればいいな、と思う。
そうしたら、また深谷市に来よう。
観光協会で出てきた、腹の虫は収まっていた。




お店を出た後は、深谷牛を求めて「物産館」と「振興協議会」へ。
延々と続くアスファルトと雪の残る畑しかない、
殺風景な国道を一時間以上歩き、物産館へ着いた。
駐車場を見ると、車が一台も止まっていない。
心なしか、遠目から見える店内も暗い。

定休日だった。
振興協議会の事務所は撤去したのか、存在しなかった。
私の心もうらぶれた。




帰路は、寒い、暗い、空しいの三拍子。
しかも、道が狭く、やたらとクラクションを鳴らされる。
くじけそうだったので、ZARDの「負けないで」を
リピートで聞きながら、駅へ向かって歩き続けた。

「負けないで ほらそこに ゴールは近づいてる」

さながら、気分は24時間マラソンのランナーである。
会ったことのない読者の顔が脳裏に浮かぶ。
大げさなやつだ、と我ながら思ったが、
そのくらい、つらい道中だった。




午後6時過ぎ、深谷駅前に到着。
「今回はもう帰ろう。深谷牛も食べられなかったし、
歩いてばっかだし、最悪だ」と思っていたが、
駅前の個人経営らしき飲食店「土竜」(もぐら)の
ポスターに「深谷牛」の文字を発見! 
灯台下暗しとは、このことである。
最初に来た時には気付かなかった。

間接照明のやわらかい光が印象的な洒落た店内に入り、
「深谷牛のたたき」と「ハイボール」を注文。
深谷牛は、とろけるような柔らかさと甘さで、とても美味しかった。
何はともあれ、目的は達成である。良かった。




国道を延々と歩くのは、もうイヤだ。
景色も代わり映えしないし、なにより、人がいなくて寂しい。
今回の旅なんか、国道では誰一人としてすれ違わなかった。
すれ違うのは長距離トラックばかりである。
「道」だけじゃなく、「街」も歩きたい。

次回の旅はどこに行こう。
まだ、決め兼ねている。





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