編集部インタビュー

WEB作家の起用(※)、全話無料公開、読者参加型システムなど、
既存のコミックサイトや漫画誌と異なる特徴を持つ「裏サンデー」。
同サイトが独自のシステムをいくつも備える理由や、
今後の展望などについてお伺いしました。
話し手は、同編集部の石橋和章さんと小林翔さんです。

※本サイトで指す「WEB作家」は、出版社などが運営するコミックサイトで執筆している作家ではなく、プロデビューを目指す個人や、趣味で描いた漫画を自身のWEBサイトなどで公開している人とする



石橋和章(いしばし・かずあき)
「週刊少年サンデー」「裏サンデー」編集部所属。「裏サンデー」での担当作品は『ゼクレアトル~神マンガ戦記~』(原作:戸塚たくす、作画:阿久井真)、『モブサイコ100』(ONE)。「週刊少年サンデー」では、連載中の『マギ』(大高忍)の担当を務めているほかに、『神のみぞ知るセカイ』(若木民喜)の立ち上げ時に担当を務めた。


小林翔(こばやし・しょう)
「週刊少年サンデー」「裏サンデー」編集部所属。「裏サンデー」での担当作品は『ヒーローハーツ』(春原ロビンソン)、『ケンガンアシュラ』(原作:サンドロビッチ・ヤバ子、作画:だろめおん)。「週刊少年サンデー」では、『BUYUDEN 武勇伝』(満田拓也)、『はじめてのあく』(藤木俊)の担当を務めている。


掟破りの無料WEBコミックサイト

――無料WEBコミックサイト「裏サンデー」が、さる4月18日にオープンしました。「マンガをもっと自由に楽しめないのか? マンガをもっと自由に発信できないか? マンガをもっと自由に作れないか? 漫画界のルールと伝統をぶちこわす掟破りのコミックサイトを始めます。」という“決意表明”がありましたが、「裏サンデー」と既存の漫画誌・コミックサイトとの違いから、まずは教えてください。

石橋 一つは、すべての連載陣がインターネット上で
漫画作品を発表してきた「WEB作家」だということです。
もう一つは、既存の媒体と比べて作家が媒体づくりに密に関わっていることですね。
連載作家には、企画段階から会議に参加してもらい意見を取り入れました。
彼ら自身、漫画の発表を通してWEBサイトを運営してきた人たちなので、
その意見は本当に参考になりました。

小林 「裏サンデー」は、僕たち編集者が考えた
「読者を巻き込んだWEB漫画サイトをつくりたい!」という土台に、
作家のアイデアを多く取り入れてできたコミックサイトです。
WEBで作品を発表してきた彼らは「どういう見せ方で読者に届けたら
楽しんでもらえるのか」について、僕らより知識も経験もあります。
中でも『ゼクレアトル』の戸塚たくす先生の意見・アイデアは大きいですね。

石橋 ある意味、彼は「裏サンデー」のブレーンですから(笑)。

小林 話を戻すと、サイト内のコメント欄や
Twitter(ツイッター)などのSNSを通じて、読者と作家の交流の場を
設けている点も他のサイトとの大きな違いだと思います。
これは、小学館が兼ねてから展開しているコミックサイト
「クラブサンデー」にもなかったシステムですし、
このように読者とのリアルタイムな交流ができるのは
WEBでしか出来ない強みなので取り入れました。

石橋 各作品の人気ランキングやコメント数を、
数字という目に見える形で公開していることもそうです。

小林 「裏サンデー」では、おもしろいと思った作品に
“票”を入れることができて、それを元にした人気ランキングを発表しています。
その票数を公表することで、「自分の好きな作品のランキングが上がるとうれしい」
「投票して作品を盛り上げていける!」という、
参加する楽しみを実感できると思うんです。

あとは、漫画を読む立場からしても、紙媒体ではランキングを
公表していないから気になるじゃないですか……(笑)。
なので、順位は目に見えたほうがいいな、と思って。
作家からも「作品の順位が公表されるのは緊張感があるけど、
いい刺激にもなる」という声があがったので、このシステムができました。

石橋 あとは、読者はもちろん、作家や企業など、
いろいろな方々と連動して「裏サンデー」を盛り上げていきたいですね。
例えば「ニコニコ静画」さんで「裏サンデー」作品の一部が
見られるようになっているように、今後さまざまな媒体との
コラボレーションも積極的に行っていければと思います。


5月26日には、公式サイト上でファンアートの募集を開始


「現状のシステムは作家のリスクが大きすぎる」
「裏サンデー」が目指す作家像の象徴

――「漫画界のルールと伝統をぶちこわす」という点では、個人的にはWEB作家の起用が最も特徴的だと感じています。「裏サンデー」の連載陣が、商業誌での連載経験がほぼない作家に特化しているのは、どうしてなのでしょうか。

石橋 彼らは「裏サンデー」の目指す漫画家像の象徴なんです。
「裏サンデー」を立ち上げた初期動機として、
現在の商業誌における「漫画家になるため」「連載作家になるため」のプロセスに、
僕や他の裏サンデー編集部員が抱えていたジレンマがあげられます。
結論から言えば、現在のシステムはデビューや連載に至るまでの
作家のリスクが大きすぎると思うのです。


――リスクというのは、具体的にはどのようなことを指すのでしょう。

石橋 私は、これまで約12年にわたって漫画誌の編集者として
働いてきましたが、漫画家になること・漫画家であり続けることが、
いかに過酷であるかを見てきました。

まず、漫画家になるためには、読み切り作品を編集部に持ち込むか、
新人賞を受賞する必要があります。そうして担当の編集者が付いた後は、
本誌の増刊号や出版社が運営するWEBコミックサイトに読み切り作品を掲載して、
アンケートなどの結果が良かった場合に連載へとつながる。


――というのが、現在の通常のプロセスです。つまり、読み切り作品で結果を残さなければ、先はないんですね。

石橋 そうです。
ただ、読み切り作品をつくるというのは、とても難しいことなんです。
作品の世界観やキャラクターを1から緻密に構築しなければなりませんから。
実は、連載作品を立ち上げるのと、手間はあまり変わりません。
僕の経験上、たった30数ページの読み切り作品でも、
構想から数えれば半年以上の時間を要するものです。

となると、一年で完成できる読切はせいぜい2本ぐらいですね。
それすら多くて、アシスタントをやりながら描いていると年に1本描ければ上出来です。
連載を獲るためには、そんな数少ないチャンスをものにしなければならないんです。

最初の内から、読者の高い評価を得て連載枠をつかめるような
「天才」なら別ですが、そんなに甘いものではありません。
苦しみながら新しい読み切りを何本もつくり続けて年月だけが過ぎ、
『結果が出ない』と漫画家を辞めていく人がほとんどです。


――「漫画家であり続けることの過酷さ」とも仰っていましたが、何年か掛かって連載にこぎ着けた場合でも、成功が約束されているわけではないということですよね?

石橋 読み切りと連載では、作品のつくり方が少し異なるんです。
読み切りだけをつくってきた作家が初めて連載作品をつくるわけですから、
結果が出ないことのほうが多い。そして打ち切られる。
そうなると、また読み切りからスタートしなければならない。

もちろん、年月とともに作品をつくる力は成長しているので、
比較的次の連載にもつながりやすいのですが、
それもダメだった場合、その作家は何歳になっているんだろうと。

成功した漫画家さんの中には「そういうものでしょ」と思う方も
いるかもしれませんけど、僕も30歳を過ぎた漫画家の方から
「これからどうしよう」という相談を、何度も受けてきました。

でも、残念ながら、編集者にはどうすることもできないんです。
何年も付き合って来た作家さんと、このような別れ方をするのはつらいことです。
現在のシステムだと、「漫画家として生きていけるかどうか」の判断が出るまでに、
とても時間が掛かってしまう。そんな現状は、できる限り変えていきたいんです。

小林 それに加えて、最近は漫画誌が乱立したこともあって、
コミックスの売り上げがいい作品・そうでない作品の格差が広がってきています。
書店の面積は限られているため、人気作は大々的に置いてもらえますが、
そうでないものは置き場がない。そのため、読まれない作品が増えて、
作家の生活も以前に比べて厳しくなってきていると思うんです。
そうなると、漫画家の仕事を続けられなくなってしまいますよね。

石橋 そこで僕たちが考えたのが、漫画家になる・連載するまでの
プロセスをできるだけ短縮できる場所をつくることだったんです。
「読み切り経験なし、受賞経験なしでもOK。才能ある人がすぐに連載できる場所」
――それが「裏サンデー」のコンセプトの一つでもあります。


――それは、現在の「裏サンデー」作家陣の顔ぶれが証明していますね。特に『ヒト喰イ』原作のMITA(ミタ)さん、『ケンガンアシュラ』原作のサンドロビッチ・ヤバ子さんが顕著な例です

石橋 そういう意味で、彼らは裏サンデーが目指す
作家像の象徴なんです。現在の状況を変えるには、
「読み切り必須」という既存のプロセスを経ていない作家でも
おもしろい連載作品が描けるんだ、ということを
僕たちが「裏サンデー」で証明していかないといけません。

中には、連載作品をつくる才能がある人でも、
読み切り作品をつくるのが苦手で、
その才能を発揮することなく業界を去る人もいますから。


――「裏サンデー」では、いわゆるアマチュアの方でも参加できる、WEB漫画の投稿システムを実装する予定だというお話も聞いています。

小林 「裏サンデー」は、作家の方たちにとって
可能性があふれる場所にしたいんです。
例えばアマチュアの方が投稿した漫画作品が
読者の間で一定以上の人気を得るようになった時点で、
その作品をコミックス化したり。

またはPV数に応じた広告料金や原稿料を支払うなど
「作家にとってメリットがある創作の場」にしたい。
まあ、あくまで構想段階の話ではありますが。
あとは、作品を投稿すれば、いきなり「連載」や「プロデビュー」を
狙える仕組みもつくりたいんです。

既存のプロセスでは連載までに何年も掛かった道に、
数日でたどり着けるかもしれない——そんなサイトを構想しています。
なるべく早く実現できるように、準備しているところです。

石橋 あらゆるリアクションに対してのスピード感が違うよね。
それはWEBならではの強みです。

小林 WEBは基本的に制限がなく、どんどん作品を世に発表できる媒体ですからね。
描きながら読者の評価がリアルタイムで返ってくるというのも
作家にとってのモチベーションにつながると思います。

何より、これから漫画家になりたいという人たちに
これまでとは違うプロデビューの道や、
早くから大ヒット漫画をつくれる可能性のある場所を用意したいんです。
「世の中に面白い漫画作品を増やすこと」こそ、僕ら漫画編集者の本望ですから。

石橋 そのためにも、まずはユニークユーザーをどんどん増やしていこうと。
現状の「出版社が提供する作品を公開している」という点では、
そこまで大きな違いはありませんから。投稿システムを備えた時に、
真の意味での「掟破りのコミックサイト」になると思っています。


MITAさんとサンドロビッチ・ヤバ子さんのコメント


“おもしろい漫画”で、読者・作家・出版社をより幸せに

ーーここまでは、主に作家との関係についてお伺いしましたが、読者にとって「裏サンデー」がどのような存在になってほしいとお考えでしょうか。

石橋 「裏サンデー」では平日のほぼ毎日、作品を更新していますが、
それらの漫画が読者にとっての生活の糧になってほしいと思っています。
これは個人的な話になりますが、僕、漫画がすごい好きなんですよ。大好きなんです。

早朝、コンビニに漫画誌が並ぶのが待ちきれなくて、
うずうずしながら起きているほどで。

名前を出してしまいますけど、月曜は「ジャンプ」、火曜は「イブニング」、
水曜は「サンデー」と「マガジン」、木曜は「チャンピオン」、
金曜は「ヤングアニマル」etc. それらを読むのが本当に楽しみなんです。
僕にとっての生きる糧というか。そういうものがあると、
毎日を楽しく幸せな気持ちで迎えられるじゃないですか。

小林 平日は仕事や学校がありますよね。
頑張らなければいけない毎日の楽しみにしてもらえればと思います。

元々、「サンデー」の名前の由来は、
「読めば、毎日が日曜日のような気分になれる」というもの。
「裏サンデー」が月曜から金曜まで更新することによって、
毎日が休日のように待ち遠しい日になればうれしいです。

石橋 そのためにも、連載本数をもっと増やしたいと考えています。
現在は各曜日とも1作品ずつの更新ですが、
将来的には10~20本の更新を目指したいです。
そうすれば、曜日ごとに漫画誌1冊を読んでいるくらいのボリュームになるので。


――そのための課題となってくるのは、マネタイズの問題ですよね。多くの連載作家を抱えることになった場合、その分のお金が必要になります。売り上げを立てる方法は、どのように考えていますか?

石橋 最初は連載作品のコミックスの売り上げのみで考えています。
まずは今後、コミックスの売り上げがどの程度になるかを把握する必要がありますね。
黒字になれば、その利益を新たな連載作品を起こすことに投資していきたいです。

裏サンデーのシステム上の運営コストは、紙媒体は当然として、
他のWEBコミックサイトと比べても低いですが、『裏サンデー』では、
『週刊少年サンデー』と変わらない原稿料を作家にお支払いしていますので
マネタイズは必須です。コミックス化以外の道も模索中です。


――将来的に、課金システムを導入する予定はありますか?

小林 まったくない、とは言いませんが、
作品を無料で読めるという点はブレないと思います。
今のところ、過去に公開したものは
すべてアーカイブとして読めるようにする予定です。
課金を主たる売り上げにしようとは考えていません。

構想段階なので詳しくはまだ言えませんが、応援したい作家のために、
読者がいわゆる「投げ銭」をできるような機能をつけて、
作家に還元できる形を目指しています。


――最後に、お二人が考える「裏サンデー」の展望を教えてください。

小林 おもしろい作品を一つでも多く世に出して
“WEB漫画”が世の中に広まる起爆剤にしたいと思っています。
あとは、まだ先の話だと思いますが、
WEB媒体の強みを生かして海外の読者も集めたいですね。

あまり資源のない日本にとって“漫画”は世界に通用する貴重なコンテンツです。
だから将来「裏サンデー」作品を海外向けに翻訳してビジネス化できれば、
国内だけではない大きな市場で売り出すことができ、日本全体が潤うはず。
その土台づくりを「裏サンデー」でできればと思います。

大きな目標ではありますが、おもしろい漫画はみんなを幸せにする
可能性を秘めているんです。

石橋 イラストや漫画などの投稿サイトを見て思うことですが、
日本の若い人の画力レベルは世界に比べても高いと思うんです。
でも、それを生業にしようと思ってできている人はごく一部。
「裏サンデー」では、おもしろい漫画を描ける人が読者を楽しませる対価として、
しっかり暮らしていけるだけの収入をなるべくスムーズに
得られる環境をつくりたいんです。

少なくとも「漫画家を目指して不幸になった」と思うような人が出るのは防ぎたい。
そのためにも「裏サンデー」独自の連載プロセスを、
今後、確立していく必要があります。

あとは、漫画業界の調子が一時と比べて良くないので、
ITの力を最大限に生かしてもう一度成長産業にすることが漫画誌編集者、
ひいては会社員としての役目だと思っています。

とにかく、読者・作家・出版社のすべてが、より幸せになれれば。
「裏サンデー」立ち上げ時の編集部員5人は、
その環境をつくるために集まった有志です。

近い将来、現在の連載陣から大ヒット作が生まれて、
「自分もあの先生のように裏サンデーでデビューしたい」と
漫画家志望の方に思ってもらえるような媒体になれば最高です。

> 企画TOPに戻る